伯爵邸での新しい仕事②
読んでいただいてありがとうございます。
イラーリオに案内されたジェントーレ伯爵邸という名の宮殿っぽい建物はほぼ仕事専用の屋敷らしく、伯爵家の人間は敷地内の奥にある別の屋敷で暮らしているそうだ。
「それだけでもとんでもないんですが……」
「うちは大勢の人間が働いているからね。でも、王宮ほどじゃないだろう?」
「人数は確かに王宮の方が多いのかもしれませんが、こっちの方が煌びやかです」
屋敷の廊下を歩きながら、カメーリアは素直な感想を言った。
国の顔である王宮も煌びやで豪奢な雰囲気をだったが、こっちもすごい。
白色を基本にしているのだが、ところどころに配された鮮やかな青色が美しく輝いている。
それに何より、何気なく飾られた装飾品の数々。
本当に、これを掃除するのが怖い。
「宝石伯爵の名に恥じないようにしたらこうなっただけで、俺自身はここまで煌びやかな趣味はしてないよ」
飾られた装飾品の一つ一つが輝いている。
額縁に入れられて壁に飾られているネックレスなんて、初めて見た。
誰かが身に着けるんじゃなくて、こうして壁に飾られるなんて、出来た当初のこのネックレスも思ってはいなかっただろう。というか、せっかくのネックレスなので、ぜひ誰か身に着けてあげてほしい。
「ここの廊下は誰もが通る場所だから、ちょっとした商品紹介の場でもあるんだよ。こういう商品は要りませんか?的な」
「なるほど。気に入った商品があれば注文出来ますよ、ということですね」
「そう。これなんか細工がすごく細かくて繊細な作業をしてるんだけど、職人が人見知りで接客が心許ないって言うから、ここで注文を受けてるんだ。お客さんと相談しながら絵図面を細かく書いて渡すから、職人はその通り作るだけでよくなって仕事がはかどるんだよ。そう思うと、この通路は、余計なことをしたくない職人専用みたいな感じが否めないなぁ」
腕が良くても接客下手な職人のために始めたら、案外そういう職人が多かった。
腕だけ良くても注文が入らなければ金にならない。
イラーリオはそういう職人に、その技術を後世に伝えることを条件にして、ここに作った物を飾って注文や受け渡しなど全てを引き受けることにした。
手数料はかかるが、自分でやるよりも注文が増えて仕事に集中出来ることの方のメリットが大きいと考えた職人たちが、主にここを利用している。
「カメーリアも何かほしい?」
「いえいえ、とんでもないことでございます!怖いことを言わないでください!」
ほしい、と言えば贈る気満々だったイラーリオは、怯えて後ずさったカメーリアを面白そうに眺めた。
さすが、原石大好き女性だ。
ここの宝石たちの価値を分かっているが、あくまでもカメーリアが好きなのは自分で手に届く範囲の加工していない石たちなのだ。
「気位高そうなツンデレさんたちも嫌いではないのですが、今のところ素朴な感じの方が好きです」
「……そうきたか。しかし、何故か納得してしまう」
イラーリオは、綺麗に研磨されて輝く宝石たちを気位高そうなツンデレと言ったカメーリアの表現に、納得してしまった。
まぁ、確かにカメーリアの雰囲気的にこういう装飾品は似合わないだろう。
カメーリアに似合うのは、もっとシンプルな物だ。
贈るとしたら、そういう物がいい。
一粒の極上の宝石を使ったシンプルなネックレス。
ただし、石に関しては厳しいカメーリアがその価値に気が付きそうだ。そうなったら、きっと受け取りを拒否する。
かといって、宝石伯爵の名にかけて下手な物は贈れない。
「うーん、難しい」
どれだけ腕の優れた職人を囲っていようが、価値の高い宝石を持っていようが、好きになった女性に装飾品を贈れないというジレンマを抱えた宝石伯爵は、カメーリアが喜ぶような新しい装飾品を生み出すしかない、と決意を新たにしたのだった。




