ジェントーレ領⑥
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エリージョに近々領都にある屋敷に来るように言うと、イラーリオは名残惜しそうな顔で原石を見ているカメーリアを今夜の宿まで引っ張って行った。
「うーん、この子も可愛いし、こっちの子はものすごく綺麗ですねぇ」
領都に向かっている最中だし、領都の部屋がどれくらいの大きさの部屋か分からなかったので、カメーリアはとりあえず小さな欠片を三つほど厳選した。
一つは無色透明だが、結晶が綺麗に残っている石。
残り二つは色つきの石だが、それぞれ濃い目のピンクと鮮やかな紫色の石だ。
どれもくず石認定されていた石なので、エリージョは特に何も言うことなく渡してくれた。
むしろその石たちをもらったカメーリアが小躍りして喜んでいる姿を見て、ちょっと引いたかもしれないとは危惧しているくらいだ。
まぁ、その程度、どうってことはないけれど。
イラーリオからは、綺麗だとは思うが可愛いという感情には全くついて行けない、と若干さじを投げかけられたが、カメーリアの力説で何とか納得してくれたようだった。
「カメーリアは本当に好きなんだね」
「はい。唯一の趣味ですから。でも、自分で整理整頓出来る程度ですよ」
「うん。そういう自制出来ているところはすごいと思うけど。好きなら色々と手元にほしいって思わない?」
「そうですね。でも、部屋が狭かったので、あまり飾れなかったんですよ。手元にあっても、どこかに入れっぱなしにしておくだけは嫌だったので。せっかく私のところに来てくれたのなら、ちゃんと飾って眺めたいんです」
「ふーん、でも、そうだね。価値を勝手に決めているのは人間の方だ。人には作り出せない原石を、宝石じゃないからとただ捨ててしまうのは失礼だったね。せっかくうちにはたくさんの宝石鉱山があるんだ。余すところなく活用させてもらおう」
すでにカメーリアのおかげで、今までくず石として捨てていた石を使った商品をいくつか考えることが出来た。庶民向けの商品も考えている。
「そういえば、カメーリアと同じ様に原石が好きな人はいないの?」
「会ったことはないですね。エリーさんみたいに、石の専門家みたいな人しか知りません」
いたらぜひ朝まで石の魅力について語り合いたいところだ。
石の専門家たちは、カメーリアみたいにただ好きというわけではないので、話がちょっとずつズレてしまう時がある。ただ、カメーリアは石好きの人と、石の魅力について語り合いたいだけだ。お互いが好き勝手なことを言うだけかもしれないが、それはそれで新しい一面を発見出来るかもしれない。
「そうか、それはちょっと寂しいね」
「はい。誰かと思いっきり語り合いたいです」
「なら、俺が相手になるよ」
「え?でも、イラーリオ様から見れば、ただの商品ですよね?」
「確かに商品ではあるけれど、子供の頃からずっと見ているんだ。それなりに愛着と知識はあるよ。カメーリアみたいに、可愛いとかまではいかないけど、変わった宝石が見つかれば嬉しいし、綺麗な石を見れば素直に感動する。それにカメーリアの話を聞くと、石の新しい魅力に気付くことが出来るしね。俺としては、色々と得することばかりなんだけど」
カメーリア好みの顔でにこりと微笑まれたのでちょっと怯んだが、確かに、生まれた時から身近に宝石があって、原石がそこら辺に転がっている領地で暮らしていたイラーリオなら、カメーリアが知らない原石のことも知っていそうだし、商売するのだから当然、知識も豊富だ。
「……同じような趣味でないのでしたら、私が一方的に石の美しさとか繊細さなどを事細かに話すだけになる気がします」
「それでもいいよ。君の話はどの本にも載っていないことばかりだから聞いていて楽しい。君という天からの贈り物がする話は、ぜひじっくりと聞きたい」
「お、贈り物……」
カメーリアが絶句して顔を赤らめた。
この反応、多少は脈があるかもしれない、とイラーリオの目がキラリと光ったことに、カメーリアは気が付かなかった。
軽く咳払いをすると、カメーリアはがんばって話を元に戻した。
「えっと、ですが、それでは……今以上に引きませんか?」
「正直、最初は付いていくのに必死になるかもしれない。何せ今だって、何度そう来るか、と思ったか分からないくらいだし。これからだって、そこまで?と思うことはあるだろうけど、それは自分の未熟さゆえ、かな。俺は先祖代々石を扱っているくせに、君より詳しくないし、君より発想が貧相だからね」
「イラーリオ様が詳しくないって言ったら、他の誰も石に付いて詳しくないですよ。私は偏っているだけで、イラーリオ様みたいに採掘されている鉱山まで知ってるわけじゃないんです。イラーリオ様は全体的に詳しくて、私は部分的に突き抜けてるだけです」
「じゃ、ちょうどいいね。お互い、知らない部分で補い合える」
「……そういうものですか?」
「そうでしょう?俺が知らないことをカメーリアが知っていて、カメーリアが知らないことを俺が知っている。ほら、完璧じゃん」
「言われてみれば?……じゃあ、それでいいの、かな?」
「うん、いいと思うよ」
何だかイラーリオに言いくるめられたような気がしないでもないけれど、カメーリアは、それならそれでもういいか、と思って、それ以上は考えることを止めたのだった。




