ジェントーレ領⑤
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手の平の上に載せた緑色のくず石、否、カメーリアにとっては宝物の綺麗な石を眺めながらにやつく彼女を、イラーリオはそっと放置した。
「あの石は、どうして使えないんだ?」
カメーリアの持っている石は、透明感のある緑色が美しい石だ。装飾品にでもすれば人気が出そうな気がする。
「あれは、脆い石なんです。それこそ、ちょっと落としたらすぐに割れてしまいます。そのため、大きめの結晶は見習いの試験に使われるんですよ。あの脆い石を綺麗にカットして磨けるかどうか、それが見習いが通る最初の試験になります」
「ふーん」
「あれは小さいですが、結晶が綺麗に残っている方ですね。あの石は、たいていここに持ってくるまでに割れますから」
カメーリアが手に持っているのは、小さな緑色の美しい六角柱がたくさん生えている石だが、ほとんどの石が持ってくるまでに割れてしまい、あの大きさのクラスターの状態の石は珍しい。
もっとも、珍しいというだけで、宝石職人たちには見習いのための石という以外の価値はない。
それなのに、カメーリアは本当に嬉しそうに眺めている。
太陽の光に透かしてみたり、手の平の上でじっくり見たりしている。
あまりに嬉しそうな顔に、エリージョの顔もほころんだ。
「カットして磨いた石はどうしているんだ?」
「たいてい自分たちで保管していますね。カットと磨き、両方の初めての試験の課題石ですよ。僕も持っています。時々見ては、あの時の気持ちを忘れないように、と自分を戒めています」
「そうか。まぁ、脆いならあっても仕方ないのか」
「ですがあの石は、たまーにとんでもなく大きな塊で出てくるんですよ。大きさ的に、玄関に飾ったりするのにちょうどいいと思いますよ」
玄関にどどんと大きくて色の美しい鉱物が飾ってあれば、それはそれで宝石伯爵の名に相応しい品物ではなかろうか。
「そうか。そういう飾りもありか」
「価値が低い鉱物なら最悪盗まれてもダメージはそんなに負いませんから」
「むしろ玄関に鍵付きの飾り棚でも作って、宝石の原石とか飾ってみるか」
「いいですねー。それこそ、宝石伯爵の真骨頂です。そこまでの品質と大きさの原石を磨かずに飾っておく。何か、一番贅沢な感じがしますね」
「商品にしたら高く売れるからなぁ。うん、そっちの方もちょっと考えておこう」
原石を飾って眺めるという発想のなかったイラーリオから見ると、カメーリアの行動は斬新なことばかりだ。
とにかく宝石にして売る。
そういう商売しかしてこなかったイラーリオは、原石そのものを売るという発想もなかった。
エリージョの言う通り、価値の低い鉱物でも大きな塊は珍しいのでそれ自体を売るのも有りだ。
「イラーリオ様、見てください。この青いの、すっごく綺麗ですよね!」
カメーリアが持っているのは、青といっても透明ではなく、全体的に乳白色から水色にグラデーションになっている石だ。
「へぇ、こんな色のもあるんだ。エリー、これも大きいのある?」
「そっちの石はないですね。あ、でも、その石、どっかの地方だと魔除けの石って言われてます」
「魔除け?」
「はい」
イラーリオが知っている魔除けの石は、水晶だ。
ジェントーレ領では、子供に水晶の丸い玉を魔除けのお守りとして渡すのが習慣になっている。
「あ、それ、知ってます。この水色が清らかさを表しているそうですよ。魔は清らかな石には近付かないって言い伝えがあるので、これも魔除けの石になっています。そういえば、友人の家がある地方では、扉に魔除けの石をはめ込んでいるそうです。家の中に魔が入って来ないようになるそうですよ」
「そういうのも有りか」
新しい商売が出来そうな気がする。
イラーリオは、石大好き人間の発想は馬鹿に出来ないな、と改めて思ったのだった。




