ジェントーレ領④
読んでいただいてありがとうございます。カメーリアの名字を変更いたしました。モレッティ→レッティエです。過去の投稿も直したつもりですが、直っていない箇所を発見した方は教えてください。
噂のエリーさんの工房兼自宅に行くと、エリーさんは聞いていた通り筋肉隆々とした立派な男性だった。
同じ年齢のイラーリオと並ぶと、余計にその身体の大きさが目立った。
「初めまして、エリージョと申します。宝石を磨く仕事をしています」
「カメーリア・レッティエと申します。この度、ジェントーレ伯爵家で侍女として働かせていただきます」
見た目は豪快な感じの人だが、話をするととても丁寧で優しそうな感じを受けた。
「家名をお持ちなんですね」
「男爵家の生まれですが、我が家は小さな家でほとんど名ばかりの貴族です。宝石など持ったこともないので、エリージョさんの方が宝石には接していると思いますよ。あの、イラーリオ様から聞いたのですが、エリージョさんの下にはくず石がたくさんあるとか……?」
「どうぞエリーと呼んでください、レッティエ嬢。うちには、確かに宝石にならないくず石がたくさんありますよ」
「でしたらエリーさんと呼ばせていただきます。私のことも、どうぞ気軽にカメーリアとお呼びください。レッティエ嬢などとかしこまって呼ばれると、ちょっと違和感がありますので。それで、そのくず石を見せていただくことは可能ですか?」
「では、僕もカメーリアさんと呼ばせていただきます。くず石はまとめて処分するので、工房の片隅に山盛りになって置いてあります。なので、お好きなだけお持ちください」
「ありがとうございます!実は、私、そういう石を集めるのが趣味でして」
「趣味ですか?」
「はい。宝石職人の方から見るとくず石でも、私から見れば美しい石たちです。飾って眺めたり、光に透かしたりして楽しませていただいております」
「飾る、ですか?……あぁ、確かに、家の出窓にでも石を並ばせておいたら、月明かりとかで輝いてとても綺麗でしょうね」
そんな様子を思い浮かべたのか、エリージョがうっとりとした顔をした。
「綺麗ですよ。太陽の光と月の光では全く違う感じになるんです。太陽の下ではキラキラしていたのに、月の光の下では何か妙にしっとりとした輝きになっていたり」
「あぁ、分かります!光で輝き方が違いますよね!」
ごつい男性と細身の侍女がきゃっきゃ言いながら今にも手を取り合いそうな雰囲気に、イラーリオは取りあえず二人を止めた。
「はいはい、そこまで。エリー、彼女はこういう人だから、くず石を少し分けてあげてくれ。値段を付けるのなら俺が買い取るよ?」
「いえいえ、捨てるだけの石に値段は付きません。カメーリアさん、案内しますのでこちらへどうぞ」
笑顔の可愛いエリージョの案内に従って工房に行くと、片隅に箱は積み上げられていて、それが全てくず石だった。
「すごい!こんなにたくさんあります!」
目を大きく見開き嬉しそうにはしゃいで今にも箱に突進して行きそうなカメーリアを、どうどうといった感じで抑えてイラーリオは、エリージョに箱を一つ開けてもらった。
「へぇ、綺麗なもんだね」
「はい。色が薄かったり不純物が混じっていたり、割れていたりと宝石にするには色々と足りませんが、飾るだけなら綺麗な石です」
「こういうのを何かに加工したりはしないのか?」
「宝石、という形ではなくて、ということですか?」
「そうだ」
「うーん、基本的にはそういう職人はいませんが……強いて言うなら、見習いたちが研磨の練習に使うくらいですかね」
イラーリオが箱の中から手に取ったのは、小さな黄色の石だった。
「そちらはトパーズですが、色が薄いし小さいので装飾品には出来ないんですよ」
「確かに薄いな。それに不純物も混じっているのか」
「はい。箱の中にあるのはそういう石ばかりです」
「カメーリア、君ならこれをどうする?」
「へ?あ、私ですか?」
イラーリオとエリージョの話など全く聞く気もなくくず石を見ていたカメーリアは、急に名前を呼ばれてビクッとした。
その顔がにやけていたのをイラーリオは見逃さなかったが。
「えーっと、えっと、そうですねー。どうしましょうか。飾る以外ですよね?」
「そうだ」
「見習いさんたちが練習で磨くのでしたら、その磨いた石を服飾の方に降ろせばいいんじゃないでしょうか?」
「服飾に?」
「はい。くず石なら、好きなだけドレスに縫い付けたり出来ますよね!磨いた後にちょっと穴だけ開けておけばいいですし、何ならボタン代わりにしてもいいですし」
「……確かに」
基本的に、ボタンはほとんど木製だ。それがちょっとしたくず石を活用することで、美しい物が出来上がることになる。
「穴を開けることは可能か?」
「それくらいなら」
「試しに作ってみてくれ」
「はい。カメーリアさん、ありがとうございます。おかげでくず石が活用出来るかもしれません!」
「いいえ。というか、あの」
活用方法を教えてしまったので、ひょっとしたらここのくず石をもらってはいけなくなったのだろうか……。
「お礼に好きなだけ持っていってください」
「はい!ありがとうございます!」
エリージョから許可が出た瞬間にパッと顔を輝かせて、カメーリアは箱の中に手を突っ込んだのだった。




