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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
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第25話 対怪異戦闘

「噂になりよるんよなー。後輩二人とこそこそ集まって、なんやロマンスな展開になっとんちゃうのー? ってさぁ」


 朝のホームルームまでの二十分ほどの猶予。いつもの屋上へとやってきた小路こみち深衣みいたちに向けて、ポケットから取り出したスマートフォンを振りながら苦言を呈する。


文明の利器(スマホ)使つこてほしかったなー。そのためにライン交換したんやからさぁ」

「ごめんなさい……。要件を話したら会うことすら断られてしまうと思ったのです。そしてそれは、今朝クロユリさんから事情を共有してもらって確信に変わりました」

「うぐ」

「え、事情? なんかあったの?」


 一人だけ状況がわかっていないカルテ。その彼女のスマートフォンに[96-105-3]という謎の番号から電話が掛かってきた。深衣が「クロユリさんからなのです」と言うのでカルテは通話ボタンを押す。


『ごめんねカルテちゃん みーちゃんには共感の呪いを使って記憶を読み取ってもらってたんだけど わたしとそこの陰陽師ちゃんは初対面じゃないんだ』

「えっ!?」

「記憶を読み取るて……ほんま強いな共感の呪い。気ぃつけんとなぁ」

「あ、そんな簡単にはそこまでできないのです。呪いの対象を絞ってアンテナを高めるというか、一対一で相手に意識を集中できて、クロユリさんもあたしに心を開いてくれていたからなんとかできたというか」

「ん、ちょっと待ってミーコそれいつどこでしたの? 一対一? 心を開く?」

「そりゃよかった。うっかり陰陽師の極秘事項思い浮かべてもうて、それを知ってもうたみーちゃんを殺さなアカンみたいなことには、そうそうならんて思てええんやね?」

「は、はいなのです! あたしもうっかり意識を向けないよう気を付けるのです!」

「ミーコ、ねえいつ? どこで? ミーコ?」

『ベッドの上で教えてあげたんだよ わたしの心のなかのこと』

「ミーコ」

「ご、語弊のある言い方なのです!」

「話進めてもろてええー?」

『ふふふふふふふふっ』



 ◇



 小路とクロユリさんは初対面ではない。

 一か月ほど前の水曜日。クロユリさんと出会い都市伝説怪異の存在を知った深衣が調査を始めるも、リコとエミによるいじめが始まって苦しんでいたころ。

 まだ小路と深衣が出会う前のこと。


 クロユリさんは深衣の様子を見るため、鈴山学園高校へと遊びに来た。

 それはあくまでも遊び。誰かが彼女を呼ぶか、定期巡回の時間になるまでの暇つぶしのつもりだった。


 しかし行ってみれば驚いたことに、都市伝説怪異の気配がある。

 異常な量の生徒の霊が校舎を徘徊し、朝教師たちが見落とした怪異の残穢がある。

 そして。それを祓い清めながら校内を巡る、陰陽師の女子高生がいる。


『面白そうだなと思って ちょっとちょっかいかけに行ったんだ』


 屋上の太陽光パネルに隠れて折り畳み祭壇を広げ、儀式の準備を進める白髪はくはつおさげの少女。

 耳元まで近づいてから声を掛けてびっくりさせてみようかと、クロユリさんは彼女の後ろに音もなく降り立ち歩み寄り……。


『そこでいきなり 体が動かなくなった』


 パネル群の影に埋もれる陰陽師少女まであと数メートルというところで、何か大きくて見えない塊に掴まれたように上半身を拘束され。

 クロユリさんの都市伝説怪異としての権能『怪異理解』が働き始める。

 相対した怪異の情報を自動取得するその力は、この空気の塊は目の前の少女が扱う式神『亜風伯』の右手であると伝えてきた。


『すぐに弁明したよ 驚かせてごめん わたしは怪しい怪異じゃないよ って』

「怪しくない怪異なんかおらん。人語を高精度で模倣する奴なんか特にロクでもない。……やからすぐ戦闘になった」

「した の間違いだね」

「コイツほんま……」


 亜風伯の握力は拘束から圧殺へと変化。気づいていないフリをやめた小路は刀印を結んで戦闘態勢を整えクロユリさんへと向き直る。

 怪異少女は陰陽師少女へ向けて靴を蹴り放った。

 高速で射出された黒のローファー。小路は予備動作の時点で式神『一ツ火』に防御させたが、その勢いは想像以上。飛び抜けてきた炎と灰で一瞬の目くらましを食らう。


 小路が再び視界に怪異を捉え直したとき、ソレはすでに亜風伯の掌中から脱していた。

 靴を脱ぎ飛ばした足先から儀礼剣を出現させた怪異は、舞うような脚遣いで(つるぎ)を弄び、纏わりつく固定された空気を切り刻んだのだった。


 亜風伯の神格を成す「風」は五行の特性では「もく」の元素に属する。陰陽師が信奉する陰陽五行説の世界観において「木」は「ごん」、すなわち金属に弱い。しかも右腕がバラバラにされてしまったことで、式神を顕現させる式術の独特な感覚に狂いが生まれている。


 小路は損壊した亜風伯を下がらせ一ツ火を撃つ。一瞬で迫った火球は怪異の目前で炎の幕へと爆ぜ、ソレを呑み込んだ。


 「ふふ ()()()()() いきなりこんな攻撃」


 蘆屋小路はその一言を聞き目を剥いた。

 底冷えのするような少女の声が炎の中から聞こえてくる。

 渦巻く炎は確かに怪異に食いついて、今その身は浄火に焼かれ続けているはず。


 「ちゃんとお話しよう 言葉は通じてるんだよね?」


 それなのに涼し気な声が上機嫌に響いてくる。気さくに術師へと語りかけてくる。

 小路は亜風伯を防御壁として展開してから、一ツ火による締め付けを解除。

 炎渦の中にあった怪異の様子を露にする。


 そこには長身の黒い少女が黒の雨傘を差して可憐に佇んでいるのみ。


()()!! 『血の雨屋敷』とか『台風の夜だった』とかで使ってたやつですよね!?」

『たぶんそう 傘の下に瘴気や呪いからの安全圏を作り出せる退治道具なの 刺突にも使うけど』

「『すい』の属性やから火に強かったんちゃうんかい」

『お話してくれたら説明してあげたのに』

「……ちっ」

「こ、こみ先輩が舌打ちなさったのです……」

『そっちが仕掛けてきたのにね』

「ぐぬ……」


 自分に非があったことは小路も認めている。それについて謝罪する用意もとっくにできている。その機会を待ってさえいたほどだ。

 それでも、本人を前にした今こんなにも態度を悪くしてしまうのは。

 ひとえにクロユリさんが小路に、()()()()()に言ってはならないことを言ったからだった。


()()。 そう言うたやろ。お前」

『言ったね いきなり暴力に訴えてきたから』

「その言葉はな、ウチら蘆屋門派が宮廷陰陽師派閥からずっと言われとる最大の侮蔑の言葉や。民間陰陽師の流れは血の気が多くてはらえも必死でみっともないってな」


 故にそのとき、小路は激怒していた。

 目の前の怪異には敵わない。亜風伯を「金」の鉄剣で裂かれ、一ツ火を「水」の傘で凌がれ。複数種の道具を状況に応じて自在に使いこなす怪異を打ち倒す術など自分にはない。それはよくわかっていた。


 それでもこの怪異を、なんとかぶちのめさなければ気が済まないという気持ちになっていた。


 蘆屋の長女は猛攻を仕掛ける。

 儀礼術による呪縛拘束を重ね、亜風伯の風に札や弊紙で火力を上げた一ツ火の乗る豪炎烈風を浴びせかけ、祭祀術『防解ぼうげ火災祭』を裏返して作った結界炉で熱を閉じ込め、符術で飛ばした札式神に「土」属性である灰を集めさせ炉の中へ飛びこませた。

 父であり陰陽道総局戦闘部隊の道主・蘆屋炉満仕込みの火炎術式『熔葬灰燼祭』。陰陽師・蘆屋小路に出せる正真正銘の最大火力。


 これを()に使った。


 結界は二か所に穴が設けられていた。灰と酸素を流入させる上方ともう一か所、コンクリートで塞がれている足元には張られていない。

 怪異は地面を破壊して早々に抜け出すと、空き教室を余裕に満ちた足取りで歩いて陰陽師少女の真下へと来る。

 そして、少女術師の予想通りに、天井を切り崩して屋上の彼女を落下させた。



 クロユリさんの目には落ちてくる瓦礫と、()()()()()()()小路が映る。



 水球は瞬く間に怪異へ流れ、絡めとり、陰陽師少女が持つ土器かわらけの小瓶の中へ物理法則を無視して流れ込んで納まった。

 彼女は即座にそれに札で封をし、九字を切って封印に圧を加え、憂さ晴らしも兼ねてありったけの清めの塩を入れた袋の中に瓶を突っ込んで麻糸でデタラメに縛り上げた。


「『流れる水』の神格、式神『擬河伯ぎかはく』。切り札ってわけやないけど、ウチが使える式の三つ目や」

『すっかり騙されたよ 式神を二つ同時に使うだけでも難しいらしいのに まさか三つもなんて 同じ鍋で中華とフレンチとエスニックを作るくらい大変なんだよね』

「言い得て妙なんが腹立つな……」

「麻婆豆腐、ビーフシチュー、カレーであればあるいは可能かもしれないのです?」

「青椒肉絲とテリーヌとガパオライスくらいちゃうねん」

「ちょちょちょ、っと、ちょっと待ってください!」


 アフタートークのような弛緩した空気にカルテが待ったをかける。

 その話が本当であるなら、彼女には確認しておかなくてはならないことがあったのだ。

 なぜならそれは、深衣の現在の状況に繋がることかもしれないから。




「それって、つまり、アタシたちが光線女に襲われてたとき、クロユリさんは封印されてたってことですか?」

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