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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
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第17話 地獄行きの怪異

「裏切り者」


 相島莉子(リコ)。一学期は冷杯れいばい深衣みいや三重寺笑美(エミ)と共に大宅おおやけカルテを、二学期には笑美と共に深衣をいじめていたが、反撃を受けて以来ずっと不登校になっていた生徒。


 そんな彼女が深夜一時を回っている学校で深衣を呼び止めた。

 月明かりの差し込む東通路の窓枠に肘を乗せて、制服姿の胸から上を晒している。さっきまで閉まっていた窓の外側から体を出している。通路に影が落ちている。

 最後に会ったときと何も変わらない、邪悪な微笑みを浮かべている。

 そこにいたのは間違いなく、あのときのリコだった。


「リコちゃん……? どうして、こんな時間に」

「は? あんたのせいで学校来れないから以外に理由あんの?」

「えっ……」

「っぷ、冗談。それよりさ、ちょっと引っ張ってくんない? なんか入り口閉まってて窓から入ろうとしてんだけどさー、ほらアタシ運動とか似合わない系じゃん? 助けてほしんだよねー」

「リコちゃん……。


 ここは二階なのです。中庭側には足場もありません。どうやって窓の外(そこ)に登ったのですか?」


 共感の呪いでわかっていた。目の前の存在が本物のリコでないということは。


──臍ノ穴爪立テふ八ツ指ニテ開腹え流シタル血滝る掻キ分ケ赤キ脈ふ青キ脈取リえナシ混ゼ和エテ脊髄骨ろヘ巻キ融カシ繋ギ縫イ合なワセ淡雪唾か一垂ラシ二垂ラシ褐変まシタル溶血糊ニシテ皮睦マジク成シなかまニセン

「足場? あるある。フツーにあるんですけど? 見に来てみなよ。 ねえ」


 明らかに異常な心の声。それに反してリコの口はまるで普通の人間のように言葉を紡ぐ。それが反って人間性を欠いて見えた。

 だがそれでも。

 偽物だとわかっていても、酷い仕打ちを返してしまったかつての友人に謝りたいという欲求が深衣を会話という選択肢へ迷わせた。


「……ごめんなさい。そっちには行けません」


 それもここまでだ。

 正体を見破ってしまった深衣に、それはもはや偽りの人格を演じようとはしなかった。


「同じ目に遭わせてやる」


 リコの声のまま。だが命の温度がまるでないその冷たい声は紛れもなく。


 怪異のもの。

 ずるりと通路内に滑り込んできたソレには下半身がなく二本の腕を虫のように動かしてすばやく深衣へ迫り飛び掛かってきた。


「ひっ!!」


 目を瞑って屈み反射的に防御姿勢を取ってしまう深衣。



 しかし、怪異の魔の手が彼女に触れることはなく。



 上半身だけのリコは空中で停止し、握りつぶされているかのような形に折れた腕や頭をぴくぴくと痙攣させていた。


()()()ッ!!」


 陰陽師少女の叫ぶ声。間髪入れず耳元を何かが過ぎ去る音。

 熱い、炎の温度を残して視界に入ってきたそれは。


 赤い赤い火炎球体。


 深衣の目の前で固められた半身の少女にぶつかる直前、パラシュートのように一瞬展開したそれは鬼一口に怪異を食らい、地獄から響くような断末魔をゴオゴオという燃焼の旋律で彩る。

「お前も おなじめに こんな カラダ に……」

 怨嗟の残響さえも炎の中に消えてゆき、渦巻く火の玉の中にはもうその灰すら見当たらなかった。


 怪異は祓われた。

 火炎球は小さく萎んでぱちりと消える。深衣の背後からこつこつと術者の足音が近づく。


「ごめん。怖かったな。大丈夫?」

「は、はい。こちらこそごめんなさいです、遅れてしまって」


 ええよええよ。優しく頭を撫でて、緊張を解いてくれる小路こみち

 その後ろからバタバタと迫ってきたカルテは深衣の肩を攫うようにして掴む。


「いいいい今の! 今のテケテケだった! 先輩! テケテケが!!」

「おーあれが! ……テケテケってなんやったっけ?」


 説明しましょう!! カルテは興奮に任せるまま解説しだした。



 テケテケ。

 下半身のない上半身だけの女性として知られる怪異。その痛ましい姿の由来は様々あるが、中でも北国の列車事故の怪談が有名だ。


 あるところに急いでいた女性がいた。彼女は踏切内で転倒し、誰に助けてもらうこともできずやってきた列車に胴体を真っ二つに切断されてしまった。

 即死したと思われた彼女だったが、駅員が駆けつけたとき彼女はまだ言葉を話していた。傷口が瞬時に凍ったためしばらく生存していたのだ。

 周囲に助けを求め続けたが誰も応じてくれなかったことへの無念により女は悪霊と化し、失くした下半身を求めて上半身だけで徘徊している……これが人口に膾炙かいしゃしているテケテケの由来だ。

 これは「知った人間の元へ数日後襲いに来る」といった感染型怪談、『カシマレイコ』や『サッちゃんの四番』と同じ様に語られることもある。


 だが学校の七不思議として数えられる際のテケテケは、この文脈にはないことも珍しくない。

 校内に現れる上半身だけの女子生徒という正体不明の存在で、逢魔が時の学校に残っている生徒を時速100kmの匍匐前進で追ってくると語られている。

 その怪談の典型的な流れは先ほどの深衣の例に同じく。

 窓を隔てた向こうに上半身だけが見えていて、声を掛けて呼ぶと、見えていた上半身しかない体でテケテケと独特な音を立てて迫り来るというもの。


 テケテケに捕まったらどうなるか。

 それは語るも怖ろしいと濁されることもあれば……


「下半身を千切り取られ、テケテケの仲間にされてしまう……と言われることもあります」

「ほーん。そんなんもあるんやねぇ」

「はい! …………。」

「あ、言っとくけどさっきのテケテケはみーちゃんの知り合いに化けただけのニセモンで、ホンモンのその子は無事やと思」

「そこはどうでもいいです。なんならあいつは死んでてほしいです」

「そ、そーなん……」

「はい。 …………ッ、それで!」

「うん。それで?」

「先輩!」

「なあに?」

「次は先輩の番です!!」

「ウチ? あー。これか」


 左手をスルリと仰向けに広げる小路。

 その手のひらの上で火花が散り、小さな火の玉が現れた。



「せやな、この先に進む前にちゃんと説明しとこか。ウチら陰陽師が使う『式神』のこと」

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