表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
46/68

第11話 交わした握手はあなたのために

 転校してきてからの半年間、小路こみちは地道に調査を続けてきた。



 一つ、校内に蔓延る無数の生徒の霊。

 何度も蘇る性質や行動、気配の違いから伝承怪異の可能性を見出す。地域住民や生徒への聞き込みを繰り返し、『S高の禁じられた七不思議』という都市伝説を知った。その舞台が鈴山学園高校だとは、生徒手帳の校則に「七不思議に関わる事を禁じている」と取れるものが実際にあったことから断定した。


 二つ、会話する中で覚えた教師への違和感。生徒間の諍いや問題行動にだけ極端に冷たくなる態度。

 教師一人一人を調べて、学校職員全体に蔓延している『黙殺の呪い』に気づいた。

 その原因はまだ掴めていないが、こんな呪いを構築してしまった訳を探し求め校内を徘徊して、さらに複数の不審点を見つけた。


 三つ、全ての教室の扉に電子錠が整備されている。授業は未だ黒板と紙の教科書で、全くデジタル化が進んでいないのに。


 四つ、しかもその扉が基本的に施錠されていない。多目的教室や会議室はもちろん空き教室も。飛び降りがあった屋上さえ今もって閉鎖されていないときている。


 五つ、あるべき備品がない。なくても不思議ではない二宮金次郎像だとか人体模型ならともかく、踊り場の鏡も、音楽室のピアノもない。三階の女子トイレにいたっては個室が一つ消えている。特別棟も教室棟も入り口から三番目のトイレがない。

 七不思議に関する物だけが、この学校にはない。



 街を騒がせる怪異を放置して、足元の怪異の調査を続けてきた。

 それで半年が経ったというのに事態を解決できていない。


 特別区標戸(しるべ)監督責任者である父・炉満からも苦言を呈されている。「お父ちゃんが行ってババッと解決したろか!?」豪快なその笑い顔の下に自分への失望を小路は見出していた。

 このままではいけない。

 打開策として教師に掛けられた呪いの解呪に踏み切った。だがこれも失敗だった。

『黙殺の呪い』を解除げじょすると彼らは発狂して自殺に走るということがわかった。呪いで考えないようにしないと狂いかねない事態に日常的に直面しているのかもしれない。


 とにかく小路は行き詰ってしまった。

 そもそもこういった細やかな調査というものが彼女は苦手だった。


 陰陽師は陰に潜み秘密裏に魔を祓うもの。霊威怪災を綿密に調べ上げ万全を期してこれを排除する。陽の世界の住人に犠牲が出ないように。

 陰陽道総局が掲げる現代陰陽師倫理にとことん合わなかった。


 本当はもっと手っ取り早く全部解決できる。

 その方法を転校初日の夜にはもう思いついていたのだ。


 半端者の自分にチャンスをくれた父に報いるため、彼女はそれをせず、ずっと術師の正道を貫こうとしていた。



 けれど。タイムリミットはとっくに過ぎていて。



 放置した怪異の被害者が目の前に現れ。

 強硬調査の失敗で被害者も出してしまった。


 もはや彼女に余裕はない。


「夜の学校に忍び込む。そこで伝承怪異【S高の禁じられた七不思議】を全員引っ張り出して、全員撃滅する。これ以上、時間はかけられへん」


 そのために、深衣みいの霊媒体質を貸してほしい。小路はそう申し出た。


 彼女いわく、深衣の体質は弱い穢れは祓い消し、能ある霊は遠ざけて、弱くはないが能もない怪異についてだけ引き寄せるというもの。


 禁七の怪異はその怪談の特性のためどんなものが現れるのかわからない。だがこの強力な霊媒体質があれば、必ず遭遇することができる。あちらから寄ってくるはずだ、と。



 つまり小路は深衣に「怪異をおびき出す囮になってくれ」と言っているのだった。



「蘆屋先輩」

「もちろん、みーちゃんはウチが命を懸けて絶対に守る。どんな最悪の状況でも、みーちゃんだけは必ず生還させる。祖霊道満の名誉に誓って、キミにこれ以上傷は負わせへん」


 思わず立ち上がり空の弁当箱を落とすカルテに小路は語気強く牽制する。

 白いまつげに縁どられた真っ黒な瞳にしっかりと深衣を映して、その決意の程を彼女の心へ訴える。

 揺らがぬまなこ、閉ざされた唇、止まった呼吸が伝える本気。

 深衣はそれを自らの心に写し取る。戦地に臨む兵士の覚悟を手にした彼女は、小路の申し出に首を縦に振る……その前に。


 カルテの弁当箱を拾い。

 彼女の目を見てそれを渡した。


「カルテちゃん」

「……………………読むな」


 紅潮した顔を逸らして隠すカルテ。

 その頬の赤さ、髪の揺れ幅、唇の角度、漏れ聞こえる吐息と握った拳の震え。様々な情報から共感の呪いが心の声を読み取る。


 小路への怒り。

 ──ミーコを囮にするなんて絶対許せない。もしものことがあったらどう責任とるのよ。

 自分への怒り。

 ──まんまブーメランじゃない。光線女のとき囮作戦で失敗したアタシに言う資格あるの?



 そして……興奮。


 抑えきれないオカルトオタクのサガ


 ──夜の学校!? 七不思議退治!? なにそれ面白そう絶対見たい参加したい! 学校の七不思議といえば代名詞トイレの花子さんに理科室の人体模型音楽室の肖像いや勝手に演奏するピアノもアリうちにはないけど走る二宮金次郎像とテケテケ踊り場の鏡増える階段プールで足を掴む手とかちょっと待って赤い紙青い紙とか落ち武者戦時中の子供も定番の学校の怪談だけどどうなるのっていうかこれもう七つ以上ない?なんて今更学校の七不思議は七つ以上あるのが標戸じゃ常識四天王が五人いるのと同じ待ってじゃあどれが出てくるのめっちゃ気になるこの目で見たいっあちょっと待って蘆屋先輩と一緒ってことはつまりホンモノ陰陽師のバトルも見られるってことで先輩式神が使えるって言ってた式神といえばさっきのは


「カルテちゃんも参加しますです!」

「ん!? ちょっ、ちょっとミーコ!?」

「えっ。二人もとなるとちょっと誓いを撤回させてほしんやけど……」

「先輩!?」

「冗談冗談。みーちゃんが手伝ってくれる条件やっていうんならもちろん、カルっちのことも守ったるよ」

「はい! よろしくお願いしますなのです!」

「あ、ああっえ、よ、よろしくお願いしまぁす!!」

「はいはい。……ありがとうな、二人とも」



 折よく予鈴が鳴り響き、三人は片づけをして教室へと急ぐ。

 具体的な計画は放課後に。そう告げられて小路と別れた。


 こうして。

 小路、そして深衣とカルテ。三人の少女による都市伝説怪異【S高の禁じられた七不思議】攻略の戦いは幕を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ