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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
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第9話 禁七

 特別棟四階の屋上。設置された四基の大型太陽光パネルの脚に、深衣(みい)とカルテが小路(こみち)に対面する形で座って昼食を摂っていた。食べながらの会話で小路はカルテに陰陽師の事情を共有し、今朝の先生による飛び降り自殺未遂についても陰陽術の力で解決したのだと説明する。


「そういえば、あんなことがあったのにこの屋上閉鎖されてないんですね」

「言われてみれば変なのです。あっ、変といえば、あたしたちから事情を聞いているときずっと、先生たちが白目を剥いているように見えていたのです。こみ先輩、あれって……」

「ああ、それな。ええ頃合いやから、本題に入るとしよか」


 食べ終えた小路はチョコレートバーの包みを畳んでレジ袋にしまうと、真剣な目つきをして語り出した。


「二人は知っとるかな? 昔に流行った都市伝説」



『S高の禁じられた七不思議』のこと。



 ◇



 それは生徒から保護者へ、保護者から地域へ、地域からネットへと広まった噂。

 港庫こうご標戸(しるべ)市のS高で、「学校の七不思議」が禁止になった。


 校内で七不思議について話すことが禁じられ、校内を肝試し目的で巡ることが禁じられ、校内に怪談を取り上げた記事を貼り出すことが禁じられ。学校の七不思議に関するすべてのことをしてはならないと教師たちは告げた。


 なぜそんなことを? その理由は諸説ある。


 当時生徒全体の成績が低下していたにも関わらず、非科学的なオカルト話が盛り上がりを見せていたことを疎んじたとか。

 七不思議が広まったために夜の校舎に侵入する者が現れ、警備会社に迷惑をかけたからだとか。


 あるいは。

 生徒が一人、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とか。


 S高における七不思議の怪談が具体的にどんな内容だったのかは伝えられていない。『学校の七不思議』というジャンルの性質上、他地域他校のそれとさほど違いはないと考えられているが、禁止になるほどに盛り上がったというならそれより遥かに怖ろしいものだった可能性もある。

 その真相を知るのは、2017年当時の在校生だけ。


 しかし。

 彼らに聞いてみても皆一様に黙して語らず。

 虚ろな表情から返ってくるのは、こんな呟きだけだという。



「知らない方がいい……」



 ◇



 語り終えた小路。深衣は冷たい風に吹かれたように縮こまって黙し、カルテはホクホクの微笑みをにんまり浮かべてこくこく頷く。


「通称『禁七きんなな』ですね。2017年の冬から2018年初頭くらいまでネットでも話題になったけど、『中身がわからないのが怖い』っていう話の性質上あんまり広がっていかなくて、知る人ぞ知るマニアックな一本ってポジションに落ち着いた古典標戸都市伝説の一つ」

「おお、流石詳しいなカルっち」

「フフン。自分で言うのもなんですが、アタシの十分の八はオカルトでできてます」

「カルテちゃん、それは五分の四なのです」

「勝手に約分しないで!」


 平日の5時間、休日の12時間をホラー・オカルトに費やすカルテは、実のところ鈴山学園高校の学力に見合っていない。二学期最初の課題考査の成績は160名の一年生の中で128番目。赤点ラインの少し上程度。学習意欲の低さは中学の頃からで、受験勉強だけ相当の無理をして合格したのだった。


 その理由はただ一つ。


「この怪談に出てくる『S高』って、この『鈴山すずやま学園高等学校』のことなんよね」

「やっぱり! アタシどうせ行くなら都市伝説にゆかりのある学校がよかったので鈴園スズエン志望したんですよ!」

「そこはもうちょっと慎重に選んだ方がええんちゃうかなて思うけども」

「入学してから学校を探検して少し調べた時期もあったんですけど、陰湿な暴力が始まってからできなくなって」

「う、本当に申し訳ないのです……」

「もしかして蘆屋先輩はこの都市伝説の調査をするために鈴園に転校してきたんですか?」


「こみ先輩でええよ」と言いつつ、転校理由については首を振って否定を示す。


 元々標戸は無甲山むこうさん周辺に土地を持つ富豪・蘆屋門下『無甲家』が監督していた。

 しかし同一族は十二年前に術の使い手の全滅により祓い屋稼業を廃業してしまい、この地の霊怪を祓う担当術師『調伏師』は長らく空席となっていた。

 以来定期的なはらえや要請のある度に蘆屋家の術者が派遣される形だったのだが、去年になってようやくこの問題が会議の議題に上り、蘆屋家が正式に管理者に就任。


 その長女である小路が調伏師に任命され、この鈴山学園高校に転校してきたのだった。


「そーゆーわけで、ウチがその『禁七』に辿り着いたんは、単純にこの学校が異常やったからやね」

「異常……?」

「みーちゃんやったらわかるやろ? おかしいって思ったんちゃう?」


 見えるようになって。


 一週間と少し前、光線女に『霊媒体質の呪い』を焼き付けられて以来、深衣の視界には人間とほとんど変わらない明瞭さで心霊が映っている。時には霊としては形を成さない、本能的忌避感を漂わせる黒いもやを見たこともある。


 この体質になって以来大量の霊を見てきた深衣。体感にしてその九割が、この鈴園スズエンに漂う生徒の霊だ。

 首が分離したり手足が伸びていたりする者たち。そうでないまともな見た目の者は壁を這ったり上下に浮遊したり爪を剥がし続けたりと異常な行動を繰り返す。

 そういった霊が人間の生徒の軽く三倍はいる。


「やっぱりこれ、多すぎだったのですか……?」

「多すぎや多すぎ。いっぺん学校中キレーに祓ってんけど、次の日には半分くらいの量に戻ってて、土日挟んだら元通り。やばいで」

「え、そうだったのミーコ」


 これまで見えていたものについて、深衣はカルテに話した。

「なんで言ってくれなかったのよ!」とキレる彼女に、「話しても何かできるわけでもないし、カルテちゃんを怖がらせてしまうので」淡々と深衣は答える。


「それに、今日の朝憑りつかれるまで霊媒体質で実害が出たこともなかったのです」

「そういえばそうよね。何で無事だったの?」

「それは、こちらから関りにいかなかったから……でしょうか?」

「せやな。半分くらいはそれで合ってる」

「半分?」

「んー、みーちゃんの霊媒体質、ウチら陰陽師で言うところの『術力じゅつりき』の気配がバリえぐいのもあるっていうか」

「「バリえぐい」」


 小路が例えて言うには、深衣のそれは「デコトラと同じ」であるという。

 総重量1トン、エンジン馬力280キロワットの巨大で力強い鉄の塊、それが威勢のいいペイントと絢爛な電飾と煌めくメッキパーツで豪奢に着飾ったもの。デコレーショントラック。

 それと同じような霊的存在感を深衣は放っている。

 これに近づく霊はまずいない。知能のある者ならなおさら。避けようとすらするだろう。歩いているだけでとんでもないプレッシャーを放っているし、そんな人間が霊に対処する術を持っていないはずがないからだ。

 陰陽師が各地で定期的に祓っている『穢れ』もまた、眩いヘッドライトに払われる闇のように蹴散らされるため、目の前で発生した場面以外で深衣は見かけていない。


 深衣から逃げない、あるいは好んで近づく者があるとすれば。

 

 それは知能を持たず、しかし蹴散らされるほど弱くもない……【都市伝説怪異】のような存在だけ。 



「この学校に湧いてる生徒の霊。

 こいつらはたぶん、伝承怪異【S高の禁じられた七不思議】の一部や」

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