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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
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第8話 符術と咆哮

「さささ、三人でもいいのであればっ、よ、四人でもよいのではないでしょうか!」


 険悪な想像に支配されつつあった教室を、カルテも混ぜての昼食と納得させて連れ出そうとする小路こみち深衣みい

 その三人に声を掛けてきたのは、クラスでは影の薄い小路ファンクラブ会員。雀子じゃっこ詩乃だった。


「つまり、わたしも同席させてもらえないでしょうか、小路さまっ!!」

「えぇ、うぁー……」


 ──あー無理無理アカンアカン、この流れはまずい……。


 小路のそんな心の声が深衣の頭に流れ込んでくる。共感の呪いで深衣も危惧の感情を抱くが、小路が何を予感して何を危ぶんでいるのかは理解できていない。

 ただその答えは考えるまでもなく、現実のものとなってすぐにわかった。


「だったら私も! 私も小路先輩とご飯一緒したいです!」

「あ俺も! 俺もいいっすか小路先輩!」

「男子はダメ! 先輩先輩、ウチもいいですか!?」

「そういう流れなら俺だって!」

「あたしも!」「オレも!」「ボクも!」「アタシも!」


 教室に残るほぼすべての生徒が名乗りを上げてしまった。

 無論、彼らが付いてきてしまっては口外厳禁の陰陽師案件の話はできない。

 断るしかないのだが、カルテを引き入れてしまった手前納得してもらえるとは思えない。

 では、どうするのか。小路の答えは……小さな声で深衣とカルテに囁かれた。



「二人とも、走ってウチについてきて」



「は?」「はしっ……」

「ごめんみんな! 今日は三人までの気分!」

「ちょっ」「こみ先輩っ!」

「ああッ! 小路さまぁ!!」


 駆け出す小路。一瞬遅れるも付いて行く深衣そしてカルテ。

 クラスメイトたちは逡巡、小路の答えを尊重するか自らの欲を貫くかの揺らぎ、その決着に数秒をかけた後、全員が走って追いかけて来た。


「待ぁってください小路さまぁ!! そこをっ、なんとかっ、お願いしますぅう!」

「うわ、めっちゃ追ってきてるんですけど!?」

「みんな廊下は走ってはいけないのです!!」

「あははっ! みーちゃんも走っとるがな!」


 深衣は苦し気な形相で「そうなのですぅー!」と呻く。しかし幸いにもいい子の呪いは何も言ってこない。廊下を走っているというより、何やら狂気的で恐ろしい集団から逃げているという意識のせいか。とにかく二人は小路の後ろに続いていた。


 小路は教室棟四階の一年四組の教室を出てすぐに西側の階段に向かい、そこを駆け下り始めた。今朝のダメージはどこへやら、彼女は階段を数段飛ばしながら下りていく。最後の四段ほどはジャンプでショートカットする。危険なスピードが出ている。

「こみ先輩さすがに危ないのです!」そう叫ぶ深衣に小路は「信じて! 大丈夫!」と返す。

 猛烈な勢いで一階を目指す彼女、よく見るとその行く少し先を紙人形が飛んでいた。


 長方形のしおりに丸い頭と手足が生えたようなシンプルな紙人形。不可思議な術によって浮遊していたそれを見て、カルテは目を見開き口角を上げて口を大きく開く。


「それって、それって!」

「ほい着いた! みーちゃんハーフちゃん、ここ隠れて!」


 地上階の階段を下り終えるや否や死角となる階段下の物置スペースに二人を押しやる小路。彼女もそこにしゃがんで隠れると、左手の服の袖からさらに二枚の紙人形を取り出して宙に放りながら早口に唱えた。


「汝蘆屋小路似たるなり、汝冷杯(れいばい)深衣似たるなり、汝黒髪ショートに切りそろえ碧き瞳したる比較的身長高きハーフ女子似たるなり。学び舎疾く巡りて追い来る者どもを惑わせ。急急如律令……!」


 宙を舞い落ちていた紙人形二枚と小路を先導していた紙人形一枚、合わせて三枚が光を放つと、カルテたちの目の前には小路、深衣、カルテ三人の姿があった。よく見るとカルテだけ微妙に顔が長い。

 三人の姿をした人形はすぐさま階段の向こうへ駆け出して、中庭の方へと曲がった。


 まもなく階段を下りて追ってきた一年四組の追手はその後ろ姿を見て、「お待ちください小路さまぁあああ!」と呼びかけながら走っていく。階段の影から顔を出して、カルテと深衣はその様子を見届けた。


「こ、こみ先輩。今のって」

「待って。えー、ハーフちゃん。今のはウチの家に代々伝わるかなりすごい手品……」



「陰陽術だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」



 驚嘆の絶叫は中庭のその向こうまで響いた。

 本物のカルテが発した声にクラスメイトたちは振り返り、靴箱前のピロティまで逃げていた幻惑の符術人形はその姿を失った。


 結局見つかってしまった三人は学校中を逃げ回ることになり、なんとか追手を撒いたとき彼女たちは、特別棟の屋上へとやってきていた。



「ずみませ……っ。あのっ……びっくり、して…………っ」

「ええよええよ。それより大丈夫? 呼吸のたんびに肩外れそうになっとるけど」

「カルテちゃんは運動が苦手で、体力がないのです」

「ぁば……っ、馬鹿にしないで……っ、これでも、光線女にぃ……っん、ん追いかけられて以来、走りこみ、してるんだから……っ」


 ──雨天中止で週に二、三回体調が優れるときに限ってだけど……


 ついに立っていられずその場に寝転がるカルテを深衣はしゃがみこんで介抱した。小路は隣に並んで立ちへとへとの少女を見つめる。


「カルテちゃん……ああそっか、キミが朝みーちゃんが言ってた」


 小路の助言によって和解を果たした、深衣によるいじめの被害者。生粋のオカルトオタクで、都市伝説怪異【人生破壊光線女】との遭遇条件を突き止めるにあたり多大な貢献を果たした人物。

 今朝の騒動のせいで頭の端に追いやられていたその存在と目の前のボロ雑巾のようなハーフ少女を小路はようやく結び付けた。


「よかったぁ……。最悪カルテちゃんを気絶させて頭ん中いじれる人呼んで記憶消さなアカンかなって思っとってん。なるほど、もう知ってる子やったんやなあ」

「うぇっ!? なにそれこわい……!」

「記憶を消すなんてこともできるのですか?」

「うん……一人だけな、めちゃくちゃ忙しくしとるめちゃくちゃいけ好かん奴やから滅多に頼れへんけど」


 人命と『原則』の危機とあれば海外からでも飛んでくるやろ。遠い空を見つめながら複雑な表情で呟く小路。


 その人物との因縁の数々と彼女の抱く苦手意識は深衣にも伝わるが、詳しく流れ込んでくるよりも先に、小路は気持ちを切り替えてカルテに歩み寄った。


「改めましてぇー、初めましてカルテちゃん。カルカルって呼んでええ?」

「そ、その呼び方にはトラウマがあるので……。お、大宅おおやけカルテです、アタシ。『カルカル』と『カルぴ』以外で好きに呼んでください」

「ほなカルっち。ウチは蘆屋小路。法師ほっし陰陽師・蘆屋道満の子孫で、現代に生きる陰陽師の秘密機関『陰陽道総局』が道主・蘆屋炉満の娘。標戸しるべの霊威怪災を祓う調伏師やらせてもろてます」


 よろしくね。そう言って小路が差し伸べる手を、カルテはキラキラとした瞳で見つめながら取った。


「蘆屋道満……!! ほ、本物の、陰陽師なんだぁ……!」



 うきうきとした様子のカルテ。

 彼女を見守る深衣の心もまたその喜びに染まっていた。


 しかし、ちくりと胸に刺すような痛みを覚えて、深衣は不思議に思うのだった。

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