ルイとミスティ
なんて忌々しい。
冒険者ギルドを後にしたミスティは、憤慨もそのままに宿への道を戻っていた。無意識のうちに爪を噛む。原因はもちろん先ほどのルイとのやり取りだ。
頑固だとは思っていたが、ここまで融通が利かないとは。あんな分からず屋が王位に就いたらどうなることか。独裁主義もいいところだ。
なんとかして鼻を明かしてやりたい。いや、むしろその高い鼻っ柱をへし折ってやりたい。王族だからと権威を笠に着てガキが偉そうに!
足音高く歩いていたミスティは、民家のドアの外に置いてあった花壇の水遣り用のバケツを思い切り蹴り飛ばした。思ったよりも派手な音を立ててそれは転がっていく。
道行く町人たちが足を止めミスティに視線を向けたが、ミスティはぎろりと彼らを睨みつけた。
「何よ、文句があるわけ?!」
まさかそんな、街を救ってやった英雄様に対して文句なんてあるわけないわよね?!
そんな圧を感じた町人たちは、慌ててミスティから目を逸らす。誰も反論など、意見など、できようはずもない。
ああ、腹立たしい。なんでもいいから魔術で破壊して憂さ晴らしでもしてやりたい。街の外にちょうどいい魔物でもいればいいけれど、魔竜討伐以降はそんなもの出現もしない。
「そうだ、あいつがいるわ」
不意にミスティは、ある冴えない男のことを思い出した。そうだ、まだ追放していないのだからあいつがいるではないか。
バーチ、あの愚図の木偶の坊。
ストレス発散にはちょうどいいわ。
ミスティの機嫌は一気に浮上した。単純な脳の作りをしているのだろう。
ルイへの怒りなどすっかり忘れ、軽やかな足取りで宿へ戻ったミスティは、早速バーチを探した。
彼は昼食後の長閑な談話室で、仲間たちが使うアイテムや装備品の手入れをしていた。
「ここにいたのね愚図!」
勢いよくドアを開けてやってきたミスティにびくりと肩を震わせたバーチは、驚いて磨いていた魔道具を落としそうになる。
そういうところが愚図だと言うのだ。ストレス発散にバーチを探していたわけだが、やはり目の当たりにするとイライラが募り、先ほどまで浮上していた機嫌がまた降下する。
「ちょっと、壊すんじゃないわよ。高価なんだから」
「あ、す、すみません」
バーチは落としそうになっていた魔道具を慎重に慎重に道具箱に戻した。それすらもまた遅い、とミスティは感じる。
何にせよ彼女は短気なのだ。行動だって思い立ったらすぐに実行するタイプで、いちいち悩んだりすることは大嫌い。
ましてその場で一緒にいる人間がもたもたとおぼつかない動きをしているだけで腹に据えかねる。
「アンタってほんとに何やらせても鈍くさいわね。ちょっとそれ全部片付けなさい」
「は、はい」
バーチを退かせたミスティは、ソファにどっかりとふんぞり返った。
「全部退けて、テーブルもちゃんと綺麗にしてよね。アタシまだ何も食べてないの。こっちに昼食持ってこさせて」
「えっ……」
魔道具を片付けていたバーチが困惑したように呟いたのを聞き逃さず、ミスティは彼をぎろりと睨んだ。途端にバーチが顔をさっと逸らす。
「何? 文句があるっていうの?」
「いや、その、……」
そのバーチの顔を覗き込むようにして顔を近付けるも、バーチは必死に俯いて視線を逸らしている。長い前髪のせいでほとんど顔も見えないし、前髪の隙間から見える顔も心底凡庸な男だ。
「いいからこっちに支度させるのよ! 食堂の固い椅子に座れって言うわけ?!」
「あ、いえ、すみません! すぐに伝えます!」
「最初からそうしなさいよ、愚図!」
慌てて道具箱を抱えて談話室から飛び出していくバーチの背を見送って、ミスティは「フン」と吐き捨てる。
「食事が終わったらまた帰ってきなさいよ! アンタにはまだ用事があるんだから!!」
聞こえたかどうかは知らないが、たぶん聞こえただろう。聞こえていなければ後で探して殴ればいいだけだ。
愚図で役立たずのバーチ。何をしても平均以下の彼は普段から自分に補助強化魔法をかけているらしく、殴ったり蹴ったりしてもけろりとした顔をしていたから多少力を込めても問題ないだろう。
まずは腹ごしらえだ。この宿はアルコの街で最高級のグレードの宿。食事に関してもかなり洗練されている。貴族のミスティからしても申し分はない。
上機嫌で昼食を待つミスティは、バーチに押し付ける難題を考えることに勤しむのだった。
「……何をしているんだ?」
昼食後……もうすっかり夕刻に差し掛かった時間だったが……ミスティがバーチに、魔道具の調達からアイテムの補充、ドレスの購入まで必要なものも不必要なものも押し付け列挙しているときだった。談話室にルイがやってきたのは。
「あ……ルイ……その……」
「愚図は黙ってなさい。ギーカに行く準備を頼んでただけよ。物入りでしょ?」
氷のように冷ややかな目を向けるルイに、ミスティは薄い笑みを浮かべる。
まるでその姿は、龍と虎の睨み合いのようだった。間に挟まれたバーチが居心地が悪そうにただただ小さく縮こまっている。
「……それは、バーチだけに頼むことではないと思うけど。それに昼間、条件を出すと言っていたのは僕にだろう」
「もちろんアンタに頼むこともあるわ。けどこれはね、私用なの。使用人に旅支度をさせるのは王侯貴族の常識でしょ? それとも……ご立派な王子サマはそれしきの指示も出さずに、ご自身でなさっているのかしら?」
「…………」
ミスティがここまでルイに対して嫌味を言うことはこれまでなかった。どちらかといえば権力に追従するタイプなのだ。ルイに対しても、これまでは賛同して媚びを売る方向だった。
昼間のことがあるにしても、急にここまで手のひらを返されてはルイ自身も動揺はあるだろう。表情に出さないのは流石王子と言ったところだろうか。権力争いの渦巻く社交の場では、先に調子を崩した方が負ける。
「……バーチ、君は下がって」
「あ、え、でも……」
「いいから。君は使用人じゃない。もう行って」
ルイはミスティから目を逸らすことなくバーチを下がらせた。バーチはどうすればいいのかと困ったようにルイとミスティを交互に見ていたが、ルイがバーチを庇うようにして逆手で手を振るものだから、促されるように談話室を出て行った。
残されたルイとミスティの間には、未だに一触即発の雰囲気が漂っている。
「ミスティ、何度も言ったがバーチは我々の仲間で、……対等であるべきだ」
バーチが完全に去ってから、ルイがため息交じりにそう言った。一瞬「対等」の前に言い淀んだのは、決して待遇面で対等とは言えない状況になっていたからだろう。
今回の報酬の分け前も、バーチだけ少なかった。パレードの時も宴の時も、存在感のない彼は隅に追いやられていた。対等だと言うなら、何もかも同様にするべきだっただろう。
ましてや聞こえのいいことを言ってはいるが、ルイはバーチを追放しようとしている。負い目があって当然だろう。
ミスティはそんなルイを鼻で笑った。
「一番対等から遠い人間が、理想だけで語ってくれるじゃない。対等だって言うならアンタの指図を聞く義理なんてない。そうじゃない?」
「……目的地のことを言っているのなら、それはまた別の話だ。立場としては対等だが、団体行動においては誰かが指揮を執る必要がある。僕はパーティのリーダーとして目的地を決めて指示をしているけれど、強制しているつもりはない。バーチについては、身分として誰か一人が不当に虐げられることはあってはならない、と言っている」
「ハッ、お坊ちゃまが偉そうに御託並べるじゃない。世の中はそういう風には回ってないのよ。身分っていうのはね、どういう状況、どういうグループにおいても機能するのよ。どんな小さな社会においてもそれは形成されるの。上の者が下の者を使う。下の者は使われて職を得る。わかる? そうやって成り立ってるのよ。横並びを目指したとて、横並びには決してなりはしないの。そういう風にできてるんだから」
ミスティの常識ではそれが当然だった。大貴族が人を使う。中流貴族然り、下級貴族然り、平民に、農民、奴隷然り。上の人間が下の人間を使う。
ミスティの世界はそうやって出来ていた。ルイのいた世界でもそれは同じだった。ただそこに、倫理観が強く働いているか、そうでないかだけ。
王家は、王族は、民があってこそ国があると、そう考えていた。国を豊かにすることは民を豊かにすること。民の平穏なくして、平和な国は生まれないのだと。
一方ミスティは、貴族こそが国を支えてると考えていた。国事をこなし、富を得る。必要とあらば他国を従えて国土を増やすべきであると。
それこそが国をさらに大きく成長させるものであり、そのための手段として民を使うことは当然である、と。
初めから、ルイとミスティは同じ土俵に上がっていないのだ。お互いに主張しても平行線なのは明らかだった。
「ミスティ、君の主張はある意味では正しいかもしれない。だが、この魔王復活阻止の旅路において、このパーティ内で、同じ仲間を虐げることは看過できない。君はバーチを殊更憎んでいるようだけど……」
「へえ? アンタこそ、あの愚図のことなんていらないと思ってるくせに。よく言うわね」
「!」
ルイが言葉に詰まる。ミスティは勝ちを確信した。ルイが口を開く前に畳みかける。
「アイツを追放するつもりなんでしょ? 明後日くらいかしら。出発の前日になって急にさ。ヴィヴィにもジョルジオにもなんの相談もなしで」
「な……」
「分かるわよ。分かんないと思った? アンタ、アイツを見てる時の目がヤバいのよ。自分で気付いてないの? 殺しそうな目してるくせに」
ミスティはルイをせせら笑った。
バーチを見るルイの目はいつも冷ややかで、何の感情もなかった。虫を見るような、いや、散乱したゴミを見るようなそんな目だ。
不快なものを視界に入れている、そうありありとわかるのだ。本人が無意識でやっているとしたら平等を謳う資格などないだろう。
まあ、ルイにそういう部分があることは何度か死に戻った結果よくわかっていた。
バーチだけでなく、ミスティも始祖に眷属にされた時にあっさりと切り捨てられたのだから。
ルイは流石にこの指摘には動揺を隠せないようだった。ミスティは上機嫌で続ける。
「まぁ、アイツを追放するのはアタシも賛成よ。目障りだし、鬱陶しいし、いるだけで不愉快だわ。だから最後にこのパーティの役に立たせてやろうってんじゃない。アイツは道具の手入れだの仕入れだのが大好きでしょ? 最後に好きなことさせてやろうってのよ、優しさだと思いませんこと?」
道具の手入れはミスティが王都を出発した頃にバーチに指示したことだし、仕入れに関しても旅支度なんて自分のやることではないとミスティがごねてバーチが代わりにやると手を挙げたことだった。何一つとしてバーチが「好きでやっていることではない。
が、追放という切り札を持ち出してしまえば、ルイは押し黙る他なかった。
「……それでも、必要以上に虐げるのは違う。とにかく、必要なものはバーチでなく僕に伝えて。条件はさっきバーチに頼んでいたものを準備することだけか?」
「いいえ。まずギーカまでの馬車。ギルドで1番いいやつね。それからリフレクションの魔道具。魔力増幅と、防御補助の装備も欲しいわ。あと、冒険者を依頼して」
「冒険者?」
流石にルイも怪訝そうな表情をした。
国の指定パーティに討伐依頼が来るような代物だ、冒険者の手に負えないから依頼が回ってきているというのに、こちらから冒険者を依頼するなんてことはあるはずがない。
「そうよ。ギーカの依頼って、山の魔獣でしょ? 情報は多いの? 弱点は何なの? 被害は大きかった?」
「詳細は向こうで確認する予定だった。今ある情報では、狼型の魔獣ということ、討伐に出た冒険者パーティは一人も戻ってこないことから高難易度指定されて……」
「でも山に引きこもってて住民の被害は出てない。でしょ?」
「……どうしてそれを?」
ルイの視線が鋭くなる。ミスティはしかし、余裕の表情を崩さなかった。
どうして、だと? もう3度もあの魔獣に対峙しているからだ。今のルイよりもよほど詳しい自信はある。
ただ理由を言ったところで、「妄想だ」と突っぱねられる可能性があるから、それは伏せておいた。
「アタシだって情報収集くらい出来るわよ。誰も討伐から帰らないから危険だ、ってことは裏を返せば、相手の手の内は知れないってことよ。でも狼型ってことは群れがある可能性もあるでしょ。そしたら人海戦術で雑魚を冒険者たちに狩ってもらって、本体をアタシたちが叩くのよ。もちろん本体を叩く間は下がっていてもらえば安全でしょ?」
ミスティはドヤ顔で足を組み替える。正直言うと本心は半分だ。
あの魔獣が、群れではなく眷属としてほぼ無限に狼を召喚できることはわかっている。
湧き出てくる雑魚を冒険者たちに蹴散らしてもらおうと言うのも本心だ。それともう一つ……人数が多ければ、万が一の時に囮に出来る。あの狭い洞窟内で混戦になれば、そうそう周りの人間のことなど気にしていられない。
危なくなったら怪我人か死体でも抱きかかえて外に出ればいいのだ……乱戦になって、なんとかこの人だけでも助けようと命からがら脱出してきたとか何とかいえば、もしも失敗したとしても「人命を優先する、慈愛に満ちた美しい女魔術師」とかなんとか勝手に盛り上がってくれるはず。
仲間が生き延びたなら感動の再会を演出できるし、死んでしまったならば一人残された悲劇の女性の完成だ。どちらに転んでもミスティに損はない。
あの魔獣には3度も殺されているのだ。
もう二度と、同じ轍は踏みたくないのだ。例え他人を犠牲にしたとしても。
怒りに任せて冒険者ギルドでルイに怒鳴り散らした時にはこの街での評判を落とす失策だったかと思ったが、どうせあと数日でこの街は出る。それにルイに「条件を飲め」と突き付けられたし、怪我の功名かもしれない。
しかしルイの口から出てきたのは、ミスティの意に反する返答だった。
「……それは、承服しかねる」
勝ち誇った笑みを浮かべていたミスティから、一気に表情が消えた。上昇していた機嫌が急降下する。
「……は?」
ミスティはゆっくりとソファから立ち上がった。扉を背に立ったままだったルイにゆらりと歩み寄る。下からねめつけるようにして睨み上げ、
「いま、なんですって?」
一言一句確かめるように口に出す。何かおかしな言葉が聞こえたような気がするが。
今、承服しかねる、と言ったか?
人によっては、今にも胸倉を掴みかからんばかりのミスティに気圧されして後退るか身を引くか、或いは逃げ出すか腰を抜かすかもしれない。
しかしそんなミスティを前にしても、ルイはやはり微動だにしなかった。涼しい顔で、彼は言い放つ。
「聞こえなかったのか? 承服しかねる、と言ったんだ」
「ふざけるんじゃないわよ!!!」
ミスティは強く床を踏みしだいた。しかしルイはやはり微動だにしない。
怒りに任せて殴り飛ばしてやりたい。或いは魔法で吹き飛ばしてやりたい。ミスティの胸に強い憎悪が渦巻いた。
何故こいつはこんなにも邪魔をする? 冒険者ギルドで条件を飲めと言ったら了承しただろうが。今更覆すのか。なぜわからない?
お前の選択のせいで、こっちが何度死んだと思っている?
「条件を飲むって言ったわよね? 今更聞けないってどういうことよ!!」
ミスティはルイの胸倉を掴んで怒鳴り散らした。唾が飛ぶのもお構いなしだ。ルイは流石に眉を顰めたが、反撃はしない。
「君の条件を飲む了承はしたが、現実的なものでなければ承服は出来ない。一般の冒険者では危険だと言とわれている討伐に冒険者を連れていくなんて矛盾が過ぎる。それに、該当の魔獣は洞窟に棲みついていると言うことだし、狭い空間の中で大数人が戦うことは推奨しかねる。それこそ君の条件を飲むのなら、バーチは追放しない」
「なんですって?」
酷い剣幕でルイの胸倉を掴み上げていたミスティは動きを止めた。
「あの愚図を、追放しないって言ったの?」
「ああ。君の条件を飲むのであれば、ね。そもそも彼の処遇については決定しているわけじゃないし、本人に話したわけでもない。君が別のパーティと手を組みたいというのなら、それが国家指定のものだろうが冒険者ギルドの登録者だろうが全員にリフレクションが必要だ。そうでもしないと君の魔術は使えないだろう」
「……アタシを、脅そうっての?」
沸々とまた怒りが沸き上がり、ミスティはルイの胸倉を掴む手に力を込めた。
条件を飲む代わりにバーチを追放しないだと? 前提が変わってくるではないか。あの男がいなくなることは確定しているはずなのに。
「脅すつもりなんてない。バーチの補助魔術は、基本的に僕らには効果が薄いかもしれないが、それでも一般の冒険者と比べればかなり有効だ。そういう条件で討伐に向かうのであれば、彼の力は必要だと言うだけだ。君の言う戦力補強としては十分すぎるくらいじゃないのか?」
ミスティは舌打ちをして忌々し気にルイを睨みつけた。しかし、反論の言葉は出てこない。
戦力だけを見ればたしかに有効だった。あの魔獣から逃れることを前提に考えていたが、もしもルイの言う通り、バーチの補助魔法で強化された一般冒険者が戦力になるのだとしたら、根本的な問題である「魔獣の討伐」も可能かもしれない。
バーチが追放されないというところだけが非常に不愉快だが、ギーカの魔獣を討伐してから奴を追放しても遅くはない。
むしろバーチの持つ広範囲の索敵や鑑定でギーカの魔獣の弱点や攻略方法もわかるかもしれないし、そこさえ突破できれば今度こそ用済みだ。
「……まあ、いいわ。追放しないなら、他の条件は全部飲みなさいよ。馬車も冒険者への依頼も譲らないわよ」
「……わかったよ」
「それから、あの愚図は討伐が終わったら追放してよね」
ミスティはルイの返事を聞いてようやく彼の胸倉を離した。上等なシャツが皺だらけになっているが知ったことではない。
ドアの前から動いてすらいないルイを押しのけるようにして、ミスティは談話室を出ようとした。扉を開いたところで、ルイに質問される。
「どうしてそんなにバーチを目の敵にするんだ?」
ミスティはパーティが結成された時からバーチを蔑んできた。口を開けば罵詈雑言が飛び出し、気に入らないと物を投げてぶつけ、邪魔だと蹴り飛ばすこともあった。
ミスティからすればルイがバーチに向ける冷ややかな視線も大概だと思うが、どうやらこの無駄に顔がいい王子様はそれには気付いていないらしい。
ミスティは振り返りざま、当然と言った風に吐き捨てた。
「目の前に汚物があったら避けるでしょ」
ルイは、答えなかった。
ミスティは殊更乱暴に扉を閉め、ルイとの会話をシャットダウンした。
とうとうこれまでの流れと違う展開になった。これで死にさえしなければ、今度こそこのループを抜けられるかもしれない。
ミスティは拳を握りしめていた。
そこに、ルイやバーチへの怒りが篭もっていないとは、言い難かった。




