荒れる感情。
長らく放置してしまいました。定期更新できなくて申し訳ありません。引っ越し等ごたついてる関係でしばらくこんな感じになりそうです。間が空いても必ず更新はいたしますのでまったり待っていただければと思います。
「くぷくぷくぷ。邪魔。とてもとても邪魔」
クゥトアヌと分かれ道に足を踏み入れた途端猿のような魔獣に襲われた。群隊狒というらしい。クゥトアヌは物知り。
初めは五匹程度だったのに。後から後から続々現れて。今では視界を埋め尽くすほどになった。
この程度の魔獣ならルルイエの敵ではない。問題はクゥトアヌ。クゥトアヌはとてもとても強いけど。ルルイエに比べると少し脆い。だから。ルルイエがこの魔獣を引き受けて。クゥトアヌには先に行ってもらうことにした。
「いい加減に。諦めろ。どんなに数を増やそうと。ルルイエには傷一つつけられない」
腕を振るえば触れた相手が千切れ飛び。触手を振るえばひしゃげて潰れる。
脆い。弱い。勝てないことを理解できない。明らかに格上とわかるモノに。数で勝るという一点のみで。襲いかかる愚者。
本能すら壊れた紛い物。歪んだ生命。正さねばならないモノ。
くぷくぷくぷ。この世界に来た理由の一端を思い出した気がする。
前後左右から襲い来る魔獣を腕と触手で払い除ける。
それだけで死んでしまう。なのに恐れない。死を恐れない。生物として破綻している。
おかしい。くぷくぷくぷくぷ。
魔物は命を持たない。だから死を恐れない。それはわかる。
でも魔獣は違う。魔獣はもともと獣。魔素を取り込み変じたのが魔獣。魔素を扱える獣。ただそれだけ。本能を無くすわけでも。忘れるわけでもない。
これだけ同族の血が流れれば忌避感を抱く。
防衛本能から逃げるはず。
それが無い。何故。
簡単。司令塔がいる。リーダー。ボス。
呼び方は何でもいいけどそういう存在がいる。
この有象無象を相手にするより頭を潰したほうが早い。
わかっている。
でも。
触手を振るう。
ひしゃげて爆ぜる。
腕を振るう。
裂けて崩れる。
決して届かない。この身には触れられない。
それでも無限のごとく湧いて出る。
「……邪魔」
クゥトアヌが心配。
一人でこんなところに。こんな数に襲われたら。クゥトアヌに傷が付いたら。命が終わってしまったら。
そんなこと許せはしない。
クゥトアヌはルルイエにルルイエという名をくれた。
この世界にいるための楔をくれた。
とてもとても大切な。何かをするために来たのに。それを忘れてしまったルルイエに。存在意義が薄れ。あのままでは消えてしまうこの命を救われた。
「……邪魔っ」
ざわざわする。
心が熱くなる。
『感情』が揺れる。
「……邪魔!」
声が漏れる。思わず漏れる。意識の外からの声。『感情』に任せた声。
この世界に来て初めて出す声。ああ。知っている。これは――
――苛立ちだ。
「邪ぁぁあ魔ぁぁぁ!!」
開いた口の前。顔のした半分を覆う程度の方陣が現れる。
小さなそれを起点に。さらに二重三重に展開して。
全身を覆う大小合わせて二十二の方陣が出来上がる。
『感情』を制御できない。
『苛立ち』を。『怒り』を。だからそのまま。
開放する。
一切合切。跡形もなく。
森の一部が沼地になった。
木々は腐り落ち。液状化して。地面と一体化している。
有象無象も同様に。液状化して。地面と一体化している。
クゥトアヌ。追わないと。
なんの感慨も浮かばす。ルルイエはその場をあとにした。
クゥトアヌの後を追う。
場所はわかる。名付けの時にできた術式回線がまだ繋がっているから。
かなり遠くまで逃げている。
でもなぜか今は立ち止まっている。
襲われているのかも知れない。急がないといけない。
全力で走る。
そして見た。
圧倒的な。チカラ。
クゥトアヌは戦っていた。
きっとあれが群隊狒のボス。
体格も。膂力も。速度も。何もかもが勝っている。
なのに。大狒の攻撃は当たらない。当たっているのに当たらない。
すべてが劣っているクゥトアヌに。一撃も当てられない。
それどころか。隙きを突いてクゥトアヌは打撃を加える。
腱に筋に脈に。
分厚い肉と毛皮に覆われた大狒に。小さな小さなダメージを与えていく。本来ならば効かない。ごくごく僅かに感触がある程度。そんな攻撃。
けど。確かに。ダメージが入っている。
この間の夜。そのときに見せてもらった不思議な技。
触れていない場所に触れる業。
この世界には存在しない業。
紙一重で受け流し。すれ違いざまに手数で攻める。
人のような戦い方。技術を磨いた弱者の戦い方。人より遥かに強く。本能のみで動く魔物の戦い方じゃない。だから勝てない。あの大狒は。なぜ自分がダメージを追っているのかもわかっていない。
ちまちまとした攻撃で自分が倒されるなんて想像もしていない。
くぷくぷくぷ。やっぱりクゥトアヌは強い。
ルルイエが心配する必要はなかった。
さあ。決着だ。クゥトアヌと合流しよう。




