笑う商人嗤う神
有り難いことにコミケに当選したり引っ越さないといけなくなったりで更新が遅れるかもしれませんが、宜しければのんびりお付き合いください。
「おやおやおやおやぁ〜? これはこれは……随分と無茶をしていますねぇ?」
一面真っ白な空間に黒い太陽が一つ。
見渡す限り果ての無い空間に、ポツリと置かれたカフェテラスのような椅子とテーブルに腰掛ける赤と黒の紳士服の男が、向かいで楽しそうに哄笑う相手につぶやく。
「くぅふふふふぅははははははは!!! 当然じゃないかぁ! 彼にはこれからもっと世界を楽しくしてもらわないといけないんだからぁ! くふふふふ!」
真っ黒な髪と真っ白な肌、正しくモノクロの女が紳士服の男に自慢げに答えた。
「くふふふぅ……それでぇ? そんな事を話しに来たんじゃぁないんだろぅ? 一体何用だいぃなんでも屋ぁ」
瞬間、モノクロ女から物理的な衝撃を伴う程の威圧――神威が発せられ周囲に亀裂が走った。
対してなんでも屋はいつも通りの表情の見えぬ笑顔で受け答える。
「ええ、私はただのなんでも屋。お客様のお求めになるものならば砂漠に落ちた砂金の一粒! 海にこぼれた涙の一雫! 空に煌めく星々までも手に入れてご覧に入れましょう! 今回はそんな類のご依頼にございますはい」
椅子から立ち上がり舞台のように口上と共に踊りだすアラストール。
そのまま話し続けるのかと思いきや、椅子に座り直し懐からティーカップとポットを出して紅茶をすすりながら改めて話しだした。
「つまりぃ無理難題ってことぉ? それもボク関連でぇ?」
空洞の目を向け首を傾げる。声音や行動とは裏腹に神威は先程から同じように放ち続けていた。
「いえいえ、無理難題というほどではございません。そんなに警戒せずとも、今回は貴女を封じに来たわけでも殺しに来たわけでもございません。事実確認と動向調査程度でございます」
アラストールは何でもないように語り、その上で佇まいを直し相手に問う。
「アレは一体何でございましょうか? とてもではございませんが真っ当なものではない……となれば外法の類で作られた存在。しかしアレには理性がございました。この眼で確認したので間違いようもありません。明らかに身体と魂が合っていない上に根幹が規格外もいいところでございます」
静かにただ静かに事実確認を行うアラストール。
その言葉には有無を言わせぬ虚偽は許さないという不思議な重みがあった。
「くふふふぅそんなに怒らないでほしいなぁ? 大したことじゃないよぅ……あっちに飛ばすには強度が足りなかったからぁちょっとだけぇ混ぜただけだよぅ……? くぅふふふふぅ」
悪びれるわけでもなく、恐れるわけでもなく、ただ笑いながら自身の行いを伝える。
それがどれほどおぞましいかを理解しながら、一切の罪悪感を抱かず、事実としてのみ己が行いを認識する。
ああなるほどこれは正しく――狂っている
「何を混ぜたのか……より正確には何を企んでいるのか、それを聞きたいところではございますが……残念ながら貴女は答えてくださらないでしょう? 本日はここまでと致しましょう。もしご依頼がございましたらなんでも屋アラストールをご利用くださいませ! 狂気と享楽の神マルサメ様」
言葉の終わりと共に跡形もなく消えるなんでも屋。
一柱の神が創り上げた神域に無断で現れ、苦もなく還る。
そんな商人が居てたまるかとモノクロ女――マルサメは吐き捨てる。
アレに目をつけられたのならば危ないところだった。
独自の判断で動いた場合この身が消され送り込んだ彼も消される可能性が高かった。
しかし幸か不幸か送り込んだ世界の神がなんでも屋に依頼をして調査をしていた。
依頼内容次第でこちらの安全は保証される。
事実今回は一切の攻撃を受けなかった。
やはりあの世界の神は優しくて甘くてぬるい。
「くふっくふふふふふぅ……! 気付かないぃ気付けないぃ……! 今の段階であの程度の認識ならばぁ最後まで気づけないよぅふふふくふふふふぅ!!」
マルサメは狂笑を上げる。
己の創った世界で閉じられた世界で。
「必ず……必ず開放してあげる。待ってて……待っててねぇ!! くふふふぅ!!」
泣くように笑う。




