ある日、山の中、魔族さんに出会ったっす
『やべえ猿畜生逃げロ!!』
長身の女性を見た瞬間、輪っかさんから切羽詰まった叫び声が頭に響いたっす。
急な事で戸惑ったっすけど、捕まったらどうなるかわからない以上輪っかさんに同意っす!
そうして自分は逃げ出したっす……イメージでは。
逃げようと足に力を入れたときにはもうすでに捕まっていたっす。
大きいのに動き早くないっすかね!?
「あらあらぁ〜可愛いお客様だこと〜。せっかく来てくれたのだから〜中に入ってお茶でも飲んでいって下さいな〜」
女性は自分と小さいお方をまとめて抱き上げたまま小屋の中に入っていったっす。
ニコニコ笑っていてとても優しそうっす。
輪っかさんこの人危ない人なんすか?
『やべえヤベぇやべえ! 何でこンな所に魔族がいやがル!! なンとかして逃げロ! 機嫌損ねたラ一瞬で消し飛ばされンぞ!』
消し飛ぶんすか!?
というか魔族ってなんすか? 魔物とは違うんすか?
「魔族っていうのは〜生まれながらにして魔法の使える種族のことよ〜広義の意味で言うのなら〜魔物や魔獣も魔族ね〜。まぁそう呼ばれるようになるには〜、知恵を持ち〜言葉を喋れるようにならないと〜いけないけどね〜」
へぇそうなんすか……!?
わわわわ輪っかさん! この人自分と会話してないっすか!?
『だかラ早く逃げろっつッてンだろ!! 魔族ハ低級の魔物相手なラあル程度ノ思考を拾ッてきやがル! 考えてルこと筒抜けにナッかラ何も考えずに逃げ出せ!』
そんな無茶なっす! 逃げることを考えずに逃げ出すとかもう分けわかんないっすよ!?
「あらあらぁ〜そんなに怖がらないでくださいな〜? せっかく私の領域まで来てくださったのですから〜おもてなしをさせて下さいな〜」
ぎゃあやっぱりバレたっす! そしてのんびりした口調のわりに力が強くて抜け出せそうにないっす!
抜け出せないくらいぎっちり掴まれてるのに苦しくない絶妙な力加減っす!
そうして自分と小さいお方は大きな女性の大きなお胸に埋もれてテーブルの前まで連れてこられたっす。
小屋の中はきれいに整頓されていて、それでいて生活感のある素敵な空間だったっす。
「まぁまぁそう思ってくれて嬉しいわぁ〜。お客さんなんて久しぶりだから〜ちょっと不安だったのよ〜。さあこちらに座って待っててくださいな〜今お茶を入れるわね〜」
長身の女性が自分と小さいお方をそれぞれ椅子の上において、奥の方に向かったっす。
多分向こうにキッチンがあるんすかね? お茶入れてくれるって言ってたっすし。
『ヨし!! 今だ逃げロ!!』
女性が見えなくなった途端輪っかさんが叫びだしたっす。
ちょっと落ち着いてほしいっす輪っかさん。あの女性がそんなに危険なものとも思えないっすよ?
もしかしたら優しい魔族さんかもしれないっす。其れに小さいお方がなんだか嬉しそうっすし、もう少しここに留まっててもいいんじゃないっすかね?
『優しい魔族なンかいルわけねえだロ! 魔族っテだけで何千何万といった魔素を吸収してンだ! つまリそレだけ殺して食ッてルってことだ! てメえ等もおやつ感覚でバリボリ食わレンぞ!』
優しそうな人だったっすけど、そう言われるとなんだか優しさの奥に裏があるような気がしてきたっす……!
「お待たせ〜。お茶請けにベリーの砂糖漬けを探してたら時間かかっちゃったわ〜ごめんなさいね〜」
出ていくかどうか考えてそわそわしていたら、女性が奥から戻ってきてしまったっす。
その表情は笑みをたたえて、慈しむかのようにこちらを見ているっす。
……やっぱり悪い人には見えないっす。
「うふふ〜大丈夫よ〜? 別にとって食べたりはしないわ〜。ただお話し相手になって欲しいだけですもの〜」
ああ! 考えたらバレるんだったっす!
「そうね〜あなたのように生まれたばかりの子が〜私みたいなのに急に出会ったら〜恐ろしいわよね〜? ごめんなさいね〜配慮が足りなかったわ〜。嫌だったらお茶飲まなくてもいいからね〜? でも、もしよければ〜お茶を飲んで〜お菓子を食べて〜お話をしましょう〜」
女性は一瞬悲しそうな、寂しそうな顔をしてたっす。すぐに最初と同じ優しい笑顔に戻ったっすけど、すごく辛そうに見えたっす。
大丈夫っすよ! 自分で良ければ話し相手くらいいからでもなるっす! 幸い小さいお方も嬉しそうにお茶請け食べてるっすし。
「あら〜、ありがとう〜優しいお猿さん〜」
そう言って女性は笑ってくれたっす。最初の優しい笑みじゃなくて、心底嬉しそうな満面の笑みっす。
女性に笑顔が戻ってよかったっす。
でも、自分は猿じゃないっす!!




