第15話 無関係だった同級生
香穂子は階段を降りて、職員室へ向かった。望月が変なときは、これしかない。
「前田せんせ~。折り入ってご相談が~」
「んあ? なんだ。珍しいな」
望月のことなら前田だ。さきほどの一連を説明すると、前田は目を見開いた。
「え~!? お前に言ったのか!? 直接!? っか~!」
「なにかご存じなんですか?」
「そりゃあな。けど、お前に言うって短絡的すぎるだろ……」
椅子の背もたれに身を預け、前田は天井を仰ぎ見た。額に手を当て、困惑を露わにしている。
(……知ってるんだ。なら、もしかして)
ここまでくれば、間違いはない気がする。たしかに香穂子は関係がない。
「高杉晴子さんに関係ありますか」
瞬時に、前田は体を起こした。直面した前田の目は、飛び出てきそうだ。
「流星の奴、言ったのか」
「いえ。勝手に調べました。写真部の卒アルに、八年前だけがなかったんです。それで、変だなと思って。望月先生の代ですよね」
「ああ、アレか……頭いい奴は怖いねぇ……」
長いため息を吐いて、前田は黙った。数秒ほど動かないままだったが、ようやく体を起こす。
「悪いが、それは口にしないでやってくれ。流星は関係ないんだ」
「嘘ですよ。だって、先生はきっと……」
「いや。本当に関係ないんだよ。関係ないまま、終わっちまった」
「どういう意味ですか……?」
関係ない――やけに繰り返される。渦中にいるのに、変な話だ。
(ああ、そういえば、さっき……)
こぼれていた望月の言葉は、不思議に感じた。
「もしかして、先生と私は同じ状況にいるんですか?」
「……なんでだ?」
「望月先生、さっき『お前は俺と違うんだな』って言ったんです。同じだと思ってた、ってことですよね。私が高杉晴子さんに似て――」
「椎名!」
両腕を乱暴に捕まれた。セクハラより、パワハラかもしれない。
「聞きたいってのは、よく分かるよ。だが、すまん。そっとしといてくれないか。石黒のことだけ考えてやってくれ、生徒会長」
「私のアイデンティティを持ち出すなんて卑怯ですね。わかりました。なら、一つだけ教えてください」
香穂子は、どうしても知りたかった。分からないから、ここまで引き下がれずにいる。前田の腕を振り払ってつかみ返した。
「関係ないんですね。望月流星は」
名前を呼ぶなと言われた。なぜ嫌がるのか、まだ分からない。
前田はぐっと息を飲み、深く頷いた。
「……ああ」
棘のある返事を返される。嫌悪を浮かべた姿に、なんとなく、佐々木を思い出した。香穂子は、前田から目をそらし、腕を放した。
「分かりました。それで、石黒さんは、どういう状況なんですか? 私まったく知らないんです」
「ああ、そうだったな。ちょっと見に行くか」
香穂子は、まだ石黒のことにも関係ない。けれど、現在の生徒をついでのように言われることは、許せなかった。




