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ケラレ あるいは、きみの残像  作者: 真野蒼子
第四章 高杉晴子~重ねられた八年前~
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第12話 リボンの欠片たち

 翌日から、クリスマスパーティの準備を始めた。

 開催は十二月下旬。冬休みだが、受験生には勉強期間だ。香穂子のような合格組は、未確定組に気を遣う期間となる。忙しくする大義名分があるのは、気が楽になってよかった。


「椎名先輩。ホワイトバック以外も用意しません? つまんないですよ」

「やっぱりそう思う? けど、いまから背景だの衣装を用意するのは、さすがにね。お金もかけられないし」


 佐々木を筆頭に、後輩たちも準備を手伝ってくれていた。パーティらしく盛り上げる手はないか考えていると、がらりと扉が開く。


「ゾンビ男なら出られるよ~」

「殺人ナースもいまーす」

「は――あ! 井口さん! 皆も、どうしたの!?」

「噂を聞きつけてきたんだよ。生徒会長がクリスマスやるぞって」

「まだ準備だけどね。日程確定したら言うから、遊びに来てよ」

「それなんだけど、うちの後輩も参加したらまずいかな。演劇部。準備も手伝うから」

「え? 井口さん、演劇部だったの?」

「いんや。ゾンビがイケすぎててスカウトされたの。あははは」


 肩を揺らして笑う井口の後ろから、一人の生徒が顔を出してくる。同じクラスになったことはないが、同級生だ。


「鎌田さん、だよね。演劇部だっけ。受験は?」

「終わってない。けど、うちの部、ちょっと面倒――大変なことになってて」


 鎌田は苦笑いを浮かべて窓の外を見た。花壇の前で、数人の女生徒が輪を作っている。その中心にいるのは――。


「すごい。ガチめな王子」


 白いスーツで真っ赤なマントを翻すのは、イケメンならぬ、男装の麗人だ。入れ代わり立ち代わり、制服姿の女子生徒が写真をせがんでいる。


「あの王子、本橋翼さんだよね。宝塚へ行くのではと噂の」

「行かないって。普通に受験未確定組。模試最悪だったからレベル下げるって」

「いまから? じゃあ、王子さまやってる場合じゃないでしょ。てか、なにしてんのアレ。演技の練習には見えないけど」

「ファンサービス。後輩にとって、冬休みは『卒業しちゃう翼先輩との貴重な時間』なわけよ。翼、補講で毎日学校いるから、群がっちゃって」

「なにそれ。補講の意味ないじゃない。受験失敗したらどうするの」

「って言っても来るんだよ。他の補講生に迷惑だから、翼が外に出るわけさ」

「え~。人が善すぎない? 私なら怒るわ」

「それが翼のいいとこだけどね。けど、真面目に困るから線引きしたいんだ。楽しいのは今日までにして、明日からは押しかけないで、って」

「ああ、それでクリスマスパーティ」

「うん。後輩に嫌な想いさせるのは、翼も嫌だろうから」

「そっか。いいよ。あ、それなら演劇部の衣装貸してよ。派手にしたくてさ」

「衣装くらい、いくらでも! いや~、ほんとラッキーだよね、うちの学年。椎名さんいてくれて助かった」


 何気なく言われた言葉に口角が揺れた。悪気はないのだろう。香穂子自身、そういわれる学校生活を送ってきた。それなのに、いまは心臓に突き刺さる。


(ラッキー、か)


 いままでは笑って飲み込んでいた。けれど、どうしても脳内で蘇る。


(高杉晴子さんの死も、ラッキーにされた)


 高杉晴子への扱いは、香穂子の心にも爪を立てた。


(どんな生徒会長だったんだろう。私は好きでやってるわ。過剰な押し付けはムカつくけど、もうアイデンティティみたいなもんだし。でも……)


 胸元で揺れる、安っぽいリボンを握り潰す。

 画像の高杉晴子はセーラー服だった。いまの制服リボンよりも大きくて、結構な長さもある。


(……リボンじゃなくてスカーフよね。セーラーは)


 画像しかしらない他人を思い出していると、急に肩を抱かれた。頬が触れそうな距離に井口の顔がある。


「ホントだよ! 椎名さん、頼りになる!」

「た、頼り? 私は雑用係みたいなもんだよ。頼りになるのは、井口さんだわ」

「え~!? いやぁ。あははは!」


 恥ずかしそうに笑う井口から、なぜか目を離せなかった。


(そういえば、皆は井口さんを手伝いたいから、前田先生に相談した。楽できるって、押し付けたってよかったのに。でも、私は……)


 ふと松野のことを思い出した。望月がおかしくなったとき、『一緒に探す』とは言ってくれなかった。


(……つまり、そういうことだわ)


 手が無意識に頬へ伸びる。指先が頬に届いた、そのときだった。うしろから手首をつかまれ、強く引っ張られる。


「きゃっ!」

「うわ!」


 井口も驚き、香穂子から腕を放す。香穂子をとらえたのは、黒服の青年だった。


「……おはようございます、望月先生」

「どうせなら、小道具も持ってこい」

「は?」

「温室を開けてやる。背景を植物だけにすれば、ファンタジーらしく撮れるだろう。ポインセチアくらいなら買ってやる」

「え? あ、ああ、クリスマス?」


 かみ合わない唐突な会話に呆然とした。佐々木が望月を睨んできたから、慌てて笑顔を張り付ける。


「先生、実はクリスマス好きなんですか? 意外」

「卒アルは華やかなほうがいいからな。ああ、そうだ。武器はやめてくれよ。刃物を振り回せば、銃刀法違反になりかねない。なあ、生徒会長」


 望月は横目で香穂子を見て、ニヤリと笑った。


(このヤロウ)


 それでも、少し安心できた。卒業アルバムは、作ってくれるらしい。

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