第10話 八年間の多重露光
井口たちに送り出されて、香穂子は走り出した。
(望月先生、ちゃんと撮ってくれてるかな)
目撃情報を辿りながら駆け回ると、ようやく望月を見つけた。場所は、やはりというか、なんでだと聞きたいような――。
(またゴミ捨て場……)
望月のレンズはゴミの山に向いている。なんの思い出にもならない場所だ。
(も~……生徒を撮ってよ。卒アル作る気ないの?)
怒ってやろうと気合を入れる。けれど、香穂子より先に望月を怒鳴る声がした。
「流星! いい加減にしろ! いまのお前が撮るのは、お前の生徒たちだ!」
体の芯に響く前田の叫びに、香穂子は建物の陰に隠れた。
「……それでも、耳から離れないんです。名前で呼ばれたのは、文化祭の一度だけだった」
「だからなんだ。もう黒服やめろ」
望月は頷かない。ただ、カメラを降ろしてレンズキャップをつけた。二人はまだなにか話している。
(文化祭……)
内容は気になるけれど、香穂子は足音を立てずに走り出した。
(望月先生って、ここの卒業生なのよね。高校時代は十年くらい前)
駆け込んだのは写真部の部室だ。学校に関する写真が残っている。写真部が関係する記録といえば、歴代卒業アルバムだ。本棚に並んでいる卒業アルバムを指で辿る。
「あった。十年前、九年前――あれ? 八年前だけない……」
とりあえず、十年前のアルバムを引っ張り出す。けれど、表紙を見て異変に気付いた。
「桐山中央学園女子高等学校じゃなくて、桐山高校? 誤差っちゃ誤差だけど……普通、正式名称よね……」
不思議に感じながら表紙をめくると、一ページ目で手が止まった。映っている校舎は、いまの校舎とは全く違う。けれど、香穂子には見覚えがあった。
「これ……たしか、旧校舎……」
望月に教えてもらったときも不思議に感じた。旧校舎なんて聞いたことがない。学校の名前が変わったなんて話も、知らなかった。
アルバムの中も確認しようと思ったが、廊下から足音が聞こえてくる。
(やばい)
咄嗟に十年前の卒業アルバムを鞄に入れ、慌てて立ち上がる。同時に扉が開き、入ってきたのは望月だった。
「なにしてる。最終退出時間だぞ」
「レフ版、使いたくて。借りていいですか?」
「珍しいな、人物を撮りたいなんて」
「ナースになって、井口さんを取り合うんです。聞きました? 設定」
「ああ。井口を殺したのは俺らしい」
「え。井口さんの恋人の浮気相手だという、あの?」
「そう。最終的には、その恋人も殺すそうだ。他のナースも」
くっと、望月は小さく笑った。
(笑うんだ、この人)
感情を表に出すと、少しばかり幼く見える。
「……ねえ。先生って、いま何歳?」
「二十六だが……なんだ」
「なんとなく。最後はクラス全員で撮ろう。三脚持って来てね」
「わかってるよ。卒アルに入れないと」
なら、体育祭のあとから今日までの写真は、一体どうしてくれるんだ――と言ってやりたかったけれど、表情を見ると言えなくなった。
(相変わらず、笑うタイミングのわからない人ね。いえ、今日は正しいかしら)
使い慣れていないレフ版を持ち、人のいない下駄箱へ隠れた。スマホで『桐山高校』を検索する。
(いま二十六歳なら、八年前は高三だ。卒アルのない年)
すぐに検索結果が表示された。学校や教育関係のオフィシャルサイトではない。ずらりと並ぶのはネットニュースの記事だ。
一番上に表示されたURLをタップした。並ぶ文字に香穂子の息が詰まる。
「これって……」
上部に概要がまとまっている。たった数行だが、思考を鈍らせるには十分だった。
『都内の高校で三年生の女子生徒が死亡。生徒会長で教師の信頼は厚いが、特定の友人はいなかった。死亡現場であるゴミ捨て場からは、血まみれの包丁が発見されている』
並んだ被害者のパーツに香穂子の指先が震えた。
高校三年生、女子生徒、生徒会長、友人はいない、ゴミ捨て場。そして――包丁。
「……私?」




