第7話 元殺し屋、王女を狙う
翌日。
よろず屋オネェは今日も平和だった。
……昼までは。
「レンお姉様!」
「なぁに♡」
「一緒にお茶しませんこと?」
「仕事は?」
「終わらせましたわ!」
嘘である。
絶対まだある。
でも可愛いから許す。
「お姉様!」
「はいはい♡」
エリーちゃんがアタシの腕に抱きついてくる。
もう慣れた。
最近では王宮の使用人たちからも、
『王女殿下の婚活が終わった』
と言われているらしい。
知らんわ。
「おい王女」
ルミナが呆れ顔になる。
「今日で七日連続だぞ」
「何か問題でも?」
「仕事しろ」
「しておりますわ」
「どこで?」
「ここで」
「してない」
いつものやり取りである。
すると。
ガイルが真面目な顔で近付いてきた。
「レン殿」
「あら珍しい」
「少々気になることが」
アタシは顔を上げた。
ガイルが真面目な時は大体面倒事だ。
「何よ」
「ここ数日、誰かに監視されています」
空気が変わる。
エリーちゃんも真顔になった。
「……確かですの?」
「はい」
「アタシも昨日見たわ」
屋根の上にいた黒い影。
あれね。
ガイルは頷いた。
「おそらく相当な手練れです」
「へぇ」
「私でも気配を見失いました」
それは珍しい。
ガイルは脳筋だけど強い。
そのガイルが見失うなら本物だ。
「王女を狙ってる可能性は?」
「高いです」
エリーちゃんが少しだけ表情を曇らせる。
だがすぐに胸を張った。
「大丈夫ですわ!」
「何が?」
「レンお姉様がおりますもの!」
「んまぁ♡」
信頼が重い。
非常に重い。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
エリーちゃんは王宮へ帰るため馬車に乗っていた。
護衛はガイル。
アタシとルミナも同行している。
「レンお姉様」
「なぁに?」
「最近毎日幸せですわ」
「そう」
「レンお姉様に会えますし」
「そう」
「レンお姉様と話せますし」
「そう」
「レンお姉様が美しいですし」
「そう♡」
褒められるのは好き。
すると。
ガイルが突然叫んだ。
「伏せろ!!」
次の瞬間。
馬車の窓を何かが貫通した。
ドゴン!!
「きゃあ!?」
エリーちゃんが悲鳴を上げる。
窓枠に突き刺さったのは――
短剣だった。
「暗殺か」
ガイルが剣を抜く。
周囲を警戒する。
「どこだ!」
返事はない。
だが。
気配だけがある。
屋根の上。
建物の陰。
視線だけがこちらを見ていた。
「へぇ」
アタシは少し笑った。
「やるじゃない」
その瞬間。
黒い影が飛び出した。
速い。
異常に速い。
ガイルが迎撃しようとする。
だが――
空振った。
「なっ!?」
一瞬で背後を取られる。
「遅い」
少女の声。
次の瞬間。
ガイルの首筋に短剣が添えられていた。
全員が凍りつく。
「うそでしょ」
アタシも少し驚いた。
ガイルが瞬殺された。
いや殺されてはいないけど。
戦闘不能である。
「ガイルぅぅぅ!?」
ルミナが叫ぶ。
少女は黒いフードを被っていた。
小柄。
細身。
年齢は十六歳くらい。
だけど目だけが異常だった。
何人も殺してきた目。
「標的確認」
少女はエリーを見る。
「エレオノーラ王女」
「……!」
エリーちゃんの顔が強張る。
少女は短剣を構えた。
「依頼だから殺す」
だが。
その瞬間。
「ダメよ♡」
アタシが前に出た。
少女の目が細くなる。
「……」
「女の子に刃物向けるなんて美しくないわねぇ」
「退いて」
「嫌よ」
少女はアタシを見る。
そして。
初めて表情を変えた。
「……見えてるの?」
「あら?」
「今の動き」
なるほど。
ガイルが反応できなかった速度。
普通は見えないのね。
アタシは笑う。
「見えてるわよ♡」
少女の瞳がわずかに揺れた。
「……変なオネェ」
「よく言われるわ」
次の瞬間。
少女の姿が消えた。
そして――
アタシの背後に現れる。
だが。
「遅い♡」
ガシッ。
短剣を持つ手首を掴んだ。
少女の目が見開かれる。
「なっ……」
「捕まえた♡」
そのまま地面へ叩きつける。
ドゴォン!!
石畳が砕けた。
「いっっっ!?」
少女が初めて悲鳴を上げた。
ルミナが引いている。
ガイルも引いている。
エリーちゃんだけ目を輝かせていた。
「レンお姉様かっこいいですわぁぁ!」
違う。
そこじゃない。
問題は。
アタシに押さえ込まれながら。
少女が呆然としていることだった。
「……負けた」
「そうね♡」
「初めて」
少女はポツリと言った。
その顔は。
どこか寂しそうだった。




