第6話 王都で一番有名なオネェ
よろず屋オネェ開業から一週間。
王都では、ある噂が広がっていた。
「何でも解決するオネェがいる」
――という噂である。
「いや、雑すぎない?」
朝一番。
アタシは依頼書の山を見ながら呟いた。
もっとこう。
凄腕とか。
敏腕とか。
そういう言い方はないのかしら。
「十分すごいと思いますわ!」
エリーちゃんが即答した。
今日もいる。
もはや常連である。
「レンお姉様は王都最高ですもの!」
「そうかしら♡」
「はい!」
可愛い。
非常に可愛い。
「王女」
ルミナが横から言った。
「仕事は?」
「しておりますわ」
「どこで?」
「ここで」
「してないじゃん」
そんなやり取りをしていると。
ガイルが大量の荷物を抱えて入ってきた。
「依頼完了しました!」
ドォン!
床が揺れた。
「だから静かにしなさい」
「申し訳ありません!」
うるさい。
今日も元気である。
そんな中。
通信用魔導具が鳴った。
リンリンリン。
「はいはーい♡ よろず屋オネェよ♡」
『た、大変です!』
切羽詰まった男の声。
『市場通りで荷崩れが起きまして!』
「へぇ」
『道路が塞がってるんです!』
「へぇ」
『商人たちが大喧嘩を始めてまして!』
「へぇ」
『今にも殴り合いです!』
「行くわ♡」
即答だった。
営業時間中だもの。
仕事よ仕事。
◇ ◇ ◇
市場通り。
現場は大混乱だった。
「お前の荷物が邪魔なんだ!」
「そっちが避けろ!」
「ふざけんな!」
怒鳴り合う商人たち。
中央には大量の木箱。
完全に交通が止まっていた。
「あらあら」
アタシはため息を吐いた。
「美しくないわねぇ」
全員が振り返る。
「出た!」
「オネェだ!」
「よろず屋オネェだ!」
なんか有名になってる。
微妙な気持ちである。
「ガイル」
「はい!」
「荷物どかして」
「了解です!」
ガイルは木箱の山へ向かった。
そして。
持ち上げた。
全部。
「え?」
商人たちが固まる。
アタシも少し引いた。
「ガイル」
「はい!」
「それ人間の力?」
「気合いです!」
「そう」
聞いたアタシが悪かった。
五分後。
道路は綺麗になった。
だが。
商人たちの喧嘩は終わらない。
「こいつが悪い!」
「そっちだ!」
「俺じゃない!」
「私でもない!」
面倒ね。
非常に。
面倒ね。
「ルミナ」
「なに?」
「犯人わかる?」
「神様を何だと思ってるのよ」
「便利家電」
「最低」
そう言いつつ。
ルミナは目を閉じた。
数秒後。
「あっち」
「え?」
「赤い帽子の人」
全員が振り返る。
そこには。
逃げようとしている男がいた。
「げっ」
明らかに怪しい。
「捕まえなさい」
「はい!」
ガイルが飛んだ。
本当に飛んだ。
そして一秒後。
男を確保していた。
怖い。
この騎士怖い。
結局。
男はライバル商会の妨害工作員だった。
事件解決。
十分である。
「ありがとうございました!」
「助かりました!」
「流石オネェ!」
周囲から拍手。
アタシは優雅に手を振った。
「また何かあったら来なさい♡」
よろず屋は評判が命。
営業スマイルも大事なのよ。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
店へ戻ったアタシたちは依頼料を数えていた。
「おぉ」
エリーちゃんが声を上げる。
「結構増えましたわ!」
「そうね」
最初の頃より明らかに依頼が増えている。
順調だ。
かなり順調だ。
その時だった。
店の外。
向かいの屋根の上。
誰かがいた。
黒いフード。
小柄な体。
そして鋭い視線。
その人物は。
よろず屋をじっと見つめていた。
「……」
一瞬だけ。
アタシと目が合う。
次の瞬間。
姿が消えた。
「ん?」
「どうしましたの?」
エリーちゃんが聞く。
「いや」
気のせいかしら。
でも。
あの目。
普通じゃなかったわね。
獲物を見る目だった。
◇ ◇ ◇
王都の裏路地。
黒いフードの少女が屋根から飛び降りる。
「……よろず屋オネェ」
少女は小さく呟いた。
手には一枚の依頼書。
そこに書かれている名前は――
エレオノーラ王女。
「面倒な護衛が増えたな」
少女はため息を吐く。
そして。
腰の短剣に触れた。
「仕事だから仕方ないか」
月の見えない空の下。
少女は静かに闇へ消えた。




