第5話 脳筋騎士、就職希望です
よろず屋オネェ開業から三日。
レンちゃんの店は、すでに王都でちょっとした話題になっていた。
「荷物運びを頼んだら半日で終わった」
「迷子猫を見つけてもらった」
「壊れた荷車まで直してくれた」
依頼の内容は小さい。
だけど、そのどれもが異常な速度で解決していた。
「はい次ー♡」
アタシは受付カウンターで依頼書を整理する。
現在時刻――十五時。
まだまだ営業時間中だ。
「レンお姉様! 本日のおやつですわ!」
エリーちゃんが元気よく飛び込んできた。
今日も可愛い。
そして今日も両手いっぱいのお土産付きだった。
「んまぁ♡ 気が利くじゃない」
「レンお姉様のためなら当然ですわ!」
「おい王女」
後ろからルミナが呆れた顔をする。
「完全に通ってるじゃない」
「何か問題でも?」
「仕事しろ」
「しておりますわ」
してない。
絶対してない。
そんなやり取りをしていると。
店の扉が勢いよく開いた。
ドォン!!
「レン殿ぉぉぉぉ!!」
入ってきたのは巨大な騎士だった。
身長は二メートル近い。
筋肉の塊。
まるで歩く城壁である。
「あら」
アタシは思い出した。
盗賊襲撃の時に生き残っていた騎士だ。
「確か……」
「ガイルです!!」
本人が名乗った。
「ガイル・バルドと申します!!」
声がでかい。
店が揺れた。
「静かにしなさい」
「申し訳ありません!!」
さらにでかかった。
うるさい。
とても。
うるさい。
「で、今日は何の用?」
するとガイルは突然跪いた。
ドガンッ!!
床が鳴った。
「お願いがあります!!」
「嫌な予感しかしないわね」
「私を雇ってください!!」
沈黙。
数秒後。
「は?」
アタシは聞き返した。
ガイルは真顔だった。
「レン殿に命を救われて以来、私は考えました!」
「ええ」
「私はレン殿に一生ついていきたい!!」
「重い」
「なので雇ってください!!」
「重い」
即答だった。
だがガイルは諦めない。
「私は強いです!」
「そう」
「荷物運びできます!」
「そう」
「掃除できます!」
「そう」
「寝なくても二日は動けます!」
「知らないわよ」
「なので雇ってください!!」
うるさい。
声量が。
うるさい。
ルミナが耳を塞いでいる。
エリーちゃんはなぜかキラキラした目で見ていた。
「レンお姉様の初めての従業員……」
「勝手に決めないで」
よろず屋はまだ儲かっていない。
従業員を雇う余裕などない。
アタシは断ろうとした。
その時だった。
店の外から悲鳴が聞こえた。
「きゃああああ!!」
全員が振り返る。
通りの向こう。
一頭の暴走馬が走っていた。
荷車を引いたまま突っ込んでくる。
人々が逃げ惑う。
「まずい!」
ガイルが飛び出した。
だが間に合わない。
暴走馬の進路には幼い子供がいた。
泣きながら立ち尽くしている。
「やだもう!」
アタシも駆け出した。
だけど――
先に動いたのはガイルだった。
「おおおおおおお!!」
正面から馬へ突撃。
そして。
止めた。
力技で。
真正面から。
両腕だけで。
馬と荷車を。
止めた。
通行人たちが固まる。
アタシも固まった。
ルミナも固まった。
エリーちゃんだけ拍手していた。
「すごいですわー!」
いや本当にすごい。
意味が分からない。
ガイルは汗だくになりながら振り返った。
「レン殿!!」
「何よ」
「採用ですか!!」
アタシはため息を吐いた。
使える。
めちゃくちゃ使える。
脳筋だけど。
うるさいけど。
圧がすごいけど。
使える。
「試用期間三か月」
ガイルの目が輝いた。
「本当ですか!!」
「声がでかい」
「ありがとうございます!!」
「だからうるさいって」
こうして。
よろず屋オネェに。
最初の従業員が加わった。
ちなみに。
その日の閉店後。
十八時を過ぎて桃瀬モードになった俺は。
「ガイル」
「はい!」
「明日から朝六時集合」
「了解です!」
「倉庫整理も追加」
「了解です!」
「給料は店が軌道に乗ってから」
「了解です!」
喜んでいた。
こいつ。
思ったより社畜適性が高いかもしれない。




