第4話 よろず屋オネェ、開業します
王都の大通り。
人通りの多い一等地に、その建物はあった。
「……なるほどねぇ」
アタシは腕を組んだ。
目の前には三階建ての立派な館。
白い石造り。
広い敷地。
立地も完璧。
――ただし。
「ボロいわね」
中は悲惨だった。
埃まみれ。
蜘蛛の巣だらけ。
家具はガタガタ。
窓ガラスも割れている。
長年放置されていたのが一目で分かった。
「お父様ったら! ちゃんと綺麗にしてから渡せばいいのに!」
エリーちゃんが頬を膨らませる。
「いや、十分よ」
アタシはニヤリと笑った。
こういうのは嫌いじゃない。
むしろ燃える。
何もない場所を作り上げるのは得意分野だ。
前世でも店舗立ち上げは何度も経験している。
「さぁ働くわよ!」
「えぇぇぇぇぇ!?」
ルミナちゃんが悲鳴を上げた。
「なんで私まで!?」
「住んでるじゃない」
「勝手に住まわされたのよ!」
「じゃあ野宿する?」
「働きます!」
即答だった。
よろしい。
◇ ◇ ◇
それから数時間。
館の中は戦場になった。
「ルミナ!」
「なによ!」
「その棚持ち上げて!」
「神の力を引っ越し業者みたいに使わないでぇぇ!」
ふわり。
棚が浮く。
便利ね。
「次!」
「次ぃ!?」
「窓!」
「はいはい!」
文句を言いながらも働く。
実に優秀だ。
神様としてではなく雑用係として。
「レンお姉様!」
そこへエリーちゃんが駆け込んできた。
後ろには馬車が三台。
大量の荷物を積んでいる。
「あら?」
「家具を持ってきました!」
「早いわね」
「王宮倉庫から選んできました!」
お姫様。
権力の使い方が雑である。
馬車から次々と高級家具が運ばれてくる。
ソファ。
机。
棚。
絨毯。
照明。
どう見ても高級品ばかりだ。
「エリーちゃん?」
「はい!」
「いくらなんでも豪華すぎない?」
「レンお姉様用ですので!」
満面の笑みだった。
騎士たちが遠い目をしている。
多分止めたんでしょうね。
止まらなかっただけで。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
館の中は見違えていた。
広い受付。
相談スペース。
休憩スペース。
依頼人用の椅子。
綺麗な内装。
高級感もある。
「完璧ね」
アタシは満足そうに頷いた。
するとエリーちゃんが目を輝かせる。
「流石です!」
「まだ終わりじゃないわ」
アタシは入口へ向かった。
そして一枚の木板を取り出す。
昨夜のうちに職人へ頼んでおいたものだ。
ピンク色の文字。
目立つデザイン。
分かりやすい看板。
アタシはそれを掲げた。
そこには大きくこう書かれていた。
【よろず屋オネェ】
数秒。
沈黙。
「…………」
「…………」
「…………」
エリーちゃん。
ルミナちゃん。
騎士たち。
全員が固まった。
「どう?」
アタシは聞いた。
「最高ですわ!!」
エリーちゃんが叫んだ。
「えぇ……」
ルミナちゃんは引いていた。
気にしない。
センスとは理解されないものよ。
◇ ◇ ◇
夕方。
ようやく全ての準備が終わった。
アタシはカウンターに座る。
スマホを見る。
【17:58】
ギリギリね。
「ふぅ」
疲れた。
でも悪くない。
異世界に来て二日。
もう店まで持てた。
上出来だ。
「レンお姉様!」
エリーちゃんが嬉しそうに言った。
「開業祝いをしましょう!」
「いいわねぇ」
「王城で晩餐会を!」
「いいわねぇ」
「泊まっていきますわよね!?」
「いいわねぇ」
その時。
ピピッ。
腕時計が鳴った。
【18:00】
アタシは静かにシュシュへ手を伸ばした。
そして外す。
さらりと髪が落ちる。
「……あー」
低い声。
空気が変わる。
「れ、レンお姉様?」
エリーちゃんが目を瞬かせた。
俺は椅子から立ち上がる。
「悪い」
「え?」
「定時」
「て、定時?」
「帰る」
エリーちゃんが固まった。
ルミナちゃんは青ざめた。
昨日見たからだろう。
営業時間外の俺を。
「今日は終わり」
「えっ」
「晩餐会もまた今度」
「ええっ!?」
「残業はしない」
俺は真顔で言った。
「仕事は仕事」
「休みは休み」
「それが大事だから」
しばらく沈黙。
そして。
「素敵ですわぁぁぁぁ!!」
エリーちゃんが顔を真っ赤にした。
なんで?
「お姉様なのに格好良い殿方ですわぁぁぁ!!」
「姫様!?」
「新しい扉が開きましたわぁぁ!!」
騎士たちが慌てている。
ルミナは頭を抱えていた。
「終わったわねこの王女……」
俺は面倒になったので帰ることにした。
「ルミナ」
「なによ……」
「戸締まり」
「なんで私!?」
「住んでるだろ」
「横暴!」
文句を言う声を背に。
俺は店を後にした。
こうして王都に新たな店が誕生した。
その名は――
よろず屋オネェ。
そして翌日。
記念すべき最初の依頼人が、この店を訪れることになる。




