第3話 王女様、国を動かす
翌朝。
王城の客室で目を覚ましたアタシは、大きく伸びをした。
「ふぁ~……よく寝たわぁ」
ふかふかのベッド。
高級宿顔負けの調度品。
朝から運ばれてくる豪華な朝食。
異世界生活一日目にして、なかなか良いスタートじゃない。
ちなみに。
ルミナちゃんはというと――
「むにゃ……お肉……もっとぉ……」
ソファで涎を垂らして爆睡していた。
昨日の晩餐会で一人だけ五人前食べていた女である。
神様ってそんなに燃費悪いの?
コンコン。
扉が叩かれた。
「レンお姉様! 朝ですわ!」
元気いっぱいの声。
扉を開けると、そこには満面の笑みを浮かべたエリーちゃんがいた。
「おはよう、エリーちゃん」
「おはようございます!」
朝から可愛い。
そして近い。
「お父様との謁見が午前中に決まりました!」
「早いわねぇ」
「私がお願いしました!」
でしょうね。
むしろエリーちゃん以外に犯人がいない。
◇ ◇ ◇
数十分後。
アタシたちは王城の謁見の間へ案内されていた。
豪華な赤絨毯。
巨大な柱。
ずらりと並ぶ騎士たち。
そして。
最奥の玉座に座る一人の男。
国王だった。
「面を上げよ」
威厳のある声が響く。
アタシは顔を上げた。
五十代ほどだろうか。
立派な髭を蓄えた、いかにも王様という風格の男だった。
「お前が娘を救ったという異邦人か」
「そうよぉ♡」
周囲がざわついた。
構わない。
これがアタシだもの。
国王は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに苦笑した。
「随分と変わった人物だな」
「よく言われるわぁ♡」
すると。
隣にいたエリーちゃんが一歩前に出た。
「お父様!」
嫌な予感がした。
「レンお姉様は絶対に王都へ残すべきです!」
始まった。
「ほう?」
「強いです!」
「うむ」
「優しいです!」
「なるほど」
「美しいです!」
「……そうか」
「最高です!」
「エリー?」
「王都でお店を開いていただきましょう!」
国王が頭を押さえた。
騎士たちも目を逸らしている。
どうやらいつものことらしい。
「エリーよ」
「はい!」
「落ち着け」
「無理です!」
即答だった。
王女様が暴走している。
「お父様は見ていないから分からないのです! レンお姉様は本当に凄いのです!」
「そこまで言うなら何か根拠はあるのか?」
「あります!」
エリーちゃんは胸を張った。
「レンお姉様は何でもできます!」
「ほう?」
「何でもです!」
「例えば?」
「えっと……」
エリーちゃんが固まった。
勢いで来たわね、この子。
アタシは苦笑しながら前に出た。
「美容師」
「?」
「接客」
「?」
「販売」
「?」
「警備」
「?」
「料理」
「?」
「大工仕事も少し」
国王の眉が上がる。
周囲もざわつき始めた。
「なんだそれは」
「よろず屋よ♡」
「よろず屋?」
「困り事を解決するお仕事」
国王は興味深そうに顎を撫でた。
「面白い」
食いついた。
ここからが商談よ。
「ただし」
アタシはニッコリ笑った。
「働くなら職場環境は大事よぉ?」
「ほう」
「住む場所」
「うむ」
「仕事場」
「うむ」
「生活基盤」
「うむ」
「それがなきゃ営業できないじゃない♡」
国王は笑った。
豪快に。
「はっはっはっ!」
周囲の騎士たちも驚いている。
「なるほどな。対価を求めるか」
「当然よ」
「面白い」
国王は玉座にもたれた。
「では聞こう」
「何かしら?」
「お前ならこの国に何をもたらせる?」
試されている。
だけど。
アタシは迷わなかった。
「笑顔よ」
国王が目を細める。
「笑顔?」
「困ってる人を助ける」
「うむ」
「悩んでる人を解決する」
「うむ」
「そうしたら人は笑うじゃない?」
それがアタシの仕事だ。
前の世界でも。
この世界でも。
「だからアタシはよろず屋をやるの」
静寂が落ちる。
数秒後。
国王はゆっくり頷いた。
「良いだろう」
エリーちゃんが顔を上げる。
「お父様!?」
「娘の命を救った恩人だ」
国王は笑った。
「王都での活動を許可する」
「やったぁ!」
エリーちゃんが飛び跳ねた。
しかし。
国王の言葉は続いた。
「さらに王都大通りの空き館を一つ貸し与えよう」
アタシが瞬きをした。
「え?」
「使っていない建物がある」
「え?」
「好きに改装しろ」
「え?」
「店にするのだろう?」
やだ。
話が早い。
するとエリーちゃんが歓声を上げた。
「ありがとうございますお父様!」
「ただし」
国王はニヤリと笑った。
「結果は出してもらうぞ」
アタシも笑った。
「もちろんよ♡」
こうして。
異世界に来て二日目。
アタシは王都の一等地に店舗候補を手に入れたのだった。
――そしてこの決定が、後に王都中を巻き込む『よろず屋オネェ』誕生の第一歩となる。




