第2話 王女様は、お姉様を離したくない
盗賊たちを追い払った後。
街道にはようやく静けさが戻っていた。
騎士たちは負傷者の手当てに追われ、豪華な馬車の前では金髪の王女――エリーちゃんが、キラキラした目でアタシを見つめている。
「あの……改めて、お礼を言わせてください」
そう言って、エリーちゃんは深々と頭を下げた。
「命を救っていただき、本当にありがとうございました」
「いいのよぉ。女の子を助けるのはアタシの趣味みたいなものだし♡」
「素敵です……!」
やだ。
目が完全に恋する乙女なんだけど。
「エリーちゃん?」
「はいっ!」
「近いわ」
「申し訳ありません!」
一歩下がる。
でも数秒後にはまた近付いてくる。
犬かしらこの子。
そんな様子を見ていたルミナちゃんが呆れたようにため息をついた。
「王女様、その人そんな理想的な生き物じゃないわよ?」
「え?」
「私を誘拐犯扱いするし」
「誘拐したのでは?」
「転移させただけよ!」
「一般的には同じでは……?」
「ぐぬぬぬ……!」
エリーちゃんの純粋な一撃がルミナちゃんに刺さる。
「しかも神様なのに全然敬ってくれないし!」
「敬う要素ありました?」
「あるわよ!?」
「どこにですか?」
「えっと……その……」
ルミナちゃんが黙った。
エリーちゃんも黙った。
アタシも黙った。
「ほらぁぁぁ!!」
ルミナちゃんが泣いた。
騎士たちから笑いが漏れる。
どうやら緊張もほぐれてきたらしい。
その時だった。
「姫様」
低い声が響く。
振り向くと、一人の大柄な騎士が歩いてきた。
傷だらけの鎧を身にまとった屈強な男だ。
「王都へ戻る準備が整いました」
「ありがとう」
どうやら護衛隊長らしい。
男はアタシを見ると深々と頭を下げた。
「姫様を救ってくださったこと、騎士団を代表して感謝いたします」
「あら、律儀なのね」
「当然です」
真面目そうな男だ。
嫌いじゃないわ。
するとエリーちゃんが突然アタシの両手を握った。
「レンお姉様!」
「なぁに?」
「ぜひ王都へ来てくださいませ!」
来たわね。
予想通り。
「住む場所を用意します!」
「へぇ」
「お仕事も紹介します!」
「ほぉ」
「お金も出します!」
「いいわねぇ」
「お店も用意します!」
「んまぁ!」
「なんなら私のお部屋の隣に住んでくださいませ!」
「エリーちゃん?」
「はい!」
「それは流石に早いわ」
お姫様の距離感がバグってる。
護衛騎士も頭を抱えていた。
「姫様、その発言は色々問題があります」
「命の恩人です!」
「それでもです!」
騎士の胃が痛そうだわ。
アタシはスマホを取り出した。
時計を見る。
【14:18】
まだ営業時間内。
問題なし。
「王都までどれくらい?」
「馬車で一時間ほどです」
「なら行くわ」
「本当ですか!?」
エリーちゃんの顔が一気に明るくなった。
可愛いわねぇ。
「ただし条件があるわ」
「何でしょう!」
「アタシ、異世界でもよろず屋をやるつもりなの」
「よろず屋?」
「困り事を解決する何でも屋さんよ」
美容師。
接客。
販売。
営業。
警備。
引っ越し。
料理。
前世で覚えた仕事は数知れない。
だったら異世界でも同じだ。
できることを売る。
それだけ。
「素敵です!」
エリーちゃんは即答した。
「王都には困っている方がたくさんいます!」
「それは商売の匂いがするわねぇ♡」
「ぜひ来てください!」
「決まりね」
こうしてアタシは王都行きを決めた。
◇ ◇ ◇
王都へ向かう馬車の中。
エリーちゃんはアタシの隣から一歩も動かなかった。
「レンお姉様はお酒を飲まれますか?」
「飲むわよぉ」
「好きな食べ物は?」
「肉」
「休日は何を?」
「寝る」
「素敵……」
何が素敵なのかしら。
すると向かいに座っていたルミナちゃんが呆れ顔で言った。
「王女様、その人かなり適当よ?」
「完璧ですわ!」
「どこが!?」
「全てです!」
重症だった。
完全に手遅れだわ。
◇ ◇ ◇
夕方。
巨大な城壁が見えてきた。
王都だった。
「やだぁ……」
思わず声が漏れる。
人で溢れる大通り。
立ち並ぶ店。
活気ある市場。
そして大量のお客様候補。
「これは稼げそうねぇ♡」
目が輝く。
そんなアタシを見てエリーちゃんも嬉しそうに微笑んだ。
「きっとレンお姉様なら王都でも大人気になりますわ」
「当然よ♡」
馬車はそのまま王城へ向かった。
白亜の城。
美しい庭園。
明らかに一般人が入れない場所。
「今日はお城に泊まってくださいませ」
「いいの?」
「もちろんです!」
エリーちゃんは力強く頷いた。
「明日、お父様に会っていただきます」
「お父様?」
「国王陛下です」
あら。
いきなり大物ね。
「面白そうじゃない♡」
こうしてアタシは異世界初日にして王城へ招かれることになった。
――そして翌日。
エリーちゃんの暴走によって、国王を巻き込んだ大商談が始まることになる。




