表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのオネェ、異世界でよろず屋を開業する  作者: S@Y@


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/21

第1話:そのオネェ、定時内につき


 桃瀬蓮には絶対に譲れない信条がある。


 定時は正義。


 残業は悪。


 何があろうと十八時には帰る。


 それが彼――いや、昼間だけオネェになる男『レンちゃん』の生き様だった。


「やだぁ~! だから言ったじゃない! その踏み込みじゃ三流以下だって!」


 午後五時五十分。


 街頭演説中の要人へ突撃してきた男を、レンちゃんは華麗な体術で地面へ沈めた。


 周囲から悲鳴と歓声が上がる。


「す、すごい……!」


「犯人を一瞬で……!」


「レンちゃんカッコいいー!」


 黄色い声援に、レンちゃんはウインクを飛ばした。


「当然よ♡ アタシ、仕事だけは一流なの」


 そして――。


 ピピピピッ。


 腕時計のアラームが鳴った。


 十八時。


「あ、お疲れっした」


 シュシュを外す。


 途端に空気が変わった。


「桃瀬さん!? まだ引き渡しが――」


「定時です」


 低い男の声。


「続きは明日で」


「いや無理ですよ!?」


「無理じゃないです。俺は今からビール飲むので」


 そう言い残し、桃瀬は去った。


 残された同僚たちは頭を抱えた。


 いつものことだった。


◇◇◇


 十八時三十分。


 桃瀬が居酒屋へ向かって歩いていた時だった。


 空が歪んだ。


「……は?」


 巨大な光の裂け目。


 次の瞬間、凄まじい引力が襲いかかる。


 普通なら吸い込まれる。


 だが桃瀬は違った。


 元SPとして鍛え上げられた身体が瞬時に反応する。


 地面を蹴り、引力圏から離脱。


 本来ならそれで終わるはずだった。


 しかし――。


『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?』


 頭の中に女の声が響く。


『なんで召喚を避けてるの!?』


「知らん」


『普通は避けないのよ!』


「普通じゃないんで」


『ああもう面倒くさい! 出力最大ァァァ!!』


「は?」


 世界が白く染まった。


◇◇◇


「……なるほど」


 目覚めた桃瀬は空を見上げた。


 見知らぬ森。


 知らない植物。


 スマホは圏外。


「異世界か」


 驚きはしなかった。


 前世で読んだ小説知識がある。


 状況証拠も十分だ。


「まぁいいか」


 どうせ帰れないなら仕方ない。


 問題は今後の生活である。


 その時だった。


「うぅぅぅ……」


 近くの茂みから情けない泣き声が聞こえた。


 覗き込む。


 そこには神々しい美少女がいた。


 頭に巨大なたんこぶ付きで。


「……誰?」


「ひゃっ!?」


 少女が飛び上がった。


「あなた桃瀬蓮よね!?」


「そうだけど」


「なんで平然としてるのよ!?」


「むしろなんでお前はたんこぶ作ってるんだ」


「あなたのせいよ!」


 理不尽だった。


 話を聞くと、自称女神ルミナは桃瀬を召喚した張本人らしい。


 しかも召喚に抵抗された結果、自分まで巻き込まれて落ちてきたらしい。


「馬鹿なの?」


「神様に向かって馬鹿って言った!?」


「言った」


 ルミナが泣いた。


 面倒くさい。


◇◇◇


 しばらく歩いていると悲鳴が聞こえた。


「誰か! 助けてください!」


 若い少女の声だった。


 桃瀬は反射的に走り出す。


 ルミナが後ろで何か叫んでいたが無視した。


 街道へ飛び出す。


 そこには盗賊に囲まれた馬車があった。


 そして。


 馬車の中には一人の少女。


 金髪に、毛先だけ淡いピンク。


 人形のように整った美少女だった。


 盗賊が少女へ手を伸ばす。


 その瞬間。


 桃瀬の中でスイッチが切り替わった。


「ちょっとあんたたちィィィ!!」


 甲高い声が街道へ響く。


 盗賊たちが固まった。


 桃瀬はシュシュを取り出し、ピンク髪を結い上げる。


 現在時刻。


 十三時。


 営業時間内である。


「オカマだと?」


「失礼ねぇ。よろず屋のレンちゃんよ♡」


 にっこり笑った。


 盗賊たちがなぜか一歩下がった。


 その直後。


 レンちゃんは消えた。


「え?」


 一人目の顎が跳ね上がる。


 二人目が宙を舞う。


 三人目は地面に突き刺さった。


 数秒後。


 立っていたのはレンちゃんだけだった。


「やだ、弱すぎない?」


 盗賊たちは泣きながら逃げ出した。


◇◇◇


 静寂の中。


 少女が馬車から降りてきた。


 震える声で言う。


「あ、ありがとうございました……」


 レンちゃんは優しく微笑んだ。


「怪我はない?」


「はい……」


「良かったわ♡」


 少女の頬が真っ赤になった。


 そして名乗る。


「私はエレオノーラ。この国の王女です」


「王女?」


「ですが……どうかエリーと呼んでください」


 真っ直ぐな瞳だった。


 まるで憧れの英雄を見るような。


 レンちゃんは少しだけ笑った。


「よろしくね、エリーちゃん」


 こうして。


 ポンコツ女神ルミナ。


 王女エリー。


 そして異世界へ飛ばされたオネェ。


 後に異世界中を振り回す『よろず屋』の物語は、この日から始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ