第44話 話し合いは三秒で終わった
「ブヒィィィーー!!」
巨大イノシシが一直線に突っ込んでくる。
◇ ◇ ◇
「レン殿!」
ガイルが前へ出ようとする。
◇ ◇ ◇
「大丈夫よぉ♡」
レンちゃんは片手を上げて制した。
◇ ◇ ◇
「話し合いは終わったもの♡」
◇ ◇ ◇
「三秒でしたよ!?」
レイモンドが叫ぶ。
◇ ◇ ◇
巨大イノシシは勢いを落とさない。
あと数歩。
あと一歩。
◇ ◇ ◇
「はい♡」
ドゴォン!!
◇ ◇ ◇
レンちゃんの拳がイノシシの額を正面から捉えた。
◇ ◇ ◇
「ブヒィィッ!?」
◇ ◇ ◇
巨大イノシシは一回転しながら地面を転がり、木の前でぴたりと止まる。
目をぐるぐる回していた。
◇ ◇ ◇
「終わったな」
ガイルが頷く。
◇ ◇ ◇
「早い」
ニアも呟く。
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「毎回思いますけど……」
レイモンドは頭を抱えた。
「レンちゃんの『話し合い』って何なんですか?」
◇ ◇ ◇
「あらぁ♡」
レンちゃんが笑う。
「ちゃんと一回は話しかけたわよぉ♡」
◇ ◇ ◇
「返事が突進だっただけ」
ルミナが補足した。
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「それは話し合いとは言いません!」
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その時だった。
巨大イノシシがゆっくりと起き上がる。
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「まだやるのか」
ガイルが拳を握る。
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しかし。
イノシシはレンちゃんではなく、巨大うさぎ親子を見た。
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「ブヒ……」
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どこか申し訳なさそうな声だった。
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「……?」
エリーが首を傾げる。
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ルミナは静かに目を閉じる。
「分かった」
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「何がですか?」
レイモンドが尋ねる。
◇ ◇ ◇
「この子も、お腹空いてた」
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全員がイノシシを見る。
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「今年は木の実が少ない」
ルミナが続ける。
「だから集めすぎた」
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「悪者じゃなかったんですの?」
エリーがほっとした表情を浮かべる。
◇ ◇ ◇
「悪いことはした」
ニアが言う。
「でも理由はある」
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レンちゃんはイノシシの前にしゃがんだ。
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「独り占めはダメよぉ♡」
◇ ◇ ◇
「ブヒ……」
イノシシは小さく頭を下げた。
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「ちゃんとみんなで分ければ、ケンカにならなかったのにねぇ♡」
◇ ◇ ◇
「ブヒッ」
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反省しているようだった。
◇ ◇ ◇
ガイルが積まれた木の実を見る。
「これを戻せばいいな」
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「運ぶ」
ニアも手伝い始める。
◇ ◇ ◇
すると。
リス達も一斉に木の実を運び始めた。
◇ ◇ ◇
「手伝ってくれるんですね!」
エリーが笑顔になる。
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「ピィ!」
毛玉も一つだけ木の実をくわえて飛んでいく。
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「あらぁ♡」
レンちゃんが笑う。
「みんな働き者ねぇ♡」
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レイモンドはその光景を見ながら、小さく笑った。
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「今回は……本当に平和な依頼でしたね」
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その言葉に全員が頷いた。
ただ一人。
レンちゃんだけが、森の奥を見つめていた。
◇ ◇ ◇
「あらぁ♡」
◇ ◇ ◇
「どうしました?」
エリーが尋ねる。
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「……誰か見てるわねぇ♡」
◇ ◇ ◇
全員が振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
風が木々を揺らすだけだった。
◇ ◇ ◇
「気のせいじゃありません?」
レイモンドが言う。
◇ ◇ ◇
レンちゃんは微笑んだ。
「そうならいいけどねぇ♡」
◇ ◇ ◇
森の奥では、一組の赤い瞳が静かに彼らを見つめていた。




