第38話 犯人は飛ぶ卵でした
「待ちなさぁぁい♡」
レンちゃんが駆け出す。
その後を全員が追いかけた。
◇ ◇ ◇
「待ってください!」
レイモンドは開始十秒で息が切れていた。
◇ ◇ ◇
羽の生えた卵は、ひらりと屋根の上へ飛び乗る。
「たまごはここのつー♪」
楽しそうだった。
◇ ◇ ◇
「歌ってる場合じゃない!」
レイモンドが叫ぶ。
◇ ◇ ◇
「可愛いですわ……」
エリーは少し癒やされていた。
◇ ◇ ◇
「可愛くても依頼は依頼」
ニアは冷静だった。
◇ ◇ ◇
「捕まえるぞ」
ガイルが塀を飛び越える。
◇ ◇ ◇
しかし。
卵はふわりと飛ぶ。
「たまごはとおー♪」
◇ ◇ ◇
「逃げ足だけは速いわねぇ♡」
レンちゃんが笑う。
◇ ◇ ◇
その時だった。
卵が大きく息を吸う。
そして。
◇ ◇ ◇
「たまごはじゅういちー♪」
◇ ◇ ◇
歌声が王都中へ響いた。
◇ ◇ ◇
すると。
通りを歩いていた人達が。
◇ ◇ ◇
「たまごはじゅうにー♪」
「たまごはじゅうさんー♪」
「たまごはじゅうよんー♪」
◇ ◇ ◇
歌い始めた。
◇ ◇ ◇
「増えたぁぁぁ!!」
レイモンドは頭を抱える。
◇ ◇ ◇
「うつるみたいですわ!」
エリーが驚く。
◇ ◇ ◇
「病気じゃない」
ルミナが耳を澄ませた。
「歌につられてるだけ」
◇ ◇ ◇
「つまり?」
ニアが聞く。
◇ ◇ ◇
「耳に残りすぎる歌」
◇ ◇ ◇
「それだけ?」
◇ ◇ ◇
「それだけ」
◇ ◇ ◇
レイモンドは少し安心した。
「よかった……今回は世界の危機じゃない……」
◇ ◇ ◇
その瞬間。
レンちゃんが立ち止まる。
「あらぁ♡」
◇ ◇ ◇
「どうしました?」
エリーが聞く。
◇ ◇ ◇
レンちゃんは屋根の上の卵を見上げた。
「逃げるのは上手だけど♡」
ニッコリ笑う。
「着地は下手みたいねぇ♡」
◇ ◇ ◇
卵は首を傾げた。
「ピヨ?」
◇ ◇ ◇
次の瞬間。
屋根の瓦が一枚。
カタン。
◇ ◇ ◇
「あ」
レイモンドが呟く。
◇ ◇ ◇
卵の足が滑った。
◇ ◇ ◇
「ぴぃぃぃーーーっ!」
◇ ◇ ◇
ころころころころ!
屋根を転がる。
そのまま。
ポーン!
◇ ◇ ◇
レンちゃんの腕の中へ。
すぽっ。
◇ ◇ ◇
「捕まえたぁ♡」
レンちゃんが卵を抱き上げる。
◇ ◇ ◇
卵は暴れない。
むしろ。
おとなしくなった。
◇ ◇ ◇
「……終わり?」
レイモンドが恐る恐る聞く。
◇ ◇ ◇
その時。
通りの人達が一斉に歌うのをやめた。
◇ ◇ ◇
「戻りましたわ!」
エリーが笑顔になる。
◇ ◇ ◇
依頼人も深々と頭を下げた。
「ありがとうございました!」
◇ ◇ ◇
「よかったわねぇ♡」
レンちゃんは卵の頭を優しく撫でる。
◇ ◇ ◇
「この子、悪気はなさそうねぇ♡」
◇ ◇ ◇
ルミナも頷いた。
「ただ歌うのが好きなだけみたい」
◇ ◇ ◇
「じゃあ、どうするんですか?」
レイモンドが聞く。
◇ ◇ ◇
レンちゃんは笑顔で答えた。
「依頼人が困らない場所で歌わせてあげればいいじゃなぁい♡」
◇ ◇ ◇
その一言で。
依頼は無事解決した。
◇ ◇ ◇
……はずだった。
◇ ◇ ◇
帰り道。
レンちゃんの腕の中から。
小さな歌声が聞こえる。
◇ ◇ ◇
「たまごはひとつー♪」
◇ ◇ ◇
その隣で。
毛玉も楽しそうに鳴いた。
◇ ◇ ◇
「ピィー♪」
◇ ◇ ◇
レイモンドは遠い目をした。
「……また居候が増えるんですか?」
◇ ◇ ◇
レンちゃんはにっこり笑う。
「あらぁ♡」
「賑やかな方が楽しいじゃなぁい♡」
◇ ◇ ◇
レイモンドは何も言わなかった。
いや。
言えなかった。




