第36話 王都南区の“謎の歌声”
翌日。
王都南区。
午前十時。
快晴。
絶好の休暇日和だった。
レイモンドに休暇はなかった。
◇ ◇ ◇
「……なぜ私はここに」
レイモンドは虚ろな目で呟いた。
◇ ◇ ◇
「依頼だからよぉ♡」
レンちゃんが即答した。
◇ ◇ ◇
「休暇申請は」
◇ ◇ ◇
「却下♡」
◇ ◇ ◇
「まだ申請してません」
◇ ◇ ◇
「する顔してたから♡」
◇ ◇ ◇
理不尽だった。
非常に。
◇ ◇ ◇
エリーは依頼書を広げる。
「えっと……『夜になると謎の歌声が聞こえる』『聞いた人は翌日ずっとその歌を口ずさむ』……ですわ」
◇ ◇ ◇
「呪いか?」
ガイルが聞く。
◇ ◇ ◇
「たぶん違う」
ニアが首を振った。
◇ ◇ ◇
「でも、ちょっと怖いわねぇ♡」
レンちゃんは全く怖そうではなかった。
◇ ◇ ◇
ルミナは空を見上げた。
「少なくとも神界案件じゃない」
◇ ◇ ◇
「本当ですか!?」
レイモンドの目に光が戻った。
◇ ◇ ◇
「たぶん」
◇ ◇ ◇
「またたぶん!」
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
依頼人の家は、南区の外れにあった。
古い二階建ての家。
出てきたのは、やつれた顔の中年男性だった。
◇ ◇ ◇
「助けてください……」
◇ ◇ ◇
「どうしたのぉ♡」
レンちゃんが聞く。
◇ ◇ ◇
男性は震えながら答えた。
「毎晩、窓の外から歌が聞こえるんです……」
◇ ◇ ◇
「どんな歌ですの?」
エリーが聞いた。
◇ ◇ ◇
男性は少し考えた。
そして。
◇ ◇ ◇
「……たまごはひとつー♪」
◇ ◇ ◇
沈黙。
◇ ◇ ◇
「……はい?」
レイモンドが聞き返した。
◇ ◇ ◇
「たまごはひとつー♪
たまごはふたつー♪
たまごはみっつー♪」
◇ ◇ ◇
男性は遠い目をしていた。
◇ ◇ ◇
「それを朝まで……」
◇ ◇ ◇
「怖いというより気になるですわ……」
エリーが正直に言った。
◇ ◇ ◇
「数える歌?」
ニアが首を傾げる。
◇ ◇ ◇
「しかも頭から離れないんです!」
男性は叫んだ。
「昨日からずっと!」
◇ ◇ ◇
「たまごはひとつー♪」
◇ ◇ ◇
歌った。
無意識に。
◇ ◇ ◇
「……あ」
男性が固まる。
◇ ◇ ◇
「感染してますわ」
エリーが真顔で言った。
◇ ◇ ◇
「感染って何!?」
レイモンドが叫んだ。
◇ ◇ ◇
その時だった。
◇ ◇ ◇
「たまごはよっつー♪」
◇ ◇ ◇
歌声が聞こえた。
◇ ◇ ◇
全員が振り返る。
◇ ◇ ◇
誰も歌っていない。
◇ ◇ ◇
「……聞こえた?」
ルミナが聞く。
◇ ◇ ◇
「聞こえたな」
ガイルが頷く。
◇ ◇ ◇
「私もですわ……」
エリーが青い顔になる。
◇ ◇ ◇
そして。
◇ ◇ ◇
「たまごはいつつー♪」
◇ ◇ ◇
今度は。
すぐ後ろから聞こえた。
◇ ◇ ◇
レイモンドは。
ゆっくり振り返った。
◇ ◇ ◇
そこには。
◇ ◇ ◇
毛玉がいた。
◇ ◇ ◇
「ピィ♪」
◇ ◇ ◇
歌っていた。
◇ ◇ ◇
「なんでいるんですかぁぁぁ!!」
レイモンドの悲鳴が王都南区に響いた。




