第35話 王都帰還と休暇申請の却下速度
王都。
いつもの朝。
人々は普通に歩き、普通に買い物をしていた。
少なくとも、外側だけは。
◇ ◇ ◇
「……帰ってきた」
レイモンドの第一声だった。
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「おかえりなさいませ!」
エリーは元気だった。
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「ただいま♡」
レンちゃんはいつも通りだった。
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ガイルは空を見ている。
「平和だな」
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「どこがですか」
レイモンドは即答した。
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ニアは淡々と報告書を抱えている。
「一応、全部正常扱いになった」
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「正常とは?」
レイモンドの声は震えていた。
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ルミナは紅茶を飲んでいる。
「正常よ」
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「どこが!?」
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王宮からの呼び出しは、すぐ来た。
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「監査報告、提出してください」
騎士が言う。
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レイモンドは分厚い書類を見た。
そして。
そっと机に置いた。
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「……書けません」
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「書いてください」
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「“森が意思を持ってました”って書けますか?」
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「書いてください」
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その夜。
監査局。
レイモンドは死んだ目で書類を書いていた。
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「よろず屋オネェ……危険度:計測不能……」
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「いや、これもう国の方が危険では……」
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ペンが止まる。
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その瞬間。
バンッ!
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ドアが開く。
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「レイモンド様!」
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「はい」
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「追加依頼です!」
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「嫌です」
即答だった。
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書類が置かれる。
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『王都南区:謎の歌声調査』
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「……」
◇ ◇ ◇
「……」
◇ ◇ ◇
「またかぁぁぁ!!」
レイモンドの叫びが夜の監査局に響いた。
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◇ ◇ ◇
翌朝。
よろず屋オネェ。
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「はい、依頼入りましたぁ♡」
レンちゃんが笑う。
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「今度は歌声調査らしいわよぉ♡」
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「歌声?」
ガイルが首を傾げる。
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「幽霊かもしれないって」
ニアが言う。
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「殴れば出るな」
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「やめろ」
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レイモンドは机に突っ伏した。
「休暇申請します……」
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「だめよ♡」
レンちゃんが即答した。
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「まだ何もしてませんよ!?」
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「これから楽しくなるのにぃ♡」
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その瞬間。
エリーが手を挙げた。
「実は私も……」
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「はい?」
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「昨日の件で、少しだけ気になることがありまして」
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空気が止まる。
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「……何?」
ルミナが聞く。
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エリーは静かに言った。
「毛玉さん、まだ王宮にいます」
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沈黙。
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「え?」
レイモンドが顔を上げた。
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「普通にお茶飲んでます」
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全員が固まった。
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レンちゃんだけが笑っていた。
「あらぁ♡」
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「新しい居候が増えたわねぇ♡」
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レイモンドは悟った。
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休暇は。
たぶん一生取れない。




