第14話 犯人はウサギじゃなかった
巨大ウサギは動かない。
子ウサギ達を背中に庇いながら、じっとこちらを見ている。
警戒している。
だが襲ってくる様子はない。
◇ ◇ ◇
「……可愛いですわ」
エリーが呟いた。
「分かる」
ルミナも頷く。
「モフモフ」
「そこじゃないだろ」
ニアが冷静に突っ込んだ。
◇ ◇ ◇
「待ってください」
レイモンドが手を挙げる。
「畑を荒らしていた犯人ですよね?」
「そのはずだな」
ガイルが答える。
「なのに何か違和感ありません?」
◇ ◇ ◇
レンちゃんが目を細める。
「アタシも思ってたのよねぇ♡」
「何がですか?」
「畑の壊れ方♡」
◇ ◇ ◇
「壊れ方?」
エリーが首を傾げる。
「野菜を食べただけなら分かるの」
レンちゃんは指を一本立てた。
「でも柵まで壊れてるのよぉ♡」
「確かに」
ニアも頷く。
◇ ◇ ◇
「ウサギが柵を壊すか?」
ガイルが聞く。
「普通は壊さない」
ニアが即答した。
「飛び越える方が早い」
◇ ◇ ◇
沈黙。
「あれ?」
レイモンドも気付いた。
「じゃあ犯人は別?」
「たぶんねぇ♡」
レンちゃんが笑った。
◇ ◇ ◇
その時だった。
巨大ウサギの耳がピクリと動く。
次の瞬間。
巨大ウサギが子ウサギ達を押し込むように後ろへ下げた。
「どうした?」
ガイルが周囲を見る。
◇ ◇ ◇
森の奥から音がした。
ガサッ。
ガサガサッ。
何かが近付いてくる。
「……いる」
ニアが短く言う。
◇ ◇ ◇
現れたのは。
巨大な猪だった。
いや。
猪というには大きすぎる。
全長三メートル近い。
牙も異常に長い。
「こっちじゃないの!?」
レイモンドが叫んだ。
◇ ◇ ◇
猪は一行を見た。
次に巨大ウサギを見る。
そして。
突進した。
◇ ◇ ◇
「来るぞ!」
ガイルが前へ出る。
ドォン!!
正面から受け止めた。
「重っ!?」
さすがのガイルも少し押される。
◇ ◇ ◇
「ガイル!」
レンちゃんが叫ぶ。
「任せろ!」
ガイルは牙を掴んだ。
そして。
「おおおおおっ!」
そのまま猪を持ち上げる。
◇ ◇ ◇
沈黙。
「持ち上げた!?」
レイモンドが叫ぶ。
「持ち上げたな」
ニアが頷く。
「持ち上げましたわね」
エリーも頷く。
誰も驚いていなかった。
◇ ◇ ◇
ブンッ!!
ガイルは猪を横へ投げ飛ばした。
猪は木に激突する。
だが。
立ち上がった。
「硬いな」
ガイルが眉をひそめる。
◇ ◇ ◇
「じゃあアタシの出番ねぇ♡」
レンちゃんが前へ出る。
猪が再び突進する。
一直線。
凄まじい勢い。
◇ ◇ ◇
そして。
ドゴォォォン!!
レンちゃんの拳が猪の額にめり込んだ。
猪は綺麗な放物線を描いて飛んでいく。
森の奥へ消えた。
◇ ◇ ◇
静寂。
「……終わった?」
レイモンドが聞く。
「終わったわねぇ♡」
レンちゃんは手を払った。
◇ ◇ ◇
その時。
巨大ウサギが近付いてきた。
全員が警戒する。
だが。
巨大ウサギはレンちゃんの前で止まった。
そして。
ぺこり。
頭を下げた。
◇ ◇ ◇
「え?」
エリーが目を丸くする。
「今、お礼した?」
「した」
ニアが即答した。
◇ ◇ ◇
巨大ウサギは子ウサギ達を連れて森の奥へ帰っていく。
去り際に一度だけ振り返った。
「可愛いですわぁ……」
エリーが完全に心を掴まれていた。
◇ ◇ ◇
レンちゃんは笑う。
「どうやら真犯人は別だったみたいねぇ♡」
だが。
レイモンドには新たな疑問があった。
「じゃあ畑を荒らしてたのは誰なんです?」
◇ ◇ ◇
全員の視線が森の奥へ向く。
猪が飛んでいった方向へ。
嫌な予感しかしなかった。




