第12話 監査官、初めての出張で疲れる
翌朝。
王都の門前。
よろず屋オネェ一行は出発準備をしていた。
「眠い……」
ルミナが欠伸をする。
「まだ朝ですわよ?」
エリーが呆れる。
「だから眠い」
理屈になっていなかった。
◇ ◇ ◇
「全員いるわねぇ♡」
レンちゃんが確認する。
ガイル。
ニア。
ルミナ。
エリー。
そして。
「帰りたい……」
レイモンド。
「いるわねぇ♡」
「いません」
「いるじゃない♡」
いた。
残念ながら。
◇ ◇ ◇
馬車に乗り込み出発する。
目的地はリンデ村。
王都から半日ほどの場所にある小さな農村だ。
最初は平和だった。
本当に平和だった。
◇ ◇ ◇
「監査官」
ガイルが声を掛ける。
「何ですか」
「監査って何するんだ?」
「簡単に言えば、不正がないか確認する仕事です」
「なるほど」
ガイルは頷いた。
「俺も監査されるのか?」
「されます」
「怖いな」
「怖がるようなことしてるんですか」
「してない」
即答だった。
だが少し怪しい。
◇ ◇ ◇
その時。
馬車が急停止した。
「うわっ!?」
レイモンドが前につんのめる。
外から御者の声が聞こえた。
「道が塞がれています!」
◇ ◇ ◇
一同は馬車を降りた。
道の真ん中には大木が倒れている。
完全に通行不能だった。
「面倒ねぇ♡」
レンちゃんが呟く。
「迂回しますか?」
レイモンドが聞く。
御者は首を振った。
「かなり遠回りになります」
◇ ◇ ◇
「なら俺がやる」
ガイルが前へ出た。
「やるって……何をですか?」
レイモンドが聞く。
「これ動かす」
倒木を指差した。
「いや無理でしょう」
「そうか?」
◇ ◇ ◇
ガイルは倒木を掴む。
力を込める。
ミシッ。
木が軋んだ。
そして。
「ふんっ!」
大木が持ち上がった。
◇ ◇ ◇
沈黙。
「……」
「……」
「……」
御者が固まる。
レイモンドも固まる。
エリーだけが嬉しそうに拍手していた。
「流石ですわ!」
◇ ◇ ◇
ガイルはそのまま倒木を道端へ放り投げた。
ドォン!!
大きな音が響く。
「終わったぞ」
本人は平然としていた。
◇ ◇ ◇
レイモンドは頭を抱えた。
「普通じゃない……」
「ガイルだからねぇ♡」
レンちゃんは他人事だった。
「基準がおかしいんですよ!」
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
一行はリンデ村へ到着した。
畑が広がる小さな農村。
本来ならのどかな場所なのだろう。
だが。
村人達の表情は暗かった。
◇ ◇ ◇
「王女殿下!」
村長らしき老人が駆け寄ってくる。
慌てて頭を下げた。
「お越しいただきありがとうございます」
「困っていると聞きましたの」
エリーが優しく答える。
◇ ◇ ◇
「事情を聞かせてもらえるかしらぁ♡」
レンちゃんが言う。
村長は深く頷いた。
「実は最近、夜になると畑が荒らされるのです」
「魔物?」
ニアが聞く。
「分かりません」
「目撃者は?」
ガイルが聞いた。
村長は少し迷う。
◇ ◇ ◇
「見た者はおります」
「何だったの?」
ルミナが聞く。
村長は真顔で答えた。
「巨大な白いウサギです」
◇ ◇ ◇
沈黙。
「……ウサギ?」
レイモンドが聞き返した。
「はい」
「巨大?」
「はい」
「どのくらいですか」
村長は真顔のまま言った。
「牛ほどあります」
◇ ◇ ◇
再び沈黙。
「牛サイズの……ウサギ……?」
レイモンドは空を見上げた。
また面倒な依頼の匂いがする。
非常に嫌な予感だった。
しかし。
レンちゃんだけは楽しそうに笑っていた。
「面白そうじゃないのぉ♡」
その笑顔を見て。
レイモンドの胃が少し痛くなった。




