第11話 監査官、初出張を命じられる
翌朝。
王宮監査局。
レイモンドは上司の机を叩いていた。
「取り消してください!」
「無理だ」
「なぜです!?」
「お前しか担当できない」
即答だった。
机の上には例の辞令。
『よろず屋オネェ専属監査官』
何度見ても悪夢だった。
◇ ◇ ◇
「もっと適任者がいるでしょう!」
「いない」
「います!」
「いない」
「います!」
「いない」
子供の喧嘩みたいになった。
◇ ◇ ◇
「レイモンド」
上司がため息を吐く。
「はい……」
「あの店を見てどう思った?」
「頭がおかしいです」
「そうだな」
「ですが違法性はありません」
「そうだな」
「依頼処理も適切です」
「そうだな」
「収支も問題ありません」
「そうだな」
「王女殿下も出入りしています」
「そうだな」
レイモンドは頭を抱えた。
「だから厄介なんです……」
問題がない。
なのに問題しかない。
それがよろず屋オネェだった。
◇ ◇ ◇
一時間後。
レイモンドは重い足取りで店へ向かった。
逃げたい。
だが仕事だ。
扉を開く。
「おはようございます……」
「あら♡」
レンちゃんだった。
「レイモンドちゃん♡」
「ちゃん付けやめてください」
「仲間じゃない♡」
「そうですね」
「でも専属監査官♡」
「やめてください」
胃が痛い。
◇ ◇ ◇
その時だった。
店の奥から元気な声が響く。
「レンお姉様!」
エリーだった。
今日も元気である。
「どうしたのぉ♡」
「依頼がありますの!」
全員の視線が集まる。
◇ ◇ ◇
「王都近郊のリンデ村で困り事が起きていますの」
「困り事?」
ガイルが首を傾げる。
「夜になると畑が荒らされるそうですわ」
「魔物でしょうか?」
「分かりませんの」
エリーは首を振った。
「騎士団も調査しましたが見つけられなかったそうですわ」
◇ ◇ ◇
「被害は?」
ニアが聞く。
「野菜だけですの」
「家畜は?」
「無事ですわ」
「人は?」
「誰も襲われていませんの」
ニアは腕を組んだ。
「妙」
その一言だった。
◇ ◇ ◇
「面白そうねぇ♡」
レンちゃんが笑う。
「受けるの?」
ルミナが聞く。
「もちろん♡」
レンちゃんは立ち上がった。
「困ってる人がいるんでしょ?」
◇ ◇ ◇
ガイルも立つ。
「行こう」
ニアも頷く。
「調査なら得意」
ルミナは欠伸した。
「面倒」
「働け♡」
「ひどい」
◇ ◇ ◇
「私は留守番で」
レイモンドが言った。
「監査官♡」
レンちゃんが肩を掴む。
「何ですか」
「出張よ♡」
「嫌です」
「監査対象の行動確認は?」
「必要です」
「じゃあ行くわね♡」
◇ ◇ ◇
レイモンドは天を仰いだ。
逃げ道がない。
本当にない。
こうして。
よろず屋オネェ初の地方出張が決定した。
そしてレイモンドの胃痛もまた、一段階進行するのであった。




