たらい船でGO!
お風呂から出た僕は、浴衣に着替えて… ひっくり返っている。
でもって、頭に濡れタオルを乗せて、美月にうちわで扇いでもらっているところ。
そうなる前に出ればよかっただろうって? そうもいかなくてさ……
「おにい、大丈夫ぅ?」「ありがとう、なんとか落ち着いてきた……」
なんでこうなったかと言うと、単純に長風呂をしたからだ。
「ちょっと手狭だけど、窮屈って程でもないかねぇ」
あの後の僕は、リーマ様にお姫様抱っこされたまま建物に入ったんだ。
本堂… ご本尊がある建物だから正確には金堂って言うのかな。神社で言うところの本殿──拝殿の奥にある小ぶりの建物で、神様のプライベート空間のことだ。
このお寺にも、あったんだ。あったんだけど……
それに神様が関係しているなら、尋常じゃない──幽冥という世界に迷い込んだ時に邪神のいた所──が建売住宅なら、ここは宮殿だ。
廊下を通り抜けたら、あの時の邪神の家と同じように本堂の陰に隠れているちんまい建物には、とても入りきらないサイズの空間に出たんだから。
それから、しばらく歩いて……
「さあ、ついたよ」「え、あ、あああああ?」
リーマ様が4本の腕を器用に使って、すっぽんぽんにされた僕は、お風呂に……
なんてこったい! これはお風呂じゃないよ。湖だよ、みずうみ!
マジでサッカーコートといい勝負なんじゃないか?
お湯は… 濁り湯って言うのかな。乳白色で花のような匂いがする。
「やっぱり風呂はいいねぇ。疲れが染み出ていくよ」
「これ、お風呂… なんですか?」
「そうさね。この湯に浸かれば、どんな病気でも治ってしまうのさ」
真ん中にはぽつんと島みたいのがあって…… そこまで行く事になってね。
もちろん抱っこされたままでだ。いや、そうしないと島まで行くのは無理!
だってここの深さは、リーマ様の肩のあたりまであるんだもん。
「リーマ様。タイパは重要だと思いますにゃ」
「あーしは、どこでもいつでもぉ、おにいと一緒だしぃ」
「ふっ、好きにしな」
うんうん、気持ちは分かるけど… ここ、かなり深いよ?
リーマ様の肩くらいまである深さだから、2人には、無理があるんじゃないか。
美月は泳ぐのが苦手だし、友里さんは… たぶん苦手じゃないか? ネコだし。
「都合よくたらい船を見つけたにゃ」「よーし、追い付くわよぉ!」
たらい船に乗った2人は洗面器をオール代わりにして頑張って漕いでいる。
ここまでくると、もう意地! って表情をしてるじゃないか。うん、頑張れと言いたいところだけど、自然はそんなに甘くはないと思うんだ……
「うにゃあ、流されるにゃ!」「友里さん、真面目に濃いでよぉ!」
これだけの面積となると、お湯にも──主に対流の影響だと思うけど──なにがしかの流れが生まれるものだ。
わはは、だんだん島から遠ざかっていくよ。
がーんーばーれー
僕に出来るのは、リーマ様の腕の中で静かに眺めている事だけだからねぇ。
「つっ、ようやく着いたんだにゃ……」
結局のところ島に着いたけど、2人は、かなり頑張ったみたいだ。
あれは根性とかじゃ説明がつかないね。何があいつらを動かしたんだろう。
とにもかくにもご苦労様。その様子を見物をしていた僕たちは、というと……
「湯に浸かっているだけと言うのも芸がないねぇ」
リーマ様がぱちりと指を鳴らすと、すうぅっと人影が現れた。うわ、派手だなぁ。
赤っぽい肌は見る角度によっては黄色みがかって見える。朱色かな……
「……お傍に」「この者たちに飲み物を持ってきてくれないかい?」
「承知いたしました」
どこかから平たい桶が流れてきたかと思うと、僕たちお前でぴたりと止まった。
いや、桶というよりもお盆かな。水面に貼りついているみたいに見える。
試しに触ってみたけど…… 押しても引いても、体重をかけても……
ぴくりとも動かない。
「?????」
「手を伸ばせば、ほら……」
リーマ様の手には、赤い液体がなみなみと注がれたゴブレットが握られていた。
それを一息で飲み干すと、元の場所に… あ、消えた。
……不思議だ。
群馬県の宝川温泉って、日本最大級の超巨大露天風呂だそうです。
テニスコートなら3面分、バレーボールコートなら4面分の広さがあるとか。
行くなら浮き輪か何かが必須! ……でしょうか。




