夢にだにあらぬところ
目の前にそびえ立つ大伽藍…… というのは大げさだけど。
でも僕たちの目の前には建立したばかりとしか思えない、とっても立派なお寺があったんだ。いや、これお寺で良いのか?
お寺と神社を足して2で割ったような感じの… 面倒だな、お寺で良いか。
「おにい、着いたよ~」「……あり得ないにゃ」
建材の匂いが漂ってきそうな──本堂の瓦といい朱色に塗られた柱といい、どこもかしこもピッカピカだ。誰が何と言おうと、おかしいだろ!
20年近くも放置されて自然に飲み込まれてしまった廃墟の街に、いきなり目の前に現れたのは新品のお寺だよ?
誰だって思うだろ? あり得ないってさ!
「ここ大丈夫… なのか?」「迷っている場合じゃないし!」
かすかにローターの音が聞こえる。
「げげっ! あの白い飛行機が追いかけてきたにゃ!」
「だーかーらー、早くこっちに… おにい、急いで!」
美月に促された僕たちは、慌てて山門をくぐった。背後では、白い飛行機が山門の前を通り抜けて……
あれ? なんで見つからないの?
これだけ目立つ建物があれば、誰だって気が付くと思うんだけど。
そういや、ここって…… お寺なら本堂の高いところに書いて… あれか。
「寺井根彩? 変な名前だな」「いやいや冬夜くん、これは右から読むんだにゃ」
「んふふふふ~ ここはぁ、あの女なんかに、絶対に見つかりっこないしぃ」
おい美月、どういう事だ? ない胸を張って自慢するのはいいけど、お兄ちゃんにも理解できるように話してくれないかな。
いくら何でも不思議過ぎるだろ!
「あーっ、それ酷い! いくらおにいだってぇ、言っていい事とぉ……」
「貧民はお風呂で自分の立場を思い知るにゃ」
友里さんは笑いながら美月に言うと、本堂に向きなおって拝み始めた。
へえ、猫又でもお釈迦様を拝むのか…… 知らなかった……
「ここは神様の気配で一杯にゃ。それも小坂部の姫様がミジンコ以下に見えるような超大物が来ているにゃ」
つまり、ここは神域ってわけか。言われてみればスタミナとか一気に回復したような気がするし、それよりも何よりも、ここは空気が違う感じがする。
なんかこう… 春の盛り、って感じがするんだよね。
「ここってぇ、あーしの神気に反応してぇ、姿を現したお寺って感じかな」
美月はSUVの中で自分の本当の名前はサーリアだって言っていたっけ。
たしかサーリア神…… 何となく聞いた事があるような、無いような……
って、ををををっ!?
「坊や、ここまでよく頑張ったねえ」「!?}
僕はいきなり現れた何者かに、後ろからそうっと抱きしめられた。そして、やさしく頭を撫でられながら、後頭部に感じた柔らかな感触。
何よりも、この声……
「ありがたや、ありがたや……」
思わず言っちゃったよ。言ったとたんに、お姫様抱っこされちゃったけどね。
その様子に美月は… ぷっ、なにを唖然とした顔をしてるんだ?
大丈夫だよ、青い肌で4本の腕を持っているけど…… 神様だよ。
こうして現実世界で出逢うのは初めてだけど、
「ふふふ、ようやく会えたねぇ。おや、ずいぶん疲れているようだねぇ。ずいぶん汗もかいて…… 先にお風呂に入ってさっぱりしようか。
細かいお話は、それからにしようかねぇ」
神様が僕を抱っこしたまま、その場を去ろうとしたんだけど、美月がその前に立ち塞がった。神様を目の前にして物怖じしない姿勢は無謀… 毅然というか。
あ、そう言えば美月も神様だってな……
「あーしも行く!」
「サーリアには、する事があるんじゃないのかい?」「えっ?」
さもおかしそうに、喉の奥をくっくっと震わせながら。表情は分からないけど…
うん、僕の視界はマウナケア山に塞がれているから、仕方がないね。でも間違いなく新高山よりは…… デカい。今はそんな事は置いておくとして、だ。
神様の口調は怒りでも、からかいでもない。単純に面白がっているだけだね。
「お前がいなくなったら、そこの猫や人形はどうするんだい?」
「むうぅぅ……」
秋津は高度数メートルをホバリングしながら(このために主翼にダクトファンを仕込んだんだもん)冬夜くんたちを追いかけてきたんだけど……
なんで見つからないんだろう。 不思議だ。




