行方不明になったあいつ
湯気の立つラーメンの缶詰を片手に、私は物思いにふけっていた。
これ? 味は悪くはないんだけど、健康に良くないと思わない?
私はいいの。嫌いじゃないのよねぇ、こういうの……
「たいちょ、大変! 信号が… 消えました!」
「なんの…… っく、拙い… 2号車にも連絡、最後に信号を捉えた所に急げ!」
モニターには、無情にも『Sinal cortado』の文字が点滅していた。
ばか省吾のくせにいぃいいい! だから今回の冒険には反対したんだ。
男は男らしく、すなおに女に守られてりゃいいんだっつーの!
「単に位置測定システムの故障なら、いいのんですけどぉ」
私もそう思うわよ、心の底からねっ!
MSVが現場に着くまでの数分間。私は心配で仕方がなかった。
部下Aも内心の不安を抱えているだろうに、健気にも言ってくれた。
「たーいちょ、泉水さんならべっちょないで。きっと」
省吾のように天然ものの男の子の父親になった男性には、必ず護衛官がつく。
それにはいくつかの理由があるけれど、最大の目的はわずかでもアーチェフ病原体に耐性がある男性を、あらゆる危険から遠ざけること。
ちなみにベクターウイルスで遺伝子改変された男性は対象外なのは当然のこと。
そもそも遺伝子改変された男性との間に生まれる子供は確率は7割以上で女の子しか生まれない。仮に男の子であっても生殖能力は無きに等しい。
受胎時の検査で子供の性別は分かるから、場合によってはベクターウイルスを母体にも投与することで…… 遺伝子を書き換えるのだけど。
そして投与は人口管理──人類という種を守るために国家機関のとある部局が決定する事になっているのだけど…… とにかく、省吾のような耐性持ちの男性──希少種と言われている男性には、私のように護衛官が付き添うことになっている。
そして省吾の第1子も男の子だ。たしか冬夜と言ったか……
あの子も特に何の処置を施さなくてもいい天然もの──本物の男性だから。
そういう事だから、彼には長生きをしてもらわなくてはならない。
最悪の場合──もしも殺害されてしまったとしても──生殖器官だけは無傷で回収しなくてはならない。
それも、護衛官の任務…… なんだけど…… なんだけど……
──なんて事を考えさせるのよ、ばか省吾。
「無事…… だといいけど。殺されたりしていないよね」
「少なくとも、あのお寺さんの廃墟には、争うた形跡はあらへんそうです」
「なら、何があったのよ! まさか人質目的に拉致したとでも?」
いや、それはない。地球教徒なら、こんな面倒な事はしない。
男性を拉致して人質に取って何かを要求したという前例はないからだ。
あいつらは例外なく被害者の生命を奪い、遺体は残しておく。
地球教のシンボルがついた白木の杭を、胸に突き立てて……
「だから可能性は低いねやなあ。省吾さんがおとなしゅう拉致される思てです?」
「それは考えにくいわね、省吾はラジルポ柔術の有段者だから」
「でしょ? だから、まだ生きていますって」
ほんと、地球教徒の仕業じゃなければいいんだけど。
奴らが自然崇拝を標榜するのは構わない。古い神社仏閣が背後に山をご神体として祀るのも、普通にある事だもの。たとえば私たちが住む街の近くにも牟古山という霊山と、それを祀る神社がある。
あいつら地球教のご神体は地球という惑星。地球も巨大な生命体だそうだ。
そこまでだったら警察や公安は無視しただろう。
たかが新興宗教、カルト集団だってね。
「そやけどぉ、あいつらの考えはもっと危険なんやねやなぁ」
部下Aの言うとおり。地球教徒は宗教の名を借りたテロリストだ。
男性が生まれなくなったのは地球の意思なのだ、と主張している。
地球の意思に従うべきで、結果としての人類滅亡は必然の事だと。
その事を骨の髄から信じ込んでいる狂信… いや、テロリストだ、
「本当に、しょーごさんはあいつらに暗殺されてもたのやろけ」
「縁起でもあらへんこと言わんといて!」
すでに2号車の面々も付近の捜索を始めているけど、今のところ成果はない。
当然の事ながら省吾の姿はどこにもない。野営をすると連絡があったのは、間違いなくこのあたりの筈だというのに。
それが証拠に彼が道路を通った痕跡は、ここで終わっている。
被害者が普通の人間ならば、ただの行方不明事件、神隠しで終わらされる事もあるだろう。だけど今回は私たちの護衛対象。男子を受胎させた耐性持ちなのだ。
探したけど見つかりませんでした、では済まされない。
下手な意地を張らずに、応援を頼んだ方がいいのかな……
色々な宗教の経典には人類の終末について書かれたものがあります。
良く知られているのは、聖書の黙示録、北欧神話のラグナレクでしょうか。




