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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
閑話 幻影の村
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旅する星々たちの忘れ物

 世界戦争。地球のほぼ全域が戦場となった、最初で最後の世界戦争。


 それは1939年にスミノフ帝国がイェケ・ゴルへの侵攻から始まった。

 開戦理由は、昔から行われてきた南下政策を強硬に押し進めた結果──

 一般にはそう言われており、史書にもそう記されている。

 だが、大戦勃発の本当の理由は全く別のものだった。


 それは そして1924年のある日のこと。

 アンガラ大陸──スミノフ帝国が支配するウラル地峡よりも東側に永久凍土に閉ざされた──その場所に調査隊を送り込んでいた。発見された場所からアーチェフと名付けられた隕石は、今から1万2千年前に落ちたもの。


 それだけなら、特に話題になるようなものではないだろう。なにしろ隕石は珍しいものではない。直径数センチ程度の小さなものまで含めれば、年間2万個程度は落ちていると言われているのだから。


 だが、アーチェフには他にはない大きな特徴があった。

 隕石の中には。液体の水が封じ込められていたのだ。

 この発見に世界中の科学者は興奮に震えた。


 だが、後世の歴史学者は言った。

 この隕石こそが──パンドラの箱だ。箱の奥底に封じられていた物を解き放ったその時が、人類滅亡の始まりだった、と。


 隕石に封じ込められていた水には大量の細菌が含まれていたのだ。

 発見された時は休眠状態だったそれは、大気に触れたとたんに活性化して研究者の身体にとりついた。それに気が付いた時にはすべてが手遅れだったる。


 アーチェフ病原体と名付けられたウイルスは半年でスミノフ全土に広がった。

 そして1年後には地球人の95パーセントが感染していたのだ。

 感染力こそ凄まじいものの、致死性はゼロ。

 この事実が人類の油断を招いた。


 スミノフ帝国の人口は順調に増えてはいたが、男女比は徐々におかしな方向に向かっていった。最初に感染が広がってから3年後には男子の出生人数は減少の一途をたどり、ついには数パーセントにまで落ち込んだのだ。

 異常な出生率の原因がアーチェフ病原体が原因と分かった時にはすでに遅かった。


 そして、1939年。世界戦争の幕が切って落とされた。

 スミノフ帝国が始めた戦争の目的は、領土でも資源でもなかった。


 目的は、健康な──アーチェフ病原体に感染していない──男性…… だ。

 感染しなかった5パーセントの、その中の男性を確保するための、戦争だった。

 そして、帝国は最初に侵攻を始めた赤色帝国と共に……

 全てを──人も、国土も、何もかもを──失った。


 だが、天は人類を見放してはいなかった。


 1960年代の半ばに現れた異世界人『K』がそれだ。

 彼らの時間で2020年──あるいは我々よりも2020年先の未来からやってきたのだろうか。

 それは人類とよく似たシルエットの、しかし人類とは全く違った生命体。


 異世界人『K』が人類にもたらしたものは、2つ。

 それがカウンター・ウイルスとベクター・ウイルスだ。


 前者は破壊のために。

 アーチェフ病原体に対するアンチウイルス・ワクチン。


 後者は修復のために。

 アーチェフ病原体に傷つけられた遺伝子を修復するリカバリーワクチン。


 こうして人類はアーチェフ病原体に対する武器を手に入れた。

 だが……


 いや、アーチェフ病原体との戦いは次の段階に移ったのだ。

 しかしベクターウイルスは不完全──異世界人Kの種族には完全に効果を現すのだろうけれど、地球人に対してはそうではなかった。

 生まれてきた子供の中で男性は10パーセント程度でしかなかった。


 しかし、それは暗闇の中にともされた、ひと筋の光明だった。

 人類はその全てをかけて、遺伝子工学の研究にとりかかった。

 そのおかげで数年で遺伝子解読技術は大きく飛躍することになる。


 そして──21世紀を迎えた現在。


 見かけ上男女比は、100年前の水準を維持している。

 だが、その大半は改良されたベクターウイルスで遺伝子を書き換える事で生み出された遺伝子改良種。ぶっちゃければ遺伝子を改造された人間。


 それでも生まれてきた子供の70パーセントが女性である。


 残る望みは、アーチェフ病原体に対して耐性を持っている男性だけ。

 その数は地球の総人口の8パーセントに過ぎなかった……

隕石はギリシャ語の発音ではミーティアもしくはメテオ。

ちなみに英語では『meteorite』発音はミーティアライトだそうです。

その伝でいくと、日本ではメテオ… かしらん?

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