あなたはだあれ?
「そろそろ… だにゃ」
今の時刻は午前3時半。しっぽがたくさん生えた狐の妖怪──友里さんに言わせれば地主神という、そこそこ力の強い神様──のアドバイスに従って、方向転換。
高速道路を降り、国道を走っているのは、いざという時に逃げ道が無くなるから。
時間は、そろそろ午前3時半…… は過ぎている。4時まであと10分ってとこかな。
1桁番の国道とはいえ、さすがにこの時間の交通量は少ないな。時々、宅配荷物を積んだ大型トラックが走っているけど、そのくら… い?
「病院を出てから、ずーっとつけられていない?」
かなり距離が離れているようだけど、あの亀の甲羅のような独特のシルエットは見間違いようもない。あれは重要人物を護送するMSV(Maximum Security Vehicle)だ。
生存性を最優先に設計されているので、超合金フリートニウムで出来た強固な装甲を備えていながら、ホバー走行まで出来ちゃうという、バケモノのような車だ。
さらにロケット砲まで積んでいる…… まるで戦車みたいなやつだよ。
いや、戦車よりもタチが悪いかも。MSVの最高時速は300キロを超える。
つまり、下手なフォーミュラーマシンよりもスピードが出るってことだ。
そして戦車並みの装甲と武装をしているとくれば……
「ああ、あれなら私達の護衛だとも。最近は物騒な世の中だからねぇ」
「どこに行くにもああいうのが付いてくるのよねぇ~」
ええと、山之谷博士と芹沢博士って。しょっとしないでもVIPか何かなの?
「そうですよ、冬夜くん。お二人とも、いくつかの博士号をお持ちですし、文部省から講書教授に任命されているんです。だから大博士とお呼びすべき人達なんです!」
「止めてくれたまえ」「それだけは、やめてねぇ」
……なんで嫌がるんだろ。それにしても、何か引っかかるなぁ。何となく聞き覚えがあるんだよ。その…山之谷博士って。
「それはねぇ、祖父が国連宇宙軍の創設に深く関わっているからかしらぁ」
「私も祖父が巨大な深海生物をやっつけるやら、異次元… いや、未来の地球との通路をこじ開けたりしたからなぁ」
なるほどね。『あの人のお孫さん』扱いされるのは、嫌だ! ってやつか。
その筋ではさぞかし強烈に輝く七光りなんだろうなぁ……
「ま、まあ… その話は止めてくれないか? それよりも、冬夜くん。そして美月くんに聞きたい事があるんだが」
「そうねぇ。私もお話ししたいんだけど、運転しているから無理なのよねぇ」
うっく、き、急にふたりの雰囲気が変わったぞ。
どうしたのさ、急に真面目な顔をしちゃって…… というより、真面目を通り越して何やら怖いんですけど。
両隣に座っている岩本女史や友里さんには、何やら悲壮感が漂ってるし。
「なぁに、質問はひとつだけだから安心したまえ」
いやいやいやいや。安心できませんって。
何を、どうすれば、こんな悲壮感たっぷりの……
「……冬夜くん、そして美月くん。君たちは何者なんだい?」
何者って… 僕は泉水 冬夜。去年の春に高校に進学して、そのまま苛めにあって鉄道自殺を考えただけの、平々凡々……
「それが、おかしいのよねぇ」
山之谷博士… そんなことを言われても困るんですけど。だって僕は僕だし、それ以上何を言えと仰るんで……
「私たちはね、細菌学と遺伝子工学は、かなりいい線まで進んでいるのだよ。私の場合、分子学や機械工学なんぞはオマケに過ぎないね」
細菌学とか遺伝子工学…… それと僕にどんな関係があるのか分かりませんけど?
「前に冬夜くん、君の遺伝子解読をした事は知っているね? 美月くん、君からもサンプルを提供してもらったね」
「えー? そんなん出来るー? ……というかぁ…「待った!」……!?」
「美月くん。我々を『説得』しようとは考えないでくれたまえ。もしもやったら…… この車ごと自爆するからね」
えっ? どゆこと? 自爆って……
「ふむ、じゃあ、こう言えば良いかな…… 冬夜くん。君の遺伝子解読の結果だが… 去年のデーターとの整合性は98.5パーセントしかないのだが、何故だろうねぇ」
「えっ?」
いくら何でも、おかしくない? 去年のいつなのかは知らないけど、僕は遺伝子検査なんて…… いや、問題はそこじゃない。
約1年という短い期間で遺伝子が大きく変化するはずがない。
ひょっとして、芹沢博士が解読をミスったんじゃない?
「いいや、キミは忘れて… いや、知らないのかな? 君のような男性には精子提供義務があるってことを、ね」
いやそれ初めて聞いたんですけど?
なんなの、その義務って……
最近の研究では、現代人の遺伝子の互換性は、99.7パーセントだそうです。
世代交代のタイミングでの転写ミスや、突然変異などが原因だそうですが……




