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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
動け身体よ、身体よ動け
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予期せぬ攻撃

 ゆっくりと音もなく動き出した『ポコ』は、そのまま天野の背後に忍び寄った。

 こいつの身長は、1メートルもない。その場の全員の視界からは完全に外れている。

 よし、奇襲効果はばっちりだ。

 とはいえ、装備しているのは対人用とはいえ、大型スタンバトンに過ぎない。


 すねにでも当てれば、動きを鈍らせる事くらいは出来るだろう。あとは博士たちで取り押さえてもらうとするか……

 急にくらった電撃に驚いた天野さんは『ポコ』を蹴り飛ばしてしまうかも知れないが、それでも一瞬の隙を作り出す事くらいは出来るはず。


 PiPiPi……


 ふむん、ターゲットスコープか。たしかに闇雲に狙うよりも神経の結節点とかを狙った方が効果が…… あれ、脛じゃないのか。

 じゃあ太もも… でも大してダメージは無いよね。

 だったら、どこを…… そこぉ? まあいいか。ふっ、おむつ生活は楽しいよぉ?


 素早く突き上げられたスタンバトンは、狙いたがわずに目標に命中。

 大容量トランジスタとトランスで増幅され、コンデンサに蓄積されていた電力が一瞬で解放された。

 電流はともかく、電圧は軽く1万ボルトを超えていたかもしれない……


「ほお゛っ!」


 完全に不意を打たれた形で、電撃をくらった天野は、ビクンとのけぞると同時に聞いてはいけない野太い声を上げると床に崩れ落ちた。

 ここで立ち上がる事が出来れb……


「そこにゃっ!」「ふんっ!」


 ばぢぃっ!


 ……僕が立ち上がるまでもなかったか。

 ほんとに一瞬だったね。友里さんと美月が、防護服を叩き伏せたのは。

 さてと、こうなったら急がないとダメだって事は分かるんだよね。

 でも……


「おにいなら、出来るから」

「みつ… き?」


 月の光を背に受けた美月は、まるで巫女が神託を告げるかのように。

 しずかに、そして、おごそかに言った。

 そんなものかな。


 今まで、ずっと身体を動かす事だけを念じてきた僕だけど、ぜんぶ駄目だった

 なの…… に……

 …………


「おにいの身体は動くんだよ。風より早く、鳥が舞うように… 動くから」


 うん、今までは意識が身体から離れかかっているというか、何センチか横にズレているような感覚に悩まされていたような気がする。

 それが、じりじりと合わさっていくような……


 美月の顔を見ているうちに、何となくズレていた何かが… かちりと音を立てて嵌るような感じがした。


「ん……」


 ぴくり、と、左手が… 動いた。

 左のひざが、ゆっくりと曲がると、右腕にも力が戻ってくるのが分かる。


 僕はゆっくりと、上体を起こすと……


「冬夜くん…」


 身体をゆっくりと回しながら、足を延ばすと。


「頑張るにゃ、冬夜さん……」


 足の裏に、リノリウム張りの冷たい床の感触が伝わってきた。


 そして……


「立った、立ったよ! おにいが立った!」


 僕は、2本の足で床を踏みしめて、立ち上がっていた。


「うんうん、なんとも感動的なシーンじゃないか。ビデオカメラを持ってこなかったのが悔やまれるねぇ」

「おめでとうございます、冬夜くん」


 ううっ、かっ…… 感動だっ!

 ベッドから立ち上がっただけなのに、ただそれだけの事なのに。

 身体が自由に動かす事が出来るのが……


 ……こんなに嬉しい事はない!

ようやく冬夜くんは、自力で立ち上がる事が出来るようになりました。

それにしても、婦長さん…… 大丈夫かなぁ。

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