カウント・ダウン
覚悟を決めるとか…… 決めざるを得なくなっちゃった。
迷っている暇がなくなっちゃったんだ。
それは──
「あらあら、皆さんお揃いで。こんな夜更けまで起きているのは感心できませんね」
静かな音と共に病室のドアが開いくと、ひとりの人物が姿を現したんだ。
「天野… くん?」
「やあ、天野婦長、久しぶりねぇ」
「婦長!?」
声の主は、天野だった。冷たい微笑を浮かべ、看護婦長の制服を一部の隙もなく着込んだ彼女の後ろには、防護服に身を包んだ職員らしい姿もある。
彼女はゆっくりとベッドに近づくと、冬夜に向かってにんまりと…… 笑いかけた。
「うふふ、真夜中のファッションショーなんて素敵ねぇ。でも、お楽しみも終わり…」
「なっ、冬夜くんに何をする気なんだい」
「これから彼に、医療処置を施す事になりました。処置はすぐに開始する事が決まりましたので。部外者はただちに退室していただけませんこと?」
彼女は固い口調で告げた。
なんだか彼女の様子が…… いつもの天野さんじゃないような雰囲気を醸し出している。
表情がそうさせるのか、それとも背後に控えている防護服姿の職員のせいか。
何にしても、こんな時間に何をする気なんだろ。
近づいてくる職員を静止しようとしたのは、山之谷だった。
いかにも不機嫌そうに、半眼を向けると低い声で天野に話しかけた。
「ちょっと待ってくれるぅ?」
「何ですか、山之谷博士。いくらあなたでも、この決定は覆せませんよ」
お互いに一歩も引かぬぞとばかりに、互いを威圧し始めた2人の様相に、周囲の人間は指一本動かす事も出来ずにいた。
それは、ベッドに横たわる冬夜も同じことだった。
同時に、彼の頭の中では疑問が渦巻いている……
なっ、なんなんだ。こんな真夜中に医療処置って… 嫌な予感しかしないぞ。
とにかく今は身体を動か…… だめだ。昼間のように操縦器… は拙いか。山之谷博士はおろか、芹沢博士たちにも、そんな余裕は無いだろう。
ここは僕が自分で何とかしなきゃならない局面だ。
くっ…… 体が動かないのがもどかしい。
でも、諦めちゃだめだ。諦めちゃだめだ、諦めちゃ…… 何か方法があるはずだ。
このまま病室から連れ出されたら、色々と取り返しのつかない事になりそうだ。
不幸界の大物たる僕が、保証するよ。
このままだと平穏無事に、明日の朝日を拝むことは出来ないって事をね。
だから、何か方法を探さなくちゃ……
んっ?
VRゴーグルのディスプレイのモードが切り替わったのだろうか。
それまで数字の羅列やメーターが表示されていたのが、急に静かになった。そのまま光のノイズと共に1体のアバターが姿を現した。
……なんだこれ?
冬夜の意識に反応したのか、アバターの前にメッセージボックスが表示されると、中に見た事もない文字列が流れ出した。
…………Nomen mihi est POCO.
Adsum ut te adiuvem et protegam in quavis condicione.
Continuum vestrum auxilium exspectamus.
ぽこ? このこけしサーバーの事なのか。そういや博士が言ってた人工知能って……
それにしても、見た事もない言葉だな。連合王国語でもイビム語でもない。
もちろんラジルポ語でも…… ラテン語だとぉ?
そんなの習ってない…のに、意味は分かるって…… ヒュプノ教育って怖い。
──Elige quae instruere velis.
っと、再びVRゴーグルのディスプレイの隅にメッセージボックスが出たぞ。
装備って。まるでゲームだけど…… いいや、そんな事考えてる余裕は無いか。
僕は視線入力モードでカーソルを動かすと迷うことなく決定。
というより、これしか持ってないから仕方がないんだよね。
「……ねえ、時間がないんですけど?」
「納得のいくような返事をしてくれたら、いくらでも。もう一度聞くわね。冬夜くんにどんな処置をするつもりなの?」
ベッドの脇では、2人が睨み合いを続けていた。
その後ろでは、こけしサーバーがゆっくりと動き始めていた。
こういう場合の鉄則は、相手に反撃する暇を与えないことだ。
だから、一発で勝負を決めなくちゃ。
こけしサーバーって、私が思っていたより高性能なメカかも。
それに、こいつの3Dモデルって、すんごく面倒だったりして。
ちなみに前回の画像で完成度は3割くらい?
自分で設定作っておいて難だけど、可動部が多すぎるのよぅ……




