ぼくのあたらしいふく
僕は今、とってもな服を着ている。芹沢博士と岩本女史が作った特製のモノ、だ。
これなら普段着になっているカバーオール…… 赤ちゃん服の方がよっぽどマシって思えるくらいのね。
「なぁに、問題ないね。その程度、水着だと思えば誤差の範囲だろうに」
「いやそういう事じゃなくて!」
「私が持っているのに比べれば、ぜんぜん地味にゃよ」
「へっ!?」
身体のラインが強調されちゃうのも仕方がない──頭じゃ分かってるんだ。
でもね…… 肌が透けて見える部分を何とかして欲しい… じゃなくて!
水着とかよりも下着でしょ、これ。
「うんうん、頑張って採寸した甲斐があるねぇ。私が保証するよ。君にそのスキンスーツは実によく似合っている!」
「そうにゃ、冬夜くん。とっても似合ってるにゃ」
ゆ… 友里さん?
首元から下をぴったりと覆っているスキンスーツだけど、ほとんどスケスケと言っても良いんだ。重要な部分はきちんと隠されているものの、それ以外はね。
うーん、何と言ったらいいかな…… そうだ、グラドルが着ている水着とかだ。
あんな感じに見えるんじゃないか?
「いやだぁ! そんなヤバい水着na「諦めたまえ」……でもっ!」
「おにい、それって意外と似合ってるカモ?」
「はぁい、おむつも外してしまいましょうねぇ」
もしも僕の身体がちゃんと動いたとしても、ほとんど抵抗は出来なかったと思う。
女性が非力だというのはファンタジーだ。それに相手は3人──芹沢博士に岩本女史。そして看護婦の友里さん──だ。
仮に身体が自由に動いたとしても、僕には抵抗する手段なんか無かったと思う。
「うーん、いつ見ても不思議な色合いですね」
「うむ、このスーツはメタルプラスチックの繊維で作られているからね。ああ、メタルプラスチックは偶然の産物なのさ。第3帝大や国立材料研究所でも実験を繰り返しているけど再現には成功していないそうだ」
「……はぁ」
それは数年ほど前のある日の事。
博士がとある航空機メーカーからの依頼で宇宙船用の高性能樹脂──エンジニアリングプラスチック──の研究をしている過程で、偶然にも出来てしまったものなのだ。
まるで初めからそこに在ったかのように、プラスチック分子と金属分子ががっちりと結合しているという。それは物理学の常識を鼻で笑うような出来事だ……
「文字通りの意味で、鋼鉄やチタンよりも頑丈なプラスチックなのだよ。これが量産できれば宇宙船の外壁の問題だって、簡単に解消できるだろうねぇ」
宇宙船にとって最大の敵は、自身の重量だ。宇宙船はアルミニウムをベースにした軽合金を使っているとはいえ、強度が必要な部分には鉄やステンレスを使わざるを得ない。
彼女は幾度も再現実験と分析を繰り返した結果、メタルプラスチックはアルミニウムよりもはるかに軽く、鋼鉄やチタン以上に頑丈な素材になる事が分かった。
「政治屋や軍人は、宇宙開発なんかよりも先に軍事転用するだろうねぇ。ならばこいつは永遠に偶然の産物扱いした方が良いだろう?」
「博士はそれを実用化した、と?」
「私はね、オッペンハイマーのような邪悪な科学者じゃないんからね。良識くらいは持ち合わせているのだよ」
いぶかしげな視線を送る友里に、芹沢はニンマリと笑みを浮かべるだけだった。
「オッペン…ハイマー?」
「そうそう、世界最悪の邪悪なオトコ。世界史の教科書に出てくるだろう?」
他にも色々なところで出てきたよ。世界史だけじゃなくて、道徳の授業でもね。
ナフェリアス・オッペンハイマーという科学者は、原爆の父と呼ばれる物理学者だ。
彼は核実験に成功した後で、その場にいた軍事や同僚に彼は口元に薄ら笑いを浮かべながら、こう言ったそうだ。
──私は、この世で一番の邪悪な科学者だと思わないか?
建国してからたった200年ほどしか経っていない新興国であるイビム帝国では、歴代の指導者が大きな野望を抱いていた。
それこそは世界征服だ。
その切り札として、連中は原子核分裂反応に目を付けたのだ。
原子量が大きな物質は、時と共に熱と放射線を出しながら崩壊する。
ならば、その反応を一瞬で引き起こす事が出来たら?
20世紀の半ばには原子核分裂反応弾は完成して……
その日のうちにその製法は永遠に失われたという。
「……って話ですよね。中学で習ったけど」
「うんうん冬夜くん。全くその通りだよ。そして、実験成功からたった1週間後に、彼を中心とした開発チームは研究施設もろとも、この世から消え去ったけどねぇ」
あの事件は、今でも原因が分かっていない。
でも、原子核分裂反応の秘密は──しばらく秘密のままになりそうだ。
冬夜くんの着させられた服は、前回の楽屋裏~ で描いたアレです。
みょほほほほほ……




