オーバードーズの恐怖
スキンスーツの試運転をして、ありえない動きをさせられた挙句に気絶したというのが、午前中の出来事ってやつだ。
スキンスーツはどうしたって? 当然、脱いだよ。
誰が着るかい、あんなもん…… ぐぅぅぅ、いっでぇよぉ……
「うぐぐぐ……」
「おにい、大丈夫? もっと痛み止めを貰った方が良いって感じ?」
「いや、いい。さっき飲んだだろ」
うん、痛み止めを貰ってもどうしようも無いと思うんだ。
すでに友里さんに頼み込んでシロップ剤にしてもらった鎮痛剤を飲んでいるんだ。
けっこう強めの薬なんだけど、それでも身体は泣くほど痛いんだよ。
だけど、これ以上薬を飲むのはダメだ。過剰摂取になるよ。
……というのは建前だ。過剰摂取は本当の事だけどね。
薬が効き過ぎると、きっつい副作用が待っているって事は嫌というほど知ってる。
小さいときにひどい風邪をひいて、早く治れとばかりに薬をたくさん飲んだ事がある。
その結果は散々だった。
僕は、意識を失ったまま家の外を歩き回ったあげくに電柱によじ登っていたらしい。
もう少し遅かったら、黒焦げ…… にはならないけど電線に触れて感電死するか、電柱から転落して大怪我する事は間違いなしだったそうだ。
あの時は父さんと母さんから死ぬほど説教されたなぁ……
「勝手に薬を持ち出すんじゃないと言っただろう」
「ごべんだざぁあいぃぃ……」
ああ、そうだ。この病院に初めて入院したのもこの時だった…… 点滴を打たれたんだけど、あの時の天野さんはまだまだ新米でなぁ。
針が血管を突き抜けるわ、点滴パックに血が逆流するわ… まっかく酷い目にあった。
ほとんどトラウマになっちゃったかな。
「薬の飲み過ぎは…… って、美月? おい……」
んんん? 美月はどこに行った?
まあいいか。これ以上痛み止めを飲んだら拙い事は分かってるけど、やっぱり欲しい。
ここまで痛いと心がね、折れかかるというか…… 過剰摂取をして副作用が出ても構わないってくらいに──筋肉痛に加えて背骨や腰、肩や肘──つまり関節という関節がぎしぎしと悲鳴を上げているんだもん。
しばらくすると、にんまりと笑みを浮かべた美月が病室に戻ってきた。
「ナースセンター行って、オクスリ貰ってきたよぉ。さあ、一気にやっちゃお♪」
っと! いかんいかん。
やっぱり薬はだめだ。
あの時の天野さんの精神攻撃は、僕にひとつのトラウマを植え付けた。
今だったらPTSDじゃないかってくらいに、念入りに、確実にね。
「頼むからやめて? おむつ脱がさないで」
「ダーイジョーブ。これ飲み合わせにならないタイプだからぁ」
美月が手にしているそれは鎮痛剤の入った銀色のパケットだった。
パケットは冷蔵庫で保管するための特殊なもの… つまりアレだ。そう。この薬は固体だけど、体温よりもやや低い温度で軟らかくなり始めるほどに熱に弱いのだ。
で、もうわかっていると思うけど、飲み薬じゃない。
「それが嫌だからシロップ剤にしてもらったのになぁ」
「どうせおむつ交換のタイミングだし。ついでだしぃ?」
ぺりぺりぺり……
あああああ、マジでそれやめて。おむつ交換は慣れてきたけど、そっちの方は……
「ほぅら、ぷちゅっとね」「はあぁああん……」
……効果は抜群だ。
抜群なんだけど、そのぷちゅ、が嫌だったんだよぅ。
もうお婿に行けないかも……
「ぷぷぷ… おにいも不幸だねぇ」
「むっ、胸をつつきながら言うなぁ!」
って、やばい!?
やっぱり薬が効きすぎた… か…… 視界が、ゆがむ… 息が……
そこまで考えた時に、意識が……
闇に、のまれ… た。
たとえ胃の薬のたぐいでも、飲み過ぎるとヤヴァイ事に。
その昔、征露丸を飲み過ぎて胃腸がガタガタになった人の話とか、薬の過剰摂取のネタには事欠きません。
お薬は用法・用量を守って正しく使いましょう。




