動け身体よ、身体よ動け
こけしサーバーのカメラを経由して見た僕の身体…… 胸に張り付いているイミューンの姿は、色といい形といい、間違いなくあれとしか思えないモノだ、
それも半切りのメロンくらいの大きさがある。
重さだって大きさにふさわしい重量が…… ここまでくると美月の言うようなモノに見えても仕方がないだろう。
「諦めたまえ、両方合わせても600グラム程度しかないんだ。すぐに慣れるとも」
「はふぅ……」
「あらあら、どうしたの冬夜くぅん? 悩ましい声を出しちゃって」
「……何でもないです」
山之谷博士は、くすくす笑いながらイミューンに、むにむにと刺激を与え続けていたが、ふいにその手を止めると真面目な表情になった。
「冬夜くんの発熱は、イミューンが彼の身体との同化プロセスの結果でしょうね。ならば。時間さえあれば解決するわ。でもね、問題は看護婦長に見られた事よ」
「うむ、いきなりの入室だから、隠しようもなかったのだよ」
天野さんがリハビリ室に入ってきて… 見られちゃったんだよね。
身体に張り付いたイミューンと、汗を拭いてもらっている僕の姿。
そこから僕を取り巻く──状況と言った方がいいかな──は、大きく変わる事になる。
ただの高校生にしては、あり得ない奇妙な体験をする事に……
「たしかに、彼女は神出鬼没なのよねぇ。まるでニンジャみたいだわぁ」
「スキンスーツの動作実験に失敗したのが痛かったねぇ。正常に動いてさえいれば…」
僕の身体のマヒは随意筋という──僕の意思で動かすことの出来る筋肉──がまともに動かせないのが原因だ。だからと言って、筋肉が駄目になったわけじゃない。
脳からの信号が神経系のどこかで消えてしまって、筋肉に届かないせいだ。
逆に言えば駄目になっているのは神経系の一部だけって事になる。
「それこそが謎なのだよ。麻痺のメカニズムは分かったけど、原因だけが分からない」
山之谷博士と芹沢博士という、日本でもトップクラスの科学者がタッグを組んで、ようやく解明できたのは、たったこれだけだ。
「と言うわけで、だ。身体に取り付けた電極から微弱な電気信号を流してやれば筋肉を動かす事も出来るというわけだよ」
「どう? 冬夜くん。きついところとかは?」
「特に問題はないと思います」
そして…… 2人が考え出した方法というのが、コレだ。
僕はスキンスーツ──身体にぴったりの全身タイツ──に着替えをさせられて。
その材料は普通じゃない。棒で叩かれたり熱湯がかかっても何にも感じないのに、普通に触られれば、それは感触として伝わってくる。
「これは試作品だから電極くらいしか組み込んでいないが、完成品はもっと凄いのだよ。筋力倍増装置をはじめ、機能が盛り沢山なのだよぉ」
芹沢博士が見せてくれたイメージボードに描かれていたのは、誰がどう見てもバリバリに趣味の世界が丸出しの──スーパーロボットとかメタルヒーローじゃないか。
これスキンスーツの外装だっていうけど、博士は何を目指してるんだろ。
「じゃあ、スーツを起動させますね」
岩本女史がこけしサーバーのスロットに1枚の基盤を差し込んだ。
しばらくするとVRゴーグルにオープニングメッセージが表示され、ざーっと大量の文字列がスクロールしていく。
「さて、と。チェックプログラムは順調に動いているようだねぇ」
「むがががが…… がゆ… うま……」
それと同時に全身がぴりぴりしてきたんだ。
むず痒い感覚とでも言えば良いかなぁ…… それがつま先から始まって、だんだんと頭の方に移動していくんだ。皮膚の下で──筋肉がぴくぴくと小刻みに動き出す感覚をどう伝えれば良いかな。
「うひゃひゃひゃひゃ、成功だよ。冬夜くんの身体とこけしサーバーは完全にリンクしたんだよ。いける、これならいける!」
細かい動きは山之谷博士が作り上げた『こけしサーバー』が制御してくれる。いわば外付けの小脳だね。僕の身体とこけしとのやり取りをするのが、VRゴーグルってわけ。
ほんとに、多機能すぎるのにも程があると思わない?
「さあ、冬夜くん。起き上がってみたまえ」「う、うん…… やってみます」
冬夜の左足のひざがゆっくり曲がったかと思うと、足の裏がベッドのふちをとらえた。
そのまま後頭部が枕から浮き上がり……
普段は意識しない身体の動きを意識するのは、イメージするだけでも大変だ。
じりじりしそうなほどゆっくりと身体が動き始めたけど…… だめだぁ……
「芹沢博士、もう少し出力を上げた方が良くないかしら」
「そうだねえ…… もう少しゲインを上げてみよう」
かちかちかと…… ヴゥぅン……
「これでどうかな?」「はぐうぅっ!」
途端に、僕は声を出す事も出来ずにぶっ倒れた。
身体中の関節をありえないような方向にねじ曲がって…… いた。
がんばれ冬夜くん。ヨガマスターになれば空を飛べるしヨーガ・ファイヤー……




