爺様からの餞別
美月の持ってきたメジャーを奪い取ったフテミミ様は… 健康診断で身長体重とか胸囲とかを測るだろ。ちょうどそんな感じなんだけどね……
「では、改めて…… なにこの目盛り… 読みにくいわねぇ……」
ぶつぶつ言いながら目盛りを読んでいるけど、なにやら機嫌が悪そうだなあ。
って、ちらりと見えた目盛りは楔形文字っぽいような……
「これだと42と半分…くらいかな。上は48ね」
ええと、それセンチじゃないよね。インチ?
それだと2.5を掛ける(注:1インチは2。5センチ)から… ええと。
ひのふのみ…… ちーん!
「106センチと… 120ぅう?」
なんなんだよ、その数字。いくらなんでも変だよ、それ。
春の健康診断では平均よりちょい下で… ギリギリ80センチくらいだったのは憶えているからね。それに僕が寝間着を仕立てたときは単純に布地を体に巻き付けて型取りしたんだけど、それでも1メートルは無かったはずだよ?
「それ舶来のメジャーだしぃ。あーしって物持ちが良い?」
「舶来でもおかしいだろ。僕はセンチと寸とインチくらいしか知らないよ?」
昔の日本では寸とか尺が使われていて…… 当時の日本が、もう少し国力があれば尺貫法が世界標準になっていたんだけどね。
残念ながら国際会議の多数決でメートル法が世界標準になったんだ。
でもそれだと、42.5センチと48センチだ。今度は細すぎるんだよな。
「正解は85センチと96センチ。違いますか、サーリア様」「ぐぬぬ……」
「にしししし… その様子だと当たり、ですね」
オヌイ様が言った数字には納得もいくけど、96と言うのが分からないです。
センセー、教えてください。
「単位はディジットでしょう? あまり衣服の神を舐めないでくださいね」
「ええと、なにそれ」
「うふふふふ…… 一昨日、お爺ちゃんに習わなかった?」
牛に乗った爺様だろ。習ったk…… ああ、あれか。
紀元前3000年には使われていたという古い単位系だ。基本はキュビットと言って、ひじから先の長が基準になっている。50センチ弱くらいだね。
そして、この単位系の最小単位がディジット。2センチだ。
「というわけで、冬夜くんのサイズは96、77、96ねぇ」「えぇええ?」
「冬夜くんの方がお姉さんでしたねぇ。ご愁傷さまです」
「そーじゃなくてぇ、やっぱ、おにいの胸が急に育ってるんだってばぁ!」
そうなの?
「こうなったら、もぐしかないかなぁ……」
「馬鹿な事を言ってないで、あっちに行ってなさい!」
うん、こういう時の2人はすごいね、フェイリアとラーリィも貫禄十分だ。
でもね美月。落ち込まなくてもいいんだぞ。それはそれでステータスなんだ。
この場で口にする事は…… ダメだ。言っちゃいけない。うーん、困った……
あうあうしそうになった僕に、意外なところから救いの手が差し伸べられた。
「冬夜よ、出立するそうじゃな」
爺さんが来た。相変わらず牛に乗ってゆったりと現れるんだよね。
この爺さん、詰め込み教育という名の…… 鬼かも知れない。いや、鬼だ。
って…… さっきの聞かれていなかったよね? 大丈夫だよね……
「男子たるもの、紋所のひとつもなければ格好がつくまい?」
そう言うと、爺さんは僕に棒のような何かを、ぽんと投げてよこした。
「儂からの餞別じゃ。大事にせぇよ」「はぁ……」
これは日本刀… いや、反りと下げ緒を見れば、こいつが刀じゃなくて太刀だという事くらいは、いくら僕でも見分けがつく。
初期の日本刀──太刀は下げ緒に帯やベルトを通して佩く(装備する)んだ。
戦国時代から後の時代には、刀の造りとかが変わるし、下げ緒は省略される。
だから、こんな大時代的なものを選ぶなんて… 実に爺さんらしいな。
「はばきを見るがよい」「はい?」
はばきというのは つばの先にある──刀身がさやから抜け落ちないようにするための固定金具の事だ。僕は太刀をわずかに抜いてみた。
金色に鈍く輝くはばきには、何か紋章のようなものが彫り込まれている。
「この紋は亀甲に6つ瓢という。在って困るものでもなかろう?
普段はアイテムバッグの中に仕舞っておくがよい」
太刀と刀ですが…… 細かく説明するとキリがないので、大雑把に。
『太刀』とは鞘に収めた状態で、刃が下を向いている初期の日本刀。
装備する時は鞘を専用の紐や革で腰から吊り下げます。
時代が下ると鞘に収めた状態で、刃が上を向いている日本刀が出現します。
装備する時は鞘ごと帯に差しますが、時代劇でよく見る『刀』がこれなのです。




