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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
語られることのない物語
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未知なるモノとの遭遇

 私は不整地走行車に乗って、とある場所を目指している。

 極端な人口減少のせいで、100年ほども前に放棄された場所なんだ。

 この場所を見つけるのにはけっこう苦労した。


「うーん、ここで合っている筈なんだけどなぁ……」


 私は不整地走行車を停めると、カバンの中から1冊の地図帳を取り出した。

 装丁はボロボロ、ページを留めている接着剤は劣化して用をなさない。つまりは、石油樹脂の一種で補強された丈夫な紙に挟まれた紙の束だけどな。


 図書館にも置いていなかった、この地図帳を見つけたのは今から数年ほど前のことだ。それも見つけたのは場末の古書店ときている。

 奥付を見ると、修文(しゅうぶん)2年に発行された事になっていた。

 版元に問い合わせたら、発行した記録はあるが、原本は万和(ばんな)時代の末に起きた大規模テロ事件で失われたらしい。


「ったく、地球教徒も碌な事をしなかったんだなぁ……」


 地図帳と現代の地図を照らし合わせながら荒れ地を進むこと1時間。

 さすがに運転するのも疲れてきた。陽のあるうちに蓄電池に充電をしておきたいし、今日はここで野営するとするかぁ。


「よいしょ、っと」


 しばらく進んで、野営が出来そうな場所を見つけると、天幕の準備だ。

 昔の天幕は帆布を使った重い物だったけど、現代のものは石油樹脂繊維で出来ているから、とても軽くて丈夫ときている。

 だから設営するのは私ひとりでも簡単にできるんだ。


 ぱちぱちとたき火の燃える音を聞きながら、寝っ転がって空を見上げて見れば、今夜も良い天気だ。南の空に赤く輝くアンタレス星、そして彦星だ。天の川を挟んだ対岸に広がるのは夏の大三角で、あの明るい星は織姫星。


 昔の人も、私が見ているのと同じ星をみていたのだろうか……


「うおぉおおっ、焦げちまったあ!」


 飯盒炊飯で焦げた飯を…… 炭じゃない、胃の薬だ。これは薬だっ、

 でもまあ、塩漬け肉のスープの方は上手く作れたから良しとしよう。

 妻の摩耶まやが聞いたら怒り狂うかもしれないけど、知ったことか。


 いいか。これぞ伝説の『オトコノリョーリ』なんだ。考古学者の私だからこそ再現できる究極の料理というやつなんだあ!

 ふっ、怖いぞ。自分の才能がこわいぞぉおお!


 ……うん、興奮のあまり自己紹介が遅れてしまったな。

 私の名前は高尾一郎。耐性レベルはBだから生殖能力を残した、数少ない男性なのだ。さらに、3人の息子の父親というのは誇るべき事だな。うん。

 そうじゃなかったら、役所が調査旅行の許可なんぞを出すわけがない。


 と、まあ、それはいいか。

 私が考古学を目指したのは、ギョベクリ・テペの事を知ってからだ。

 少なくとも1万2千年前には存在していた巨石神殿の遺跡は、世界史の教科書を大きく書き換える事になる大発見だったんだよ。


 神殿の中心にある石柱の高さは5メートルを超え、重さに至っては10トン以上だ。さらに、だ。周辺の50キロ圏内の地域には同じような遺跡──カラハンテペ、セフェルテペ──が見つかっているのだ。


 そして、最も重要なの事は、この神殿を築いた文明は、世界最初の文明とされているメソポタミア文明よりも7000年は古いという事なのだ。

 約1万年前に始まったとされる新石器時代よりも昔に、この神殿群を人類は、どうやって建造したんだろう。


 そう考えると、心がワクワクしないかい?

 古代宇宙飛行士説を唱える考古学者は、宇宙人が介入していると主張している。

 彼らの言う事も一理あると思うんだ。有名な学者の言う事だけが全てじゃない。

 だから、私も調査旅行をしているんだ。


 なぜならば──こういう巨石文明は、世界中に存在する。

 もちろん、日本も例外じゃない。巨石建造物は日本にもある。これに比べたら、城の石垣なんか大量の小石を積み上げただけと言われているくらいだ。


「遮光器土偶が見つかったのも、日本だけじゃないからなぁ」


 あれは、どう見ても宇宙服だ。もっと露骨に宇宙服をしたものは天竺や秘露(ひろ)にある神殿に彫刻されたレリーフだが。あれが宇宙服じゃなかったら、何なんだというくらいに、現代の宇宙服にそっくりなんだぞ。


 地図帳をもう一度取り出した。

 目的地──ミズカネヤマまでは、あと数キロメートルってところか。

 平安時代の古文書によれば、水銀が産出されたという記録があるけれど、果たしてそれだけだろうか。


 自然に出来たにしては、あまりにも整った形をし過ぎている。そのため、あの山は人工物だという仮説すら残っているんだ。

 その仮説が正しいなら、作った奴は誰だ。何の目的があってあんな物を?

 この私が、その謎を解いて見せてやろう。


 ふははは、明日が楽しみだ。


 実に楽しみだぞぉおお!

F市が放棄されてから、100年近く過ぎた頃のお話。

人類の痕跡はすっかり自然に飲み込まれてしまいましたが…… 人類は健在。

宇宙開発も順調に進んでいるようですねぇ……

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