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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
愛とジェラシーのハリケーン
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とある公務員の休日

 F市に出張してから、そろそろ3か月になる、のですが。

 出張先は新緑が目にまぶしい…… 20年前に放棄されたF市近郊の村落で。

 ここで私たちがしている事と言えば……


「霧島少尉、定時観測が終わりました。変化なしです」「はい、ご苦労様」


 ……定期的にある場所を監視するだけ。それも24時間体制です。

 そのために6課全員がF市に来ることになり、コンテナハウスの数も大幅に増えました。いまや出張というよりも移転に近いかも知れない状況です。

 でも本庁には部屋が残っているから、左遷という訳ではありませんか……


「問題は何も無いという事でしょうね」「野生動物さえ見かけませんものねぇ」

「さっきヨーコがウリ坊を見たって」「へぇ、珍しいわね」


 いえ、食糧や燃料をはじめ物資の補給もありますし、通信衛星がありますからテレビやラジオ、電話といった情報通信に支障はありません。

 それでも足りないのです。私たちはナマの情報に飢えているのです


 それを補う訳でもないのですが。週に1度の非番の日がここ最近では最大の楽しみという訳で…… ぶっちゃけ近くの街に行くだけですけれどね。


 そのためだけに軽自動車を運び込みました。これは長門少尉の私物ですけれど、冬のボーナスを全額つぎ込んで足回りを強化したそうで。

 ひょっとしなくても、機動性だけMSVよりも上なのだそうです。


「今回はたいちょさんと私… ですか……」

「ならば霧島とこうt「たいちょさんとドライブしたいです!」…そうか」


 磐田少佐と衣笠大尉も仲が良いのか悪いのか。それを言ったら私も… かな。

 少佐とは高校以来の腐れ縁。糸を引きまくってるわよ。

 でもねぇ…… 大尉は夫帯者だから、家に帰るのでしょう。でも、それに付き合ってジントアまで行く少佐はねぇ…… お互い、独り身は寂しいもので…


「……っと、仕事です! 明後日に希望を乗せて、24時間戦うです!」


 彼女の視線の先では、爆走する軽自動車は、かなり小さくなっている。

 サスペンションを強化し不整地走行用のタイヤをつけ、ツインカムターボまで搭載した特製の軽自動車は、1時間とかからずにジントアに到着した。

 彼らは駅前のコインパーキングに車を放り込んだら解散する事になる。


「では少佐。明日までへへへ……」


 ゆるゆるな顔で地下鉄駅に向かう部下A… 衣笠大尉は夫帯者で子持ちだ。

 今夜の家族サービスはさぞかし忙しいことだろう。

 車両の関係で私もここまで来たけど…… とりあえず観覧車にでも乗り……


「あね、はーは、いた!」「お待ちしておりました、お母さま」

「夏希… まりか? えええええっ?」

 

 あなたたち、西の都の本宅にいるはずでしょう。

 久世…… あんたが連れてきたの?


 彼は堂上家の執事長を務めているけれど、もう歳なんだから本宅でのんびりしていればいいものを…… えっ? 仕事は息子に押し付けてきた、ですってぇ?

 んむむむ…… 子供たちも久世には懐いているから強くは言えないけど……


「いつもながら、まりかお嬢様の予測は見事でございますなぁ」


 まるで我がことのように喜ぶ彼の年齢は70を超えている。

 しかし磐田は知っている。彼の執事服はちょっとした武器庫だという事を。

 そして地球教の暗殺部隊を相手に、どんな事をしたのかを……


「男性を護衛をする立場の私が、男性に護衛されるなんて、妙な気分ねぇ」


 でも…… それ以前に気になる事があるのよね。

 彼ったら、暑くないのかしら。半月も前に梅雨明け宣言が出ているし、今日は熱射病の警告を出ているはずなのに。


「お気遣いありがとうございます。それよりも、お嬢様。若様よりジントアに遊園地があると聞き及んでおりますが?」


 さすがは堂上家の誇るスーパー執事。なるほどね。そういう事… か。

 私がジントアに来ざるを得ない事を見越して先回りしているなんて。

 でも、流石だわ。


「さて、お車までご案内致します」「ここからだと、西駐車場?」「左様で」


 久世について散策路を歩いていると、急にふわり、と花の香りが漂ってきた。

 いや、花のように感じただけなのかもしれない。植物のようで動物的でもある。

 強いて言ってみればジャスミンの香りに近い、かも。


「この香り…… 最近どこかで……」

「珍しい香りですね。ホワイトフローラル… いえ、ちょっと違いますか」

「まりかは知っているの?」

「たしか講書始め…… 違いますか。あれれ、どこでだったでしょうか……」


 歩きながらうーんん、と眉間にしわを寄せる娘の表情と、それを心配そうな表情でぽんぽんをする息子の姿を見ているうちに、匂いをどこでかいだかなんて、どうでもよくなってきた。

 うん、今はそれでいい。


「はーは、こっち!」


 車を見つけた夏希が、ぱたぱたと走り出した。


 はいはい、急がなくても車は逃げたりしないわよ。

ジャスミンやすずらんがベースになるホワイトフローラル系の香りは、いろいろな場面で使える万能選手だと思うのです。

でもジャスミン単体だと、香りに動物的なイメージがあるような気がします。

これは私の個人的な感想なので、異論はあると思いますが、お気になさらず。


というわけで、この章はここでおしまい。

次回からは閑話をいくつか挟んでから、新しい章に入ります。

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