神と魂魄のめぐりあい
ほんとうに、坊やは人気者だねぇ。
あの子と初めて逢った時には、魂魄が虚空をさ迷って──いいえ、深い眠りについたまま、あてどもなく漂流していた、というのが正解に近いかねぇ。
「どうするの、リーマ。放っておくのは気の毒とか?」
「ああ、この魂魄は… 子供のものだから」「子供、ですって?」
魂は精神的な精神や知性、思考を。 魄は肉体の活動や本能を、司る。
死を迎えた生物の魂魄は、魂と魄に分かたれる。
死を迎えた生物の魂魄は、2つに分かたれ、魂は天に昇り、魄は大地に還る。
「子供の魂… いえ、魄が失われていないのなら、完全な『死』じゃないわね。そうでしょう、リーマ」
たしかにハーリアなら言いそうな事さね。
なぜなら彼女は豊穣と多産の神にして、子供の守護神だもの。
そして彼女自身も、子供が1000人もいると言われるほどの子煩悩だ。
私のような血と殺戮を好む戦女神とは、正反対の存在なのだから。
「ハーリアよ。このまま手を出さなくとも、輪廻の輪に行き着くでしょうに」
そうだ。この空間には一定の流れがある。
どういう経路をたどろうと、最終的には、ある1点──三千世界の中心に向かう事になるのだから。
その周囲を巡る輪廻の輪に吸収されて、再び大地に立つ事になるの。
魂が転生した時の姿が、どんなものに成るのかまでは私ではわからない。
再び人間に成るのか、それとも鳥や魚か動物か… はたまた草木の類なのか。
何にせよ、永い時を経て生まれ変わる事も、不可能ではない… はず。
「その間寂しい思いをするかも知れないでしょう。子供の守護神たるハーリアが。それを見逃すとも?」
「でも簡単な事ではないわよ。魂魄に細工がされているのが分かるでしょう?」
あの魂魄には手を加えられた痕跡がある。目に見える部分は、ほんのわずかな部分だからハーリアは言われるまで気付かなかったけど。
「う~ん、このままでは… そうだ、ひとまず幽冥に送り込みましょ」
ふむ、それはそれで悪くはない方法さね。
魂魄の漂流する方向をずらす事くらいなら、難しい事ではないからねぇ。
「さすがはリーマ。これで心置きなくお茶会の準備が始められるわ」
そうだろうね、あの魂魄が幽冥にたどり着くころには、フェイリアも帰っているだろう。悪いとは思うけど、しばらく面倒を見てもらおうかね。
あの子なら… 仮にも世界の管理神なのだから、上手くやるに違いない。
そして…… とんでもない事が起きた。起きてしまった。
「ごめんなさいね、娘たちが喧嘩を始めちゃってねぇ……」
まさかとは思ったけどね。
あの3人娘もなかなか。ひとりのオトコを巡って喧嘩とは…… 若いねぇ。
おやおや、シャウスよ。何か嬉しい事でもあったのかい?
「でね、でね、あの子たちに感情が……」「なん、だって?」「まぁ」
あの魂魄の名は冬夜というのか。手を加えられた魂魄には不完全ながらも手を打てたのね…… なら、しばらくは大丈夫。
そうなると、がぜん興味がわいてきたねぇ。
まさか魂魄ひとつであの娘たちが感情を手に入れるとは。
ククククク…… あの魂魄は飛ばされた先でも、いい具合に災難に遭っているじゃないか。もしも手を打たなかったら、この世の災厄を際限なく吸収して、あの恒星系ごと吹き飛んでいたかもしれないけどね。
それを何とかするとは、ラーリィの能力もずいぶん上がっているじゃないか。
それにしても、じれったいねぇ。
おや、あの場所は神界と人の世界の接点。
あそこなら、私が行っても世界に影響は及ぼさない。数少ない特殊な空間さね。
それに、あの空間を維持するエネルギー源は、私たちの放つ神気だ。
「せっかく坊やに会えたと思ったら……」
イザナミめ。たしかに坊やはヒノモトの民だし、あいつはヒノモトの神だ。
だからと言って、よりにもよって、貸してくれとは……
その後も続々とヒノモトの神が現れては、坊やに色々なものを──それも嬉々として──授けていったけど。
あそこまで気難しい神に気に入られるとは…… 恐れ入ったねぇ。
スサノヲ、タヂカラヲ。やり過ぎてはいけない。ほどほどにしなよ。
あまり授けすぎると、坊やは人間でいられなくなるかもしれないからね。
私としては、その方がありがたいけど……
だって、あの子を最初に見つけたのは、私なんだ。
イザナミなんかには、渡すものかね。
坊やはね、あたしのものだ。
スサノヲ様とタヂカラヲ様って…… 高天原の、つまり天津神の偉いえらい神様なのです。それも武闘派というか… そっち系のツートップ!
なんで彼らが冬夜くんを気に入ったのでしょうねぇ。




