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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
愛とジェラシーのハリケーン
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幻影の村、ふたたび

番外編(登場人物のまとめ的なもの)を18時に投稿します。

本編とは関係がありませんが、裏設定とかネタバレがあるかも。

みなさまよろしく。

 我々が保護すべき、アーチェフ病原体に対する完全な耐性を持った冬夜少年は、我々の前から姿を消してしまった。

 あわてて追いかけたけど…… 我々に残された手掛かりは少なかった……


「たいちょ、なんかここ… 見憶えがおまへんか?」


 なん、だって?

 彼女の呟きを聞いた私は、改めて周囲を見回した。

 そこにあるのは3方を山に囲まれた廃村に過ぎない。かつては谷間にある集落だったが、数十年前に噴火した水金(みずかね)山の影響で大規模な地滑りが発生、街道を塞いでしまったため。

 この地滑りは、地質学上の謎として新聞紙面を賑わせていたものだけど……


 待って。水金山… だって? じゃあ、ここは……


「ええ、ここはF市です。お互いにあん時は大変やったやんなぁ」

「F市… か。嫌な事を思い出させてくれたものね」


 そう。それはとても嫌な… 忌々しい思い出… だ。

 大学を出て男性護衛官に任官したばかりの私の担当する男性が、彼だった。

 彼は数少ない耐性持ちで、妻との間に2人の子供を授かった… 私の幼馴染だ。

 

 ええ、ええ、そうですとも。

 どーせ私はとんびにあぶらげ攫われた哀れな喪女ですよっ!


「……ばか省吾」

「たいちょ、気持ちは分からのうもあらへんけど、省吾さんの事をそないに悪う言うたらあきまへんよ」


 言うに事欠いて、そう来る? 知ってて言ってるでしょ?

 朝霞が私と彼と同じゼミにいて、同じサークルにいた事とか。

 そうか、お前も同じサークルにいたのよねぇ。

 んぬぅぅぅ、思い出しただけでも腹が立ってきたわ。


 ……なーにをクスクス笑ってるのよ。

 私が省吾の担当になるように裏で糸を引いていたのが誰なのか、ちゃぁんと分かっているんだからねっ!


「見事にとんびに油揚げ、さらわれたものねぇ」「あんたという女わぁ!」


 いまでこそ部下Aだけど、衣笠青葉(きぬがさ あおば)は大学では1期下の後輩で、サークル内では何でも出来る器用な子だった。素直で明るくて……

 彼女の場合は職業の選択を誤ったのかもしれない。うん、そうに違いない


「それ、上官の磐田さんが言う事とちゃう思うんですけど?」


 そう。彼は最後の我儘だと言って、ここを探検しに来たのよ。

 耐性持ちの男性が貴重なのは、今も昔も変わらない。でも、国民の義務を充分に果たした彼には、それだけの権利がある。


 とはいえ、あのころは世界中で地球教徒によるテロが多発していた。

 彼の安全を考えると、役所が許可を出すのを渋るのは当然の流れでしょうね。

 それでも、彼はそれをやり遂げた。許可をもぎ取ったのよ。

 そして、神隠しに…… 遭った。


「あー、たいちょ。応援を寄越すように頼んでおきましたから」

「ん、援かる。たしかに応援が必要な案件になったわね」


 そして今回もまた、ここ──F市で神隠しとしか思えない事件が起きたのよ。

 前回は、私たちが護衛すべき男性──泉水 省吾が手の届く範囲にいながら、行方不明になってしまったの。


 そして、今回は彼の息子もまた…… だもん。


「ばか省吾…… ほんと、親子そろって面倒をかけてくれるわね」


 結論から言えば、彼を救出する事には成功したわ。

 だけど、あの事件は…… 今になって思い出しても、奇妙な出来事だったけど。

 医学検査で、軽い疲労──重症なのは漆にかぶれたくらい、だったわねぇ。


 でもね、救出までにかかった時間は2週間。

 彼が持っている通信ユニットからの信号が急に途絶えた場所を中心に、捜索範囲は半径10キロ以上にもわたり、のべ500人もの人間が周囲をくまなく…

 文字通り、草の根を分けるような大々的な捜索が行われたのよ。

 それでも彼の痕跡を見つける事は出来なかった。


 それから2週間が過ぎて、護衛総隊でも彼は絶望… そろそろ捜索を諦めようかと考え始めた頃になって。


 急に彼の通信ユニットからの信号を受信したの。

 でも、いくら考えてもわからないのは、通信ユニットが優秀でもバッテリーは3日もあれば空になるのよ。どう頑張っても2週間なんて無理。再充電もね。

 私たちは、藁をもすがる思いで電波発信源に急いだわ。


 見たものは、胸に1本の漆の枝を抱いて。

 平和そうな寝顔で、軽くいびきをかきながら眠っている…… 彼の姿だった。

 それを見て、思わず彼の耳元で大きな声を出した私は悪くないと思うの。


 悪い筈なんて、ないわよね。


 ねえ、そうでしょ?


 ば・か・省吾。

そう言えば、そんな事があったかもしれない。

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