お兄ちゃんと優秀な妹
おっと、お腹がいっぱいになったら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
やっぱり半年以上も寝たきり生活をつづけたせいで、体力が落ちてるなぁ。
あれしきの距離で体力を使い切るなんて、我ながら情けなくなるよ。
昨日はリーマ様に連れられて、みんなで池みたいなお風呂に入って、それから米をむさぼり喰ったのまでは、憶えている。
美月に止められるまでの間に、けっこうな量が胃の中に入ったと思うよ。
あれだけ食べたら、普通ならギブアップしても不思議じゃないんだけどなぁ。
で、気が付いたら布団に寝かされていて…… 布団?
「わああああああっ!」
心臓が止まるかと思ったよ、マジで!
だってさ、布団を取り囲むように…… ぬーっと立ってるんだよ。
枕元にポコ君と…… 布団の周りには埴輪の群れが、びっしりと。
埴輪たちはパイロットスーツ女に僕と間違えられた美月が召喚したのかな。こいつらが地面から染み出すようにして現れたのを見ていたから。
たぶんそういう事なんだろう。
で、こいつらも彩根井寺までついてきたたらしい。
こいつらは美月に懐いたか、それともポコ君か…… やっぱポコ君だな。
大きさは別として、全体的なイメージは似てなくもない。それに、あの場所では一緒になってかまどとか作っていたからなぁ……
「おはよ、おにい!」「冬夜くん、そろそろ起きるにゃ」
ぱぁん! と、障子がはじけ飛ぶような勢いで開けられると同時に、美月と友里さんが部屋に飛び込んで…… 来られなかった。
「「ぴい!」」
ヘルメットをかぶって、三つ又の槍を構えた埴輪たちにブロックされてたんだ。
うん、実に素早い動きじゃないか。なかなか良いじゃないか。
とにかく状況を確認するか。えーと、ゴーグル、ゴーグルっと… よしっ!
ポコ君と話をするのには、これが無いと始まらないからね……
──Bonum mane. Quaeso paulisper exspecta dum intrusum removemus.
(おはようございます。侵入者を排除するまで、しばらくお待ちください)
「ほどほどに頼むね……」
布団から出た僕は、埴輪たちが2人を追いかけまわしている間に着替えを済ませる事にした。さすがに浴衣1枚でリーマ様の所には行けないだろ。
とはいえ… どうしたものかな。
昨日の今日だから洗濯なんてしていないから、スキンスーツは汗臭いままだし、服だって… おおおっ?
「……きれいになってる」
昨日のアレで、服には土と汗がこびりついて酷い事になっていたんだけどね。
いつの間に洗濯してくれたんだろ。それにしても、よく一晩で乾いたな……
「ぴ!」「わあっ!?」
びびび、びっくりした! 後ろには両手にうちわ、頭にねじり鉢巻きをした埴輪がいたよ。それも、嬉しそうにしゅたっ! って手をあげてさ。
僕が気付いたと知るや、うちわを放り出して……
「ぴぴー」
はいはい、スキンスーツを着るんだね。手伝ってくれるのか。ありがとう。
埴輪のおかげで、けっこう早めに──これ、筋肉を刺激する電極を身体に密着させるために、けっこうきつめに出来ているんだ。
だから一人で着るのはコツがいる。というよりも、無理!
最初に着た時だって、芹沢博士と岩本女史が2人がかりだったもん。
で、ミニスカはいて、パーカーに手を伸ばすころになって…… 美月たちが部屋に入ってきた。
「あーっ! ……おにいの着替えが終わってるし?」
「にゃ、にゃんと素早い…… 眼福が遠ざかってしまったにゃ」
「……そんな事だろうと思ってたよ」
2人の背後──庭先では、ポコ君が地面から埴輪たちを引き抜いている。
うっわぁ… ポコ君プラス15体の埴輪を相手にして、圧勝とはすごいな。
「おはよう、坊や。よく眠れたようだねぇ」「おはようごじます」
さすがに、これだけドタバタすればリーマ様じゃなくても気が付くよね。
それを気にする様子もなく、機嫌良さそうに埴輪たちに目をやった。
「サーリアと猫は善戦したねぇ。埴輪は1体でもヒグマを瞬殺できるさね」
「そ… そぉですか……」
何だかヤヴァイ事を聞いた気がするよ。
ヒグマを瞬殺する埴輪を相手にして、1歩も引かなかったばかりか地面にめり込ませているんだよ。それも1体や2体じゃない。15体全員をだ。
やめてリーマ様。その笑顔、なんか怖いんですけれど……
「坊や。目の前に姉より優秀な妹が目の前にいるのだけどねぇ……」
洗濯ものの部屋干しには、除湿器とサーキュレーターが必須だと思うのです。




