あとは待つだけ
あの御大──『ゆり愛好家』にも困ったものねぇ。無茶な命令は今に始まった事ではないとはいえ、今回は特にひどすぎる。
あまりにも情報が少なすぎるのよ。
──ジントア在住のトオーヤ(?)なる男性を疾く保護すべし。
総長室でみた箱の中身を要約すれば、そういう事になる。
そして、肝心の男性の名前だけど、トオーヤ(?)。よほど確証が持てないのか、名前の後ろに疑問符が入っている。今までに御所から届けられた──やんごとなき御方からのメッセージは、まるで見てきたが如くの内容、だったのよ。
そう、いつもの『それ』は、命令書というよりも作業手順書のような内容だから我々の任務は、ちょっと手間がかかるお使い程度という事になる。
かなり神経をすり減らすような内容だったり、荒事だったりする事もあるけど、
それが10年ほど前に創設された男性護衛総隊第6課のお仕事のすべて。
「今回のお手紙の内容は、よう分かりまへんなあ」
「微に入り細に入り説明をする御大にしては珍しい事ね」
漢字の田の字のような庁舎の屋上──その中心部分にある発着場では、発進準備を終えた秋津が私たちを待っていた。
すでに暖機運転を終えているから、すぐにでも離陸する事が出来る。
「秋津が垂直離着陸機だからこそ出来る事ですね」
「うむ、烈風や蒼電の場合は滑走路が必要だからな」
秋津の場合は、主翼に内蔵されたダクトファンを使えば滑走路はいらない。
この機能を利用すれば、空中の1点で静止する事すら出来る。夢のVTOL機なのだから。
私と部下Aを乗せた秋津は、ゆっくりと離陸するとゆっくりと西を目指した。
目的地はジントア。かつて私が生まれ育った… 港町、だ。
「たいちょ、けったいな無線を傍受したけど」
それは、ジントアまで10分と掛からないところまで来た時の事だった。
後部座席で通信機をいじっていた部下Aが、妙な無線を拾ったのだ。
海軍航空隊が何か──不審な小型飛行機を追いかけている… だって?
「また地球教徒やろけ」「いや、それなら撃墜命令を出すはずだ」
我が国にテロリストにかける情けなどは、欠片たりとも持ち合わせは無い。
もしも小型飛行機に乗っているのが、そういう輩だとすれば、市街地上空から追い払ったうえで撃墜するはず。
なのに……
「確かに変ですなぁ。機銃の弾丸は硬質ゴム弾で、ミサイルは使用禁止。海軍さんは小型飛行機に乗った人物を無傷で保護したいようで」
「……妙だな。先回りするか。その… 小型機の進路を割り出せ」
「ええと… 進路を右に… 60度変更してくれてや……」
秋津の進路を変えながら、私は考えていた。撃墜ではなく、強制着陸か…
小型飛行機に何が… テロリストではないとしたら、誰が乗っている?
あの様子では、何があっても死なせたくない人物が乗って……
そこまで考えた私は、はたと気が付いた。
「急いでジントアの護衛隊支局に問い合わせて。ひょっとしたら、ひょっとするかも知れないわよ」
私には確信があった。死なせてはならない小型飛行機に乗る人物。
そして『ゆり愛好家』からの手紙、とどめはジントアだ。
さらには男性護衛隊の… それも第6課が出動しなければならない理由。
これをつなぎ合わせて考えるなら、答えはひとつしかないでしょう?
「えっと、たいちょ。なんか分かったんですか」
「……男性だ」「えっ?」
小型飛行機の乗客の一人は、『ゆり愛好家』の言うトオーヤに違いない。
そう考えるなら、納得できるのよ。
「支局から返事がきた。大当たり、ドンピシャじゃわい」
後部座席から部下Aが嬉しそうな声で報告してきた。
ふふっ、大当たりか。
「乗っているのは、山之谷博士、芹沢博士と… 看護婦の菱見 友里。そして泉水 冬夜。耐性持ちの男性です!」
トオーヤ… 冬夜か。うん、大当たりだ。私たちの任務は… 彼、泉水冬夜を保護、総隊長の前に連れていくことだ。それに間違いない。
部下Aと簡単な打合せをしながら、支局にも指示を出す。
小型飛行機をここ… 私たちが向かっている廃村に追い込んでもらうのだ。
「私たちもこのあたりで着陸しよう。待ち伏せをするのに都合のいい場所だ」
「電波探知機に反応、小型飛行機はまっすぐこっちに飛んできとる。墜落せなんだらええんやけど」
うん、かなり派手に突っ込んだな。轟音と破片をまき散らしながら、まるでゴムボールのようにバウンドしながらこっちに来る。
あの様子なら死ぬことはないわね。怪我くらいは仕方が無いと思うけど。
持ってきた3番装備が、早々に役に立ちそうね。
「さあ部下A。『彼』を迎えに行こうか」
SUVが不時着するまでを、磐田少佐たちの視点から書いてみました。




