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世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: K3/KASANE
7/24最終回です

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第52話「参列者」

時間ができた時にも随時更新します!


ぜひお楽しみに!


それでは、本編をお楽しみください。

 社殿の前へ出た。


 玉砂利を踏む。


 ざっ。


 白無垢の裾が。


 足元で、かすかにこすれた。


 顔を上げる。


 たくさんの人が。


 いっせいに、こちらを向いた。


 息が。


 一度、つまった。


 みんな。


 私と、海斗くんを見ている。


 家族。


 友達。


 神宝町の人たち。


 海斗くんを支えてきた人。


 私の音を、聞いてきた人。


 十五年前には。


 まだ、出会っていなかった人もいる。


 あの日から。


 ずっと、そばにいてくれた人もいる。


 それぞれの場所から。


 私たちを見ていた。


 私は。


 ずっと、見る側だった。


 しょうにんとして。


 植え込みの奥を見た。


 空港で。


 遠ざかる背中を見た。


 画面の中で。


 世界のゴールを見た。


 だれかを見て。


 書いて。


 音にして。


 見続けてきた。


 その私が。


 今日は、見られている。


 見届けてきた人が。


 見届けられる側に立っていた。


 不思議だった。


 少し、怖かった。


 でも。


 逃げたいとは思わなかった。


 今日の私は。


 だれかの後ろに隠れていない。


 海斗くんの影にも。


 白無垢の中にも。


 隠れていない。


 全部の私で。


 みんなの前に立っていた。


    * * *


 前のほうに。


 海斗くんのお母さんがいた。


 私と目が合う前から。


 もう。


 ハンカチを、目元へ当てている。


 隣に座る人が。


 何か、小さく話しかけた。


 海斗くんのお母さんは。


 泣きながら、笑った。


 きっと。


 私の知らない海斗くんを。


 いちばん長く見てきた人。


 家から出られなかったころ。


 植え込みの奥へ逃げたころ。


 世界へ行くと言った日。


 帰ってこない息子を。


 ずっと、待っていた人。


 私と目が合った。


 海斗くんのお母さんが。


 何度も、頷いた。


 声は、聞こえない。


 でも。


 ありがとう、と。


 そう言っているように見えた。


 私も。


 小さく、頭を下げた。


 涙が出そうになった。


 まだ。


 泣かない。


 このあと。


 誓いがある。


 音がある。


 私は。


 あごを、少しだけ上げた。


    * * *


 私の家族もいた。


 お母さんは。


 控室で見たときより。


 目を赤くしている。


 さっきまで。


 私の髪へ櫛を入れていた人。


 いまは。


 少し離れた場所から、私を見ている。


 お父さんは。


 背筋を伸ばして座っていた。


 いつもより。


 ずっと、かたい顔。


 でも。


 膝の上で握った手が。


 わずかに震えている。


 NAKANOで。


「休めばええ」


 と言ってくれた人。


 何も聞かずに。


 温かいお茶を置いてくれた人。


 お父さんと、目が合った。


 すぐに。


 目をそらされた。


 泣いているところを。


 見られたくないらしい。


 隣で。


 美月お姉ちゃんが、笑っている。


 お父さんの横顔を見て。


 何かを言った。


 お父さんが。


 小さく、にらむ。


 そのやり取りが。


 いつもの中野家のままで。


 私は、少しだけ笑った。


    * * *


 ほのかもいた。


 私と目が合うと。


 両手を握って。


 小さく振った。


 声を出せないから。


 口だけが動く。


『きれい』


 そう言っている。


 たぶん。


 あとで会えば。


「思ったより、ちゃんとしてた」


 とか。


「歩き方、少しかたかったよ」


 とか。


 いつものように言うのだろう。


 私が。


 音を鳴らせなかったころ。


 卵焼きを見ているだけの私に。


 何でもないように話しかけてくれた人。


 自分の音を見つける前から。


「菜々子の音には、物語がある」


 と言ってくれた人。


 私は。


 ほのかに向かって。


 ほんの少し、笑った。


 ほのかの目が。


 すぐに、潤んだ。


『泣かないでよ』


 私が、口だけで言う。


 ほのかは。


『そっちこそ』


 と返した。


    ◆◇


――慈恩


 ぼくは。


 いちばん後ろにいた。


 前へ出るのは。


 好きではない。


 後ろから。


 見えるところだけ、見ている。


 それくらいが。


 ちょうどいい。


 糸みたいな目を。


 久しぶりに。


 少しだけ、開けた。


 境内の真ん中に。


 二人がいる。


 白無垢。


 紋付き。


 海斗くんは。


 なかなか、似合わない格好をしていた。


 顔が。


 かたすぎる。


 世界の頂点で。


 あれだけ走っている人が。


 今日は。


 一歩進むだけで、緊張している。


 あの子は。


 ずっと、先へ行く人だった。


 植え込みを出て。


 世界まで。


 止まらずに、走った。


 いまも。


 世界の頂点を走っている。


 でも。


 今日は。


 ひとりで、先へ行かない。


 菜々子ちゃんを待って。


 同じ一歩を、踏み出そうとしている。


 菜々子ちゃんは。


 ずっと、見る人だった。


 見たものを。


 日記に残した。


 音にした。


 でも。


 一度。


 見ることの中で、自分を見失った。


 半分になって。


 立ち止まった。


 そこから。


 自分で戻ってきた。


 ぼくが、戻したんじゃない。


 お父さんでも。


 海斗くんでもない。


 みんな。


 すこしずつ、そばにはいた。


 でも。


 最後に立ち上がったのは。


 菜々子ちゃんだった。


 自分の音を見つけて。


 自分の足で。


 今日、ここまで歩いてきた。


 そして。


 二人のまわりに。


 見覚えのある顔が、いくつもあった。


 中野さん。


 奥さん。


 美月ちゃん。


 海斗くんのお母さん。


 音大の友達。


 神宝町の人たち。


 かつて。


 自分の声に酔って。


 人の声を聞けなかった、歌うたいもいる。


 いまは。


 静かに座って。


 二人を見ていた。


 その隣には。


 家族がいる。


 ぼくのところへ来た人。


 ここへ来る前から。


 自分で歩いていた人。


 立ち止まった人。


 別の道を選んだ人。


 それぞれが。


 それぞれの生活を持って。


 今日、ここにいる。


 ぼくが。


 救った人たちではない。


 ぼくは。


 少し、口を出しただけ。


 種を渡しただけ。


 歩いたのは。


 その人たちだった。


 その人たちが。


 いま。


 新しい約束をする二人を見ている。


 見てきた子が。


 今日は、見られている。


 植え込みにいた子が。


 今日は。


 だれかの隣で、立っている。


 胸の奥が。


 ゆっくり、動いた。


 嫌な感じだった。


 何かが。


 こみ上げてくる。


「あー」


 声を出す。


「めんどくせぇ」


 今日は。


 語尾が、伸びなかった。


 目の端から。


 何かが、落ちた。


「パパ」


 隣から。


 葵の声がした。


「なんです?」


「なんで、泣いてるの?」


「泣いてないですー」


 語尾が、伸びた。


 すぐに。


 葵が、ぼくの顔をのぞきこむ。


「泣いてる」


「煙が、目に入ったんですよ」


「ここ、煙草すってないよ」


「そうでしたっけ」


「そうだよ」


 逃げられなかった。


 葵が。


 ぼくの袖を、つかんだ。


「うれしいの?」


「さあ」


「うれしいんでしょ」


「どうでしょうねー」


 また。


 語尾が伸びる。


 ばれている。


 隣で。


 妻が、小さく笑った。


 何も、言わずに。


 ハンカチを差し出してくる。


「いりませんよ」


「そう」


 妻は。


 引っこめなかった。


 仕方なく。


 受け取った。


 目元へ当てる。


 葵が、笑う。


「やっぱり、泣いてる」


「めんどくさいですねぇ」


 ぼくは。


 糸みたいな目を。


 また、少しだけ閉じた。


 いつもの、ぼくに戻る。


 でも。


 胸の奥にあるものは。


 戻らなかった。


 めんどくさいくらい。


 幸せな朝だった。


    ◆◇


――菜々子


 いちばん後ろに。


 慈恩さんがいた。


 葵ちゃんと。


 奥さんの隣。


 目元に。


 ハンカチを当てている。


 私と。


 目が合った。


 慈恩さんは。


 すぐに、ハンカチを下ろした。


 糸目のまま。


 片手を、軽く上げる。


 いつもと同じ顔。


 でも。


 泣いている気がした。


 聞かなくても。


 分かった。


 だから。


 聞かなかった。


 私も。


 小さく、頭を下げた。


 慈恩さんの近くには。


 神宝町で出会った人たちがいる。


 歌うことを。


 やめようとしていた人。


 立ち止まっていた人。


 自分の道を。


 もう一度、選んだ人。


 みんな。


 それぞれの顔で。


 私たちを見ている。


 この場所にいる人たちは。


 十五年前の。


 植え込みのことを。


 全員が知っているわけではない。


 私たちが。


 別れた夜を。


 知らない人もいる。


 自分の音が鳴らず。


 私が泣いたことを。


 知らない人もいる。


 それでも。


 それぞれの時間で。


 私か。


 海斗くんか。


 どちらかを、見てくれていた。


 人は。


 一人の目だけで。


 ここまで来るのではない。


 たくさんの人に見つけてもらい。


 ときには。


 何も聞かずに、そばにいてもらい。


 自分でも。


 自分を見失わないようにしながら。


 ここまで、歩いてくる。


 今日。


 私は。


 その人たちに、見届けてもらう。


 しょうにんは。


 私一人ではなかった。


 ここにいる人たちも。


 私たちの、しょうにんだった。


    * * *


 雅楽が、始まった。


 低く。


 長い、笛の音。


 私のフルートとは違う。


 土や。


 木や。


 遠い時間の中から、響くような音。


 笙の音が。


 朝の空気へ広がっていく。


 その音に包まれて。


 海斗くんが。


 私を見ている。


 私は。


 海斗くんを見る。


 でも。


 二人だけではない。


 両側に。


 私たちを見てくれる人たちがいる。


 雅楽の音が。


 ゆっくり、前へ進む。


 私も。


 一歩を踏み出した。


 玉砂利が鳴る。


 白無垢の裾が揺れる。


 海斗くんも。


 私に合わせて、歩きはじめた。


 一人が先へ行き。


 もう一人が追う歩き方ではない。


 同じ速さで。


 同じ場所へ向かう。


 参進。


 この先に。


 誓いがある。


 そして。


 最後には。


 まだ、だれも最後まで聞いていない。


 私の音が待っていた。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


notoやってます。

マガジンお仕事物

https://note.com/happy_duck8972/m/m87f735c2539e


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