第35話「世界の、舞台」
海斗が、とうとう世界の舞台へ立ちます。
ヨーロッパの、大きな試合の舞台。
そこに、僕は、立っていた。
スタジアムは、満員だった。
何万人もの、声。
波みたいに。
押し寄せてくる。
二部とは、違った。
すべてが。
速さも。
人も。
桁が、違った。
芝の、青くさい、匂い。
夜の、ライト。
心臓が、速く、鳴っていた。
ぱく、ぱく、じゃ、ない。
とん、とん、と。
まっすぐ。
世界の、選手たちは。
ボールが、来る前に。
もう、見ていた。
首を振って。
周り、全部を。
ボールが、足に、つく前に。
次に、どこへ、出すか。
もう、決まっている。
速いんじゃ、ない。
見えているんだ。
先に。
全部。
何年も前。
僕は、それが、できなかった。
追っても、追っても、届かない背中を見て。
こわい、と、手紙に、書いた。
あの子に。
二部の、デビューでも。
半歩、遅くて。
ボールを取られた。
でも。
あれから。
僕は、走るだけじゃ、なくて。
見る、練習をした。
朝も。
夜も。
首を振って。
周りを見て。
ボールが、来る前に、決める。
何度も。
何度も。
誰にも、言わずに。
その夜。
ボールが、味方に、渡った。
僕は、首を振った。
右。
左。
後ろ。
相手の、守る選手が、どこに、いるか。
味方が、どこに、いるか。
全部、見た。
ボールが、来る前に。
そして。
見えた。
相手の、後ろに。
ぽっかり、空いた、場所。
誰も、いない。
半歩、速く。
僕は、そこへ、走った。
速さじゃ、ない。
見えたから。
そこに、いた。
ボールが、来た。
僕の、足に。
ちょうど。
僕は、蹴った。
ネットが、揺れた。
入った。
世界の、舞台で。
スタジアムが、揺れた。
僕の、名前。
何万もの、声。
でも、僕は。
叫ばなかった。
胸も、張らなかった。
ただ。
拳を握って。
空を見上げた。
そして。
心の、中で。
海の、向こうの子に。
言った。
見えたよ。
僕にも、見えるように、なった。
ななちゃんみたいに。
このゴールが。
僕の、返事だ。
試合の、後。
インタビューが、あった。
マイクを向けられた。
僕は、言った。
「ありがとう、ございます」
それから。
「チームメイトの、おかげです」
それだけ。
うまく、しゃべれない。
でも。
言葉に、しなくても。
さっきの、ゴールが。
全部、言っている、気がした。
最後に。
僕は、レンズを、見た。
二部のときは、ただ、向いただけだった。
今度は、まっすぐ、見た。
僕は、世界の、入口に、立った。
でも。
てっぺんは。
まだ、ずっと先だ。
もっと見る力を。
もっと上へ。
大丈夫。
見ててくれる人が、いる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この章で描きたかったのは、「速い選手」ではなく、「見える選手」になるまでの物語でした。




