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世界一のストライカー【見て書いてきた少女】  作者: KASANE
7/24最終回です

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第28話「残る色」

競い合った相手との別れは、勝った日より心に残ることがあります。

シーズンも、


終わりが近づいていた。


ボーフムは、


三位。


昇格プレーオフ圏。


あと二試合。


勝てば、


一部。


負ければ、


また二部。


クラブ全体が、


張りつめていた。


ロッカーも。


食堂も。


練習場も。


笑う人が、


少なくなった。


みんな。


一部へ行きたかった。


ぼくも、


同じだった。


    * * *


その日の練習。


ミニゲームが終わる。


笛が鳴る。


みんなが、


水を飲みに歩き出した。


ぼくは、


スパイクの裏についた芝を、


ベンチの角で落としていた。


コン。


コン。


乾いた音が、


グラウンドに響く。


「カイ」


顔を上げる。


マルティンだった。


いつもの笑顔。


でも。


今日は、


少しだけ違った。


笑っているのに。


目だけが、


笑っていなかった。


「話がある」


ぼくは、


うなずいた。


二人で、


グラウンドの端まで歩く。


誰もいない。


ゴールだけが、


ぽつんと立っていた。


    * * *


「オファーが来た」


マルティンが、


静かに言った。


「一部」


その一言で、


全部分かった。


来た。


やっぱり。


あの速さだ。


来ないはずがない。


「強豪だよ」


マルティンは、


少し照れたように笑った。


「観客も多い。


 お金も、


 すごくいい」


ぼくは、


何も言わなかった。


言えなかった。


うれしい。


でも。


少しだけ、


さみしかった。


    * * *


「カイ」


マルティンが、


ぼくを見た。


「きみにも、


 話はないの?」


ぼくは、


少しだけ笑う。


「小さい話なら、


 あったよ」


本当に、


少しだけ。


興味がある、


くらいの話。


でも。


ぼくは、


首を横に振った。


「ぼくは、


 ここで上がる」


マルティンが、


目を丸くした。


「プレーオフだよ」


「負けたら、


 また二部だ」


「分かってる」


ぼくは、


うなずいた。


「それでも」


「このチームで、


 上がりたい」


少しだけ、


風が吹いた。


芝が揺れる。


マルティンは、


ぼくを見たまま、


しばらく黙っていた。


やがて。


ふっと笑った。


少しだけ、


さみしそうに。


「きみは、


 へんだ」


ぼくも、


笑った。


「よく言われる」


二人で、


少しだけ笑う。


それから。


マルティンが、


右手を差し出した。


「カイ」


「きみと競えて、


 よかった」


「きみのおかげで、


 ぼくも、


 速くなった」


ぼくは、


その手を見た。


三年前。


追っても。


追っても。


届かなかった背中。


その背中が、


今。


同じ高さで、


手を差し出している。


ぼくは、


その手を握った。


固い手だった。


練習で、


何度も転んできた手。


何度も、


ボールを追ってきた手。


その温かさが、


少しだけ、


胸に残った。


    * * *


数日後。


マルティンは、


旅立った。


ロッカーの、


十九番。


ユニフォームは、


もう無い。


スパイクも。


タオルも。


ロッカーだけが、


ぽつんと空いていた。


ぼくは、


その前で、


少しだけ立ち止まる。


やっと。


ぼくのポジションが、


空いた。


でも。


うれしくなかった。


本当は。


ピッチで勝って、


取りたかった。


マルティンから。


レギュラーを。


実力で。


それは、


もうできない。


少しだけ、


悔しかった。


    * * *


監督が、


ぼくを呼んだ。


「カイ」


背番号二十七の、


ユニフォームを渡される。


「次も、


 スタメンだ」


ぼくは、


受け取った。


ユニフォームは、


少しだけ重かった。


期待。


責任。


全部、


入っている気がした。


ロッカーへ戻る。


十九番は、


まだ空いている。


ぼくは、


その前で、


小さく頭を下げた。


ありがとう。


心の中だけで、


そう言った。


    * * *


速い背中は、


もういない。


追いかける相手も、


いなくなった。


だったら。


今度は、


ぼくが前へ出る。


ぼくが、


このチームを、


引っぱる。


昇格で、


証明する。


この席が、


まぐれじゃないことを。


この三年間が、


間違いじゃなかったことを。


ぼくは、


スパイクの紐を、


ぎゅっと結び直した。


右。


左。


もう一度、


強く引く。


ほどけないように。


ぼくの覚悟も、


ほどけないように。


外では、


夕日が、


芝を赤く染めていた。


プレーオフまで、


あと少し。


本当の勝負は、


これからだった。

追いかけていた背中がいなくなったとき、人は初めて、自分の背中で誰かを導く立場になります。

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